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関西老舗の試作メーカー。一貫した体制で単品から量産品までスピーディに対応する技術力が強み

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株式会社渡辺製作所
代表取締役 渡邊 悠一 氏

■樹脂切削から金型製作・樹脂成型へ技術を広げ、多分野での試作に対応

創業から50年。
株式会社渡辺製作所は関西では老舗の試作メーカーである。

樹脂の切削加工から始まった同社は「試作=量産前提の製品」であることを重視し、ある時期から金型製作にも力を注いできた。

当初はOA機器分野での受注が大半だったが、金型が定着してからは自動車分野や医療分野での受注も多い。
その他にも航空機分野、弱電分野、産業機械分野などからも引き合いがある。

そんな同社の強みはなにか。
代表取締役の渡邊氏はまず「技術力」を挙げる。同社の社員数は約70名だが、そのうちの30名は製造部員。
しかも全員がエンジニアだ。

「今はいい機械があるので仕上がりに大差はないかもしれませんが、お客様からの要望に改善策を提案したり、すばやくレスポンスできるのはエンジニアだからこそだと思います」

また、「単品から量産品まで対応できること」も強みのひとつ。
近年、コストとの兼ね合いから単品を扱う試作メーカーは減っている。
その中で同社は依頼があれば1個からでも試作を請け負う。

「うちは金額的には安くないかもしれません。『渡辺さんのところは他社と比べて高いよね』と言われます。
それでも続いてきたのは、1個からでも手を抜かずに対応してきたからだと思っています。なんとかしたい時になんとかしてくれる企業だと言ってもらえるのはうれしいですね」

今後も小ロットは樹脂切削で、量産品は金型製作・樹脂成型でお客様のニーズにこたえていく方針だ。
その他にも「協力会社と連携していること」を強みに挙げる。
意匠部品では同社の製造工程以外に塗装やレーザーによる刻印などの別工程が必要とされる。

多数の協力会社とのパイプを持つことで前工程と後工程にも対応する一貫体制は同社の特徴のひとつである。

■先代たちとの意見の違いを乗り越えて、覚悟を持って社長に就任

渡邊氏が代表取締役に就任したのは2023年12月。
その前は常務取締役であり、さらにそれ以前は同社の製造現場で働いていた。

「実はいっしょに仕事をしていた兄が8年前に病気で亡くなったんです。それで私がこの会社を継ぐことになりました。長く現場にいたので最初は経営のことがわからなかったんです。知識がないとやっていけないと思い、5,6年前から覚悟を持って勉強し始めました」

そんな渡邊氏が「苦労したのは人間関係」と話す。
同社の創業者であり先代社長(現会長)は渡邊氏の父。
そして役員には同社の歴史をつくってきた人たちが名を連ねている。

「最初は先代たちとの折り合いがつかなかったんです。よくケンカをしていました」と苦笑する。
「先代たちにはここまでやってきたという自負がありますし、お前みたいな若造に何がわかるという思いもあったんでしょうね。私も話を聞かず、『その考えは古いから黙っとけ』と言わんばかりの態度をとっていました」

一方、経営層のそんな諍いに困ったのが社員たちだ。
会社で誰の言うことに従えばいいのかわからない状態が起こり始めたという。

「これはまずい。社員たちに先代たちとのぶつかり合いなど関係ない」と危機感を覚えた渡邊氏は態度をあらためた。それ以後は「先代たちの話もちゃんと聞こう」と決めている。

「今もたまにぶつかることはありますが、先代たちも『わかった』と理解を示してくれるようになりました」

また、経営者になることを意識し始めてからは社員たちとの交流も心がけてきた。

「製造現場にいたころは他部署の人たちのことはよく知らなかったんです。そこでまずは会うことから始めようと、東京の工場や浜松の営業所などに出かけていきました」

今も社員と顔を合わせて話すコミュニケーションを大切にしている。

大阪本社工場内
冨士工場

■もっとも大切な仕事は社員たちに未来のビジョンを見せること

同社の今後の目標はなにか。渡邊氏は自社製品の開発を挙げる。
その理由を「当社はお客様から依頼されて初めて製造する受注事業。それは外部環境の変化に左右されるということでもあるんです」という。

同社には数年前に開発した『Liquid Jet(リキッドジェット)』という製品がある。
水や消毒液を入れ、非接触で手を濡らせるように噴射する製品だ。

市場に出て約7年。
非接触が求められたコロナ禍で一気に販売数が伸びた。
同製品はポンプの圧力で下から上に噴射する技術で特許を取得している。

そして、次の自社製品として金型成型・樹脂成型の技術を活用した子ども用パズルなどを考案中だ。
動物の形をかたどった小ぶりなサイズのおもちゃである。

「やはり事業でも次の世代のことを考えていきたいですね。子どもたちが未来に希望を持つためにも大人たちが楽しそうに仕事をしているのを見せたい」と渡邊氏。

また、今、力を入れている取り組みとして『未来創造プロジェクト』を挙げる。
仕事を通じてどんな未来に向かっていくのか。
外部講師を招いた全員参加の研修だ。

「社員皆が豊かになるためにはやはり利益を出さなければなりません。それを全員で考えるのがこの研修の目的です。実はこの50年で研修を行ったのは初めてです。社員たちは戸惑っていたみたいですが、少しずつ建設的な意見が出るようになりました」

このプロジェクトは人事評価とも連動している。
仕事をした人がその分幸せになれる仕組みをつくりたいというのが同社の考えだ。

渡邊氏は経営に関与し始めた頃よりずっと「70人の社員とその家族を背負う責任を感じている」という。
コロナ禍で低迷した業績は前期から回復し、今期はさらに増収を見込んでいる。

「ただ、売上をあげることももちろん大事ですが、それ以上に大切な社長の仕事は社員に未来を見せることだと思っています」と語った。

同社初の自社製品『Liquid Jet(リキッドジェット)』
金型製作・樹脂成型の技術を活用した一例:子ども向けのアニマルパズル

■MOBIO担当者 兒玉のコメント

「技術営業(セールスエンジニア)」を早くから導入されている同社。
多くの取引先との信頼関係が築かれているゆえんは、社長のお人柄や先代社長との承継前後のいきさつから必然的に発生したものではないでしょうか。
今後も、時代のニーズに対し敏感に即応した新製品開発はもとより、多様な材料を扱う仕入れ先の開拓に余念がないなど、ゴールのないチャレンジに取り組んでいらっしゃる黒田社長から、まさに『熱い』お話をうかがいました。


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