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巻頭特集【MOOV,MOBIO-Forum Report】「ものづくリビジネス環境ナンバーワン!をめざして」「大阪版エコノミックガーデニング」で、進取の気性に富む中小企業が長生きして繁栄するように応援する
※この記事は、2014年1月23日発行に発行された内容です。
エコノミックガーデニングは、米国コロラド州リトルトン市という人口5万人の町から始まった。
企業誘致に頼らず地元企業が成長する環境をつくるという地域経済活性化策だ。
リトルトン市では、エコノミックガーデニングに取り組んだことによリ、1990年から2005年までの間で就業者数が約1万5千人から3万5千人に増加、市の売上税収入も3倍になった。
この「リトルトンの成功」を日本に紹介し、エコノミックガーデニングに取リ組む地域を支援しているのが、拓殖大学教授の山本尚史氏。
今回のMOOV,press巻頭特集では、同氏を招いて、フォーラムを開催し、公開で収録を行った。
また、第2部では、「地元企業の成長、地域貢献のための産学連携とは」と題し、大阪の産学公の関係者によるパネルディスカッションを開催。地域経済を活性化させる最も効果的な政策は何か、地域のものづくりビジネス環境の決め手になる産学公の連携はいかにして可能かといったテーマで語ってもらった。
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■<第1部:基調講演>
産学公民金の絆を活かして、
「ものづくりをするなら大阪が一番」といわれるような
大阪版エコノミックガーデニングは可能だろうか?
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<基調講演講師>
拓殖大学政経学部経済学科長 教授
山本 尚史氏
結論から言えば、大阪でエコノミックガーデニングは可能です。
ただし、大阪版エコノミックガーデニングが成功するには条件があります。
民間のパートナーの存在、キーパーソンのリーダーシップ、地域内連携、そして政争のネタにしない、この4つを可能とする状況が必要です。
望ましい未来のためには、地域の経済圏を畑や庭、地域の中小企業を作物や植物に見立て、地域の特性(土壌)を活かしながら地元の中小企業を育て、様々な苦難があってもレジリエント(回復カ)のある経済をつくることが大切です。
エコノミックガーデニングは、そのためのビジネス環境を整備することが目的です。
こうした取り組みを進めていくには既に他の地域にあるモデルを単に移植するだけでなく各地域の土壌に合ったテーラーメイドの様々な経済活性化のための活動が必要となってきます。
具体的な方法論としては、「経営者のスキルが向上する」「ビジネスチャンスが見つかる」「新しいビジネスが開発される」「事業承継が成功する」という4点を中小企業支援策のゴールと設定し、講習会、相互勉強会、ビジネスマッチング、企業認証制度、技術開発支援などを実施していくことになります。
そこで重要なポイントは、産学公民金の絆を有機的に深めつつ、人と人とのつながりをベースにした人的資源をフレキシブルに活用することです。
そして、エコノミックガーデニングを成功に導くには、ガーデナー(庭師)の役割を果たす大阪府、MOBIOのような支援機関が腕を振るうことが求められます。
我が国で人口減少が進む一方、爆発する途上国のニーズ。
これらがもたらす未来は、ぞっとする未来なのか、だれもが望む未来なのか。
今、地域主体で望ましい未来づくりのシナリオを描けば、大阪の中小企業がこれまで以上に世界に貫献できると思います。
■<第2部:パネルディスカッション>
地域の企業を育てる産学公連携とは?
地域という庭でどのような実りを育てていくのか?
キーワードは、「オープン」な関係性!
他のやらないことをやる。
それは中小企業が発辰的に生き残るための王道。
ニッチ市場を開拓するための産学公連携とは?
■オープンイノベーション体制で提案型の支援ヘ
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地方独立行政法人 大阪府立産業技術総合研究所 理事長
古寺 雅晴氏
(古寺)
大阪府I産挙技術総合研究所(産技研)は、地方独立行政法人として新たに出発し、ものづくリ中小企業やベンチャー企業への支援を行っています。
活動の3本柱は技術支援、技術相談、研究業務。
技術支援では受託研究、依頼試験、設備園放など企業のニーズに合わせた対応を行い、技術相談ではたとえば「ステンレスって何ですか?」といったごく初歩的なご質問にもお答えしています。
また、製造現場へ職員が出向いての技術相談や技術の実用化支援も無料で行っています。
産技研として重要な業務と考えている3本目の研究業務では、顧客サービス課の中に立ち上げたリエゾンチームが、大学、金融機関、行政を含む様々な団体と連携を密にしながら各種の共同研究を進めています。
このような横のつながリの中で従来の枠組みを超えた支援を実践していこうという動きを、私たちは「オープンイノベーション体制」と呼んでいます。
受け身ではなく「提案型」の支援につなげていくことをめざしています。
産技研では、研究所という意味では、シーズ研究もやっているが、企業支援の現場としては、非常に忙しい。
今後は、こうした両者のバランスをうまく保ちながら、ビジネスモデルの構築や事業化までの一貫した支援を、様々な機関と連携して実施していきたいと考えています。
■産学連携は企業にとっての心のよリどころ
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関西オートメーション株式会社 代表取締役
宮坂 典央氏
(宮坂)
1969年に設立した弊社は、レベル計並びに環境機器の製造販売を行っている会社です。
同志社大学の生命医科学部、理工学部、関東の方では法政大学の理工学部と産学連携を行っておリ、欧米とアジアの業界関連の組緞と技術提携を結んでおります。
弊社の場合、産学連携に至った背景が3つあります。
石油化学、製粉、飲料など製造プロセスにおけるタンクやサイロには内部の容量・体積を計るレベル計が必ず使用されております。
昔は求められる機器だけを作っておればよかったのですが、近年では国内外約50業種とカバーすべき分野が広がり、あらゆるプラントの知識の習得が求められるようになったことが1つ。
2つ目は、注文に応じて作ってきた特定業種に対応したレベル計のノウハウと技術を厖広い業種に横展開していくためにどうしても基礎技術の確立が急務になったということです。
3つ目は中小企業にとっての永遠の課題である人材育成で、技術員の独学は限界があり、大学との連携が大きな支えになっています。
産学連携の目に見える成果としましては、同志社大学と法政大学との連携による製品開発で、現在試作品の完成まで進んでおります。
そしてなにより、大学の先生や院生と直接電話ができる関係を構築することは、企業にとって大きな「心のよりどころ」になっています。
■大学と企業が一緒になって社会課題に挑戦する
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大阪大学産学連携本部 教授
兼松 泰男氏
(兼松)
宮坂さんのお話を聞いていて、こういうのが基本的な産学連携なんだろうなと思いました。
私は2000年から、大阪大学のベンチャービジネスラボラトリー(VBL)というところに職を得まして、その後、10数年間産学連携に携わってきました。
1990年代前半に産学連携が言われだした頃は、大学内部から出てきた成果を社会に送り出すための特許や契約の整理が主な取り組みでしたが、その後、ベンチャーをつくるという流れになっていきました。
しかし、それでよかったのか。
本当の意味での産学連携にはなっていなかったような気がします。
一方、技術移転だけでなく、人材育成も重要な柱です。
1996年に設立されたVBLの理念は「将来の科学技術のためになるような先端的な研究をやりましょう。将来の産業をささえるような人材を育てましょう」というものでした。
それ自体はまともな考え方だったのですが、大学職員の間でベンチャービジネスというものに対する違和感のようなものもありました。
早すぎたキーワードだったんです。
大学の立場から産学連携を考えれば、社会貢献という側面が重要な柱になります。
大学自体が社会に貢献するために産業界と一体となって、世の中に新しい技術や広汎な知識を届ける。
あるいは社会の中の問題を解いていく。
社会の中で、その役割を担える人を輩出していく。
そのような本来の大学の役割にステップバックしましょうということで、大阪大学では2012年5月にe-square(大阪大学サイエンス・テクノロジーアントレプレナーシップ・ラボラトリー)を開設しました。
e-squareは、コミュニケーションエリア、ものづくり工房、サイエンス工房などの機能を設図。
5階建ての各フロアはテーマ別に構成され、すべてがオープンスペースになっています。
異分野融合カフェなどを活用し、学生、教員、そして企業の方々が一緒になってイノベーションを加速する協働の輪を広げ、社会が求める課題解決に向かって一緒に進んで行ければと願っています。
先ほどの山本先生のお話にあったエコノミックガーデニングの一要素としてe-squareは機能できるのではないかと思っています。
■立場により色合いの異なる産学公連携のビジョン
(宮坂)
私どもの会社が産学連携に取り組み始めた7~8年前は、まだあまり産学連携が言われていなかった時期でした。
どうしても研究者の支援を仰ぎたくて、私はインターネットで大学にいらっしゃる専門家の先生を探しまわり、直接メールで連絡しました。
幸いなことにとても良い先生とコンタクトをとることができ、「研究室に遊びにおいで」と言ってくださってお付き合いが始まりました。
大手企業の場合は社員と先生との大学時代からの関係性で出身の研究室へのアクセスは難しくないと思うのですが、そういった人材が必ずしもいない中小企業にとって、産学連携を始めるに当たって一番難しいのは「入り口」を見つけることなんです。
ですから、いきなり産学連携というと敷居が高いので、社会人が在校生と一緒に授業を受けることができたり、それこそお茶を飲みながらというような、もっと気楽に大学の先生方とコミュニケーションを持てる地域参加型の場があればいいと思います。
それから、産技研についてですが、よく活用させてもらっているのですが、製品を開発して海外に売り出そ
うという場合、必ず各国の規格がある。
認定には、公的な証明が必要なので、公設試にこれをお願いするのですが、日本は認定が遅い。
韓国等は認定が早いんです。
半年から1年くらいの差になっている。
いろんな公設試が認定のための証明手続きをしてくれると思うのですが、窓口もわかりにくい。
まずは、そのPRからでも始めてほしいと思います。
(山本)
どこの大学、どの先生と組めば良いのか、その仲立ちをしてくれるところがないというご指摘はその通りだと思います。
また企業が海外進出をする時に、宮坂さんは規格のことを話されましたが相手の国にどんな企業があるのか、信用性はどうなのかというのも企業としては情報がほしいところです。
では、公設試の観点から大学との関係、地元のどのような企業への支援を実践しているかについてお話していただきたいと思います。
(古寺)
どのような企業をサポートするかということなんですが、大学はどちらかというと高度な研究の成果を創出するという方向性、つまリ先端技術を扱う企業と連携する傾向があると思います。
公設試である産技研は、製造課題への対応、助言が役割で、トップレベルの企業に限らず、生産面で一番悩みの多い中小企業をサポートしています。
大学との役割分担ということでは、先端的な研究者を育てるというのが大学の一つの役割だとすると、産技
研はものづくり企業と一緒の土俵に在って実践的な人材を育てるということになると思います。
それと、産技研には府内の企業のデータベースが何万件と揃っていて、もちろん守秘義務がありますが、産技研に依頼があれば活用することができるんですね。
こういったデータもうまく活用できれば、大阪の企業のためになるのではないかと思っています。
■地域という庭で、豊かな実りを
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拓殖大学政経学部経済学科長 教授
山本 尚史氏
(兼松)
大阪大学にも、産学連携本部、データベースもありますが、それを活用して、マッチングまでできるかというと難しい面もあります。
ただ、インフォーマルパスで、どの先生に頼めばいいのかというのはわかるんです。
ですから私が描いているのは、すぐにできるかどうかは分かりませんが「入り込んで来ていただける仕組み」を作れないかということです。
聴講生みたいなものを学びのコアとして、大学のリソースにアクセスできる仕組みです。
たとえば企業の方が親しくなった学生たちに「いろんなところへ行って情報を集めてきてもらえないか?」といった話ができる場づくりです。
e-squareをそんな場にできるのではないかと考えています。
また、大学というのは公の存在なので、やはり社会的な課題にチャレンジすることが必要です。
今、福島県の放射性物質の自然浄化作用を測定するため、産学連携で装霞とシステムを製作しています。
信頼性の必要となるシステムや装臼を実装するとなると、企業の方々の力が鍵になるというのが実感です。
大学単体では、現場の要請に応えることができない。
そういう場合には、公設試と組んで企業の方々と効果的な連携をするというのもあるのではないかと思い
ました。
産学公の連携をベースにしながら、そこで大学と企業が一緒になって仕事をしていく。
そういうカタチであれば、もう少し余裕のある関係ができるのではないでしょうか。
(山本)
産学公連携は、一見同じように見えても、企業、大学、公設試それぞれで色合いが異なっているのだなということが分かってきました。
産学公という資産がそれぞれに手を結びながら、地域という庭でどのような実りを育てていくか。
そのヒントかいくつも語られたと思います。
ありがとうございました。
【収録】2013年1万う7日りそな銀行本店レセプションホール
■profile
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レベルセンサの専門メーカーとして、環境および安全対策として利用されるセンサを開発。
レベル計、還境機器の設計・開発・製造・販売を手掛ける
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未来の科学・技術アントレプレナーたちが育ち、さまざまな人々と出会う「場」
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大阪府のものづくり中小企業への技術支援拠点
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「地方経済を救うエコノミックガーデニング:地域主体のビジネス環境整備手法」(新建新聞社)
著者:山本 尚史
■MOOV,press vol.08 記事一覧
■編集後記
ネットで世界とつながってはいるがお隣さんは何をしているのかも知らない。
そんな現代的な孤立と孤独からものづくり企業を救う、力強い道筋を示すのが巻頭で紹介したエコノミック・ガーデニングの考え左地域の土壌(資源)を活かして、地域オリジナルな繁栄の花をいかに咲かせるか産・学・公・民・金、それぞれの庭師(ガーデナー)たちの連携を熱く深める機が熟していると感じます。(山蔭)
■スタッフ
企画・編集
株式会社ショーエイベストコーポレーション
編集長
山蔭ヒラク(ショーエイベスト)
ライター
工藤拓路(ショーエイベスト)
金井直子(ショーエイベスト)
写真
岩西信二(JPS)
アートディレクター
高谷朋世(キューブデザイン)
印刷
昭英印刷株式会社
■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
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2014年1月23日発行
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