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巻頭特集【MOOV,discussion】3S活動が、会社、生き方、考え方を正反対に変えた。

※この記事は、2012年3月30日に発行された内容です。

「整理・整頓・清掃」によって生産性や品質向上を図る「3S活動」。
表紙の写真は、自社の「3S活動」を公開している山田製作所の工場見学会における朝礼のひとコマ。見学者は社員の真後ろに位置し、朝礼からあたかも社員のような気持ちで参加することになる。
創刊号のMOOV,press巻頭は、「3S活動」について学習できる工場見学会を開催している山田製作所・山田社長と牧岡合金工具・古芝社長に、その可能性や魅力について語り合っていただいた。


世界中から工場見学のオファーが殺到する山川製作所と枚岡合金工具。
会社を変えた両社の「3S活動」の秘密について語り合っていただいた。

株式会社山田製作所代表取締役社長 山田 茂 氏
趣味は大型バイクでのツーリング
枚岡合金工具株式会社代表取締役社長 古芝 義福 氏
趣味は釣りと日本各地で美味しいお酒を飲むこと

山田製作所の山田社長も、枚岡合金工具の古芝社長も家業を継ぐ形で経営者となったが、3S活動開始以前の会社は、両社とも「床全部がゴミ箱。ここで70歳まで働くのは絶対に嫌や!」と思っていたという。
しかし、3S活動に取り組んだ結果、今では両社とも世界中から年間200社以
上の企業が工場見学会に参加するまでになった。

■工場見学会は社員が成長する舞台でもある

(山田)
工場見学会を始めたのは、知人の経営者から「3S活動の様子、ちょっと見せて」と言われたのがきっかけで。
嬉しくで喜んで見てもらいましたね。今もその気持ちは変わりません。

(古芝)
当社も活動開始当初は見に来られる事など想像もできなかった。
でも、3S活動を始めて2年目ぐらいの時、些細な縁から松下電器産業の課長研修で見学会場に選ばれたのがきっかけで。
当時は、社員同士が3S活動を褒めあうのは恥ずかしいと思ってた(笑)。
でも見学に来られた松下電器産業の社員の方々が、古めかしい外観と社内の美しさのギャップに驚いてすごく褒めてくれたんですよ。
その瞬間「あの松下電器産業の社員に褒められたって事は、俺たち凄いことやってる!」と、初めて自分たちの活動を客観的な立場から見てもらうことで、一気にモチベーションが上がりました。

(山田)
我々も初めて社員に工場見学会の案内役をお願いした時、彼らの心が変ったんですよ。
1時間の工場案内を社員一人でやりきった後、その社員に自信があふれている姿に気がついたんです。
それ以降はずっと社員が工場案内の役目を担っています。
工場見学会は皆さんに見ていただく場ですが、半分は当社の社員教育の場でもあるんですよ。

(古芝)
3S活動開始当初より我々の社内にも3S反対派がいました。
でも、反対派の人も松下電器産業が見学に来ると聞いて一生懸命やるわけですよ。
そして、見学会が終了したら社員全員に充実感が満ちていたんですよ。
それで「これや!」と。
いくら外部研修に行っても変わらない社員も、工場見学会なら変わると積極的に見学の受け入れを始めました。
すると社内全体に「おもてなしの心』が生まれたんですよ。

(山田)
お互いの3S活動を見ると、やっぱり得意な部分は違いますよね。

(古芝)
そうそう、それぞれ特徴がね。
山田製作所に追いつきたいけど難しいかなと思っているのは、先輩が後輩に教える伝承制度ですね。
もはや制度というよりも魂のバトンリレーなんですよ。
あれは真似できない。
何のために3S活動をするのかという軸ができているからだろうね。

山田製作所の工場案内では、改善に取り組むきっかけになったエピソードなども交えて、3S活動のポイントや成果を工場スタッフ自らが約1時間掛けて説明する。
その後、山田社長から3S活動を実践するための講義がある。

■3Sのために町工場がソフトウェアを開発

(山田)
うちが古芝さんの会社に勝てないと思うのは、やはり「情報の整理」。
当社も活用させていただいている「デジタルドルフィンズ」という文書管理ソフトの開発・販売で第二創業されているぐらいですから。
「デジタルドルフィンズ」は、仕組みづくりが会社に根付いている枚岡合金工具だからこそ開発できたと思います。

(古芝)
3S活動開始後の2001年に1S09001の認証取得をした頃、製造現場の社員が書類を探しているのを見た時に「これは紙じゃなくて情報を探している」と気づいたんです。
情報を探すことに膨大な時間を費やしているのは大きなムダだろう、と。
そこで、私の兄である会長が情報閲覧を机上で自己完結できるソフトウェアを作ったのが最初です。
これを元にして開発したのが「デジタルドルフィンズ」です。
山田製作所さんにも導入いただいて、工場見学会でも宣伝していただいているようでうれしいですね。

(山田)
本当に良いんですよ(笑)
『整理・整頓•清掃』の3S活動で最も難しいのは『整頓』
なぜなら『整頓』は仕組みづくりですから、トップの姿勢を見せるのが難しいんです。
加えて、工場よりも事務所の方が3S活動を徹底するのが難しいんですよ。
なぜなら工場は作ったら出荷しますが、事務所は書類などが溜まる一方ですから。
にもかかわらず、枚岡合金工具さんは事務所の『整頓』が完璧だから凄い。
今まで1時間かかっていたことをIT化によって1分でできるようにする仕組みづくりこそが、枚岡合金工具さんの3Sの凄さなんですよ。

(古芝)
ものづくりの現場には躾や掟が昔からあるのですが、間接部門には全く存在しません。
だからこそ3S活動が最も必要なんです。
これが情報の3Sで、「デジタルドルフィンズ」を使って情報の3Sに取り組むと、会社の風景や働く人の心が変わりますよ。

(山田)
当社も導入したら変わりましたねぇ。

(古芝)
ありがとう。本当に嬉しいです(笑)
3S活動とITを絡ませていくことが当社の得意技ですから。
普通の企業が、ITを企業文化にまで落とし込むのは難しいですよ。
並大抵じゃない努力の継続が必要ですから。

大人数で狭いエリアを集中的に清掃するのが3S活動の清掃。
その方が成果が見えてモチベーションにつながるという。
部屋の隅や機械の背後はもちろん、床も雑巾で磨き上げる。
【デジタルドルフィンズ】
製造業の現場で生まれた文書・図面管理システム。
導入すると、書類探しのコスト削減、顧客対応のスピートアップを実現し、
営業スタイルまでも変化する。

■ライバルがいたから切磋琢磨できた

(古芝)
山田製作所さんとは13年以上ずっとお付き合いしてきて、情報交換しながら切磋琢磨してきました。
山田さんが天井塗ったら「うわ!天井塗りよったで!ウチも塗ろうやないか!」と。
そして天井を塗ったことを自慢しに行くと、ものすごい良くできた消耗品の管理パネルができていて「うわ!またやられた!」って(笑)

(山田)
そうそう(笑)。
本当に良い意味でのライバルで、切磋琢磨という言葉がピッタリかもしれませんね。
本気だからこそぶつかって磨かれるんですよ。
さらに、その様を見て、『大阪リエンジニアリング研究会』に磨きあう風土が生まれ、さらに日本各地に3S活動でつながるグループが今もなお生まれ続けているのもうれしいですね。

(古芝)
毎年「3Sサミット」を開催して、もっと広げていきたいよね。
3S活動って人をつなげる不思議な魅力があるんですよ。

(山田)
確かにありますね。
事業革新や経営革新と呼ばれるアクションの中でも最も簡単に見えて導入しやすい。
でも、軽い気持ちで導入すると、必ず挫折するのが3S活動なんですよ。
だからこそ、我々を行政やメディアが取り上げてくださるんでしょう。
3S活動にきちんと取り組めば、企業の付加価値は確実に上昇するのは間違いありません。

■3Sはライフスタイルをデザインするツール

(古芝)
それにしても、これだけ多くの人に工場見学会に参加していただいたり、注目してもらうとは想像つきませんでした。
注目してもらったきっかけは、3S活動を始めて7年後に出演したNHKの番組です。
これでメディアの取材が一気に増え、その記事を見て全国から工場見学のオファーが押し寄せました。
そうなると、見学者の方にカッコ悪い姿は晒せないと、社員の3S活動にさらに力が入って…という好循環が今も続いています。
先日は女性向けファッション雑誌CanCamに取り上げていただきました。
3S活動によって信じられない出来事が起きてます。

(山田)
CanCamはスゴイね。
でも、テレビは当社の方が早かったし出演回数も多いからね(笑)

(古芝)
確かに…(笑)

(山田)
山田製作所も『良い現場は最高のセールスマン』を実践して、いかにして新規顧客を増やしていくかが3S活動の目的でした。
その後、生産革新に気づいて、さらに社員の成長ツールになることに気づいて…。
いつの間にか当社も枚岡合金工具さんも、1年間に数百社が訪れるようになって、講演で話をする立場になっていました。
3S活動で、会社が違うステージに突き抜けましたね。
山田製作所が凄い技術や製品を持っているわけではないのに、世界から注目される企業になっている。
私自身も今の姿は想像できませんでしたね。

(古芝)
最近は、海外からも工場見学会に来られるしね。
小さな町工場にアフリカから人が来て、我々が案内をする…そんな姿、さすがにイメージできなかったね。
僕たちが言うのもなんやけど、やっぱり3S活動は凄い。
生き方や考え方を変えていくと言うか、カッコ良く言えばライフスタイルデザインのツールだと思います。
そして、企業だけじゃなく社会や世の中を変えていぐソールにもなっていくんじゃないかな。
そんな素晴らしいツールの伝導師として、今後もさらにアクティブに活動していきたいね。
まずやってみる、これも3S活動の精神で、ダメなら元に戻せばいいんです。
最初から満点を取ろうと思ったら動けないし、撤退できない。
でも、35点主義ならすぐ取り組めるし、撤退しやすい。
しかも撤退時の傷も浅い。
でもね、そう思ってやったことで撤退したことなんてないんですよ。

(山田)
まずは取り組んでみる、重要ですよね。
誰にでもできることを誰にもできないくらいに挑戦することが3S活動の真髄。
そこは人間的成長ができるステージなんですよ。
学びには必ず実践が必要ですから、多くの人に3S活動という実践のステージで活躍してもらえるようにお手伝いしていきたいですね。

■企業情報

株式会社山田製作所(大東市新田中町2-41)
ステンレスを含め、幅広い材料を使尾した各種製缶部品や板金部品を製造している。

枚岡合金工具株式会社(大阪市生野区巽中2-7-22)
冷間鍛造金型やボルト・パーツフォーマー金型の設計・製作のほか、
文書管理・図面管理システム「デジタルドルフィンズ」の開発・販売を行っている。

写真:北尾浩幸 photo-Hiroyuki Kitao 文:中 直照 text-Naoteru Naka


■MOOV,press vol.01 記事一覧


■編集後記
祝!創刊号。
MOOV,pressがスタートしました。
大阪府全域を取材でまわり、経営者とお話をすると、ほとんどが明るくワクワクするようなお話ばかり。
これを共有しない手はないと強く感じました。
MOOV,pressでは「知る」そして「動く」さらに人を「槃ぐ」を加速するため、これからも変革と挑戦を続けていきます。
Facebookでも取材奮闘記を公開中。(浅野)


■スタッフ
企画・編集
株式会社ファイコム

編集長
浅野 由裕(faycom)

編集
杉田 順治(faycom)

アートディレクター
北村 竜司(CURRENT)

ライター
中 直照/野崎 泉/細山田 章子/山下 朋子/山口 裕史

印刷
有限会社山添


■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2012年3月30日発行


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