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【MOOV,8cases】大阪のものづくりの今を知る、8ケース

※この記事は、2013年9月30日に発行された内容です。


下町のちょっとした感動ネタから、ここにしかないスゴ技、
人が集まりコラボが加速する場所まで大阪のものづくりの今を知る、
8ケース。

■業界の常識を変える
工業製品的発想による空間美創造プロダクト。

<Case1:技>
株式会社ワン・バイ・ワン(東大阪市今米2-1-39)

マックスマーラ、アルマーニ、イッセイミヤケ、アニエスベー…
世界的なファッションブランドの店舗へのデザイン性と機能性に優れた革新的なインテリア金物の供給や、―流自動車メーカーはじめ大手企業のショールームなどのインテリア設備の供給へと事業を拡大してきた株式会社ワン・バイ・ワン。

同社の製品作りが業界他社と大きく異なるのは、エ作機械など「工業製品を作る発想と技術」をインテリア什器に生かし、応用する独自の手法にある。
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998年に設立された同社の最初の製品は、プロスパー・ドット・システムと呼ばれる、店舗空間にハンガーやシェルフを極限的にまで目立たせずに配することができるインテリア金物。
アルミの切削加工やアルミダイキャストのベース部分が壁面に埋め込まれ、ステンレスのブラケットは簡単に着脱が可能。

見せるパーツを見せないパーツが支えるこのシステムは、棚を自在に動かせるライン型ベースの開発、LEDの採用など様々にバリエーションを拡げ、特許を取得し、他社の追随を許さない主力商品となっている。
シンプル・イズ・ベストに徹することで、主役としての商品を最大限に引き立てる同社の製品は、高感度な空間美を追求するデザイナーたちの創作意欲を刺激し続けている。

同社のものづくりに懸ける姿勢は、代表取締役幸島 邦晴氏の仕事への理念から発している。
「私には大きな挫折体験があり、それが仕事への思い、さらには生き方全体を変えました」と幸島氏。

インテリア関連会社の社員時代、ダントツの営業成績で関東方面の支店の采配を任されたものの、天狗になって周りとの協調を忘れ、孤軍奮闘の果てに過労でダウン。

その病床に母親から差し入れられた一冊の本(谷口雅春著「生命の実相」)を読むことで自身の生き方の間違いに気づいたという。
そして、我欲を脱して社会の役に立つことを第一義とする生き方へと転換。

「思い入れを込めた言葉は、すべてを創り出す」という信念のもと、空間に新たな価値を生み出すとともに地球環境と人にやさしい本物づくりをめざした理念を中心においた会社を設立した。

「空間美の具現化」というコンセプトのもと依頼主が絶賛する数々の成果を生み出してきた同社の事業ポリシーは「他社のやれないことをやる」

それを具現化したのが、2003年に森ビル六本木ヒルズの超高級マンションに納入したスライディングドア。
可動式パーテーション扉で、ガラス板とアルミフレームの総重量は約150kg。
天井面に埋め込まれた厚さ50mmのコンパクトな駆動部に吊り支えられ、ドアは床面に接地せず完全なバリアフリー、わずかの力で滑らかに動かせ、好みの位置で止めることができる。

業界大手が応えられなかった施主の要望を高品位な空間に溶け込む美しくシンプルなフォルムで実現した。
溶接をほとんど用いず、金属加工されたパーツの組み合わせで作られる工業製品の発想をもとに、ものづくりに対する熱い思いを共有する他社との連携から生まれたこの画期的な製品は内外の注目を集め、同社の海外へ
の進出をよリカ強く後押ししている。

協力:森ビル株式会社

■脱下請でメーカーに転じ社員の知恵で商品化約300アイテム。
ヒットを堅実に積み重ねる個性派ものづくり!

<Case2:人>
旭電機化成株式会社(大阪市東成区神路4-3-18)

少し年配の方なら「ザ・ガードマン」という丹波 哲郎主演のテレビ番組を覚えておられるだろう。
その中で使用されていた、100m先でも新聞が読めるという強力な光を放つ大型の携帯ライト。
それを今でも作り続けているのが旭電機化成株式会社。

プラスチックの加工成形を本業とする同社がメーカーに転じたきっかけは約20年前に代表取締役の原 直宏氏が行った台湾、中国の視察。
「最新の機械を揃えた巨大な台湾の工場では、高学歴の社員たちがやる気満々で働いている。中国では途方も
ない低賃金で工場が回っている。これは日本でいくら頑張っても勝ち目がない、と思いました」

帰国後、原社長は台頭するアジア勢力と争わず、知恵を技術に結びつけるものづくり戦略に向けて舵を切る。メーカーに転ずるため、不足していた社内資源である開発と営業の人材を確保するため、先述のライトを作っていた会社をM&Aで事業取得した。
そして、大手家電メーカーの退職者を採用するなど、オリジナル商品づくりのための社内体制を整備した。

「SMILEKIDS」ブランドで展開されている同社の商品ラインナップを見ると、防災・アウトドアに活躍する各種ライト、スィッチ付き多ロコンセントタップなどの定番商品のほか、高齢者でも楽に着火できるライター、背中に軟膏を塗るための孫の手兼用ツール、ワンプッシュで固いコンセントがスツと抜けるプラグ、LED付き先端部でくつきり見えて安心な耳かき等など思わず唸ってしまうような個性的なアイデア商品が目白押しだ。

「当社には感度の高いズバ抜けた商品はないですが、まず、自分たちが『こんなものが欲しかった』『あれば便利』と思う、生活者の困りことへの解決をカタチにするものづくリがモットーです」と原氏。

商品化のアイデアは社内外で常時募られており、社内アンケートなども行いながら新商品開発会議で採否が決
められる。
年間約40種の新商品が開発されるが、そのうち生き残る商品は3割弱から、多い年で4割だという。

製造は、自社で一貫生産。
工場は、大阪・愛知・三重のほか中国・台湾にも協力工場を持つ。

「今後は、日本に残る仕事が変わってくる。3Dプリンタなど知恵や売リ方が変わるような新しいものづくリも出てきている。こうした動きに対応して会社が変われるか?プラスチックの加工成形という自社のコア技術を活かしながら、これからも新しいものづくリにチャレンジいきたい」と将来を見据える。

最後に「今、いちばん期待されている新商品は?」という問いかけには、「誰でも楽に使えるレモン絞り器(写真)ですね」
生花用の剣山をヒントにした商品で、2歳の子どもでも無駄なくキレイにレモンが絞れるという。

一品一品に知恵と技、そして生活者への思いやりが込められた同社の心楽しいものづくリにこれからも注目したい。

■時代の最先端を走る自動車メーカーを的確な提案力と高い技術力で支える!

<Case3:技>
株式会社テクノアオヤマ(堺市中区深阪1931-1)

世界の自動車生産ラインヘシェアを拡げる、部品自動供給装置の専門メーカー、株式会社テクノアオヤマ。
業界からの厚い信頼は、現場から出た課題にピンポイントで応える提案力、それを形にする確かな技術力の賜物だ。永久磁石の力を利用してボルトを確実に保持し運ぶ自動供給機器が好評を得ていた同社に「運んだボルトの溶接作業を改良したい」という現場の声が届く。
従来のアーク溶接という方法が、自動車の軽量化で薄くなった鋼板に接合しにくくなり不良品が増えていた。そこで当社は「抵抗(スポット)溶接」の機能を自動供給機器に組み合わせた現在の主力製品「スタッドボルトフィーダー」を開発。
シンプルな構造で作業やメンテナンスが効率化、溶接品質も大幅にアップし、不良品激減によるコストダウンも実現した。
代表取締役の青山 省司氏は「世界のトップ企業からの高品質、安全最優先等の厳しい要請に独自の技術で応えていく、そこに喜びを実感します。ハイブリッド、電気自動車の次は何か。ものづくりに変化が起きた時にもフレキシブルに対応する力が必要です」と次代を見つめる。

■「あきらめない」ものづくり魂で、高品位なプレス加工を実現!

<Case4:技>
株式会社藤原電子工業(八尾市南木の本2-51)

創業20年、藤原電子工業は精密機器に使用されるプリント基板のプレス加工と、そのための金型製作で実績を重ねてきた。
同社のSAF工法は、プレス加工につきものの断面のバリや細かいホコリの発生をなくし、不良品発生率を大幅に抑える技術。
断面を切削するルーター加工を施せばバリをなくせるが、加工時間が掛かりコスト高になってしまう。
SAF工法の革新性は、ルーター加工並みの高品位な仕上がりをプレスのみで実現する点にある。
業界の中で一歩抜きん出る同社の技術は、藤原 義春社長のものづくりのスタンスから生まれた。
「言い訳、愚痴、責任転嫁。これは人間の弱点の3点セット。同時にそこには成長のチャンスが隠されている。『プレス加工だからこの程度でいい』『ルーターを使う予算がないから仕方がない』そんな気持ちの裏には、本当は満足しておらず、よリ良い製品を作リたいという欲求がある。そこに気づけば改良・改善の気運が目覚めます」
こうした持ち前の「あきらめない」ものづくり魂は、オリジナル商品の開発にも込められている。

■ニッチな事業でインフラを支える「はく離」専門カンパニー。

<Case5:場>
三彩化工株式会社(大阪市北区大淀中3-5-30)

鉄道、自動車、航空機、建築物などに施される塗装は、物体を保護し、美しく見せる効果があるが、検査や補修のため一定期間ごとに塗装が剥がされていることは意外と知られていない。
三彩化工株式会社は塗料をはがすために使用する“はく離剤専門メーカー”というニッチな分野で事業を展開。
塗料、素地、塗装状況、気温など多面的な条件で適切なはく離剤が決まるが、「どの分野、どんな状況の作業にも適応するはく離剤を開発し、供給できるのが当社の強み」と水野 富夫取締役営業部長は言う。
はく離は金属やコンクリート素地のものに限らない。
現場での指導を数多く手がける山岡 信雄大阪営業所長は「木材の素地を傷めないよう配慮しつつ、京都御所など文化的建築物の塗膜はく離もやりました」と振り返る。
同社は環境にやさしい製品の研究・開発を継続的に行っておリ、その成果であるネオリバー「非ジクロロメタン系」が現在の主力製品。
橋梁の塗り替え需要が見込める今後5年間はその対応に注力し、機を見てケミカル系のメンテナンス剤を新規開発し事業の新たな柱にしたいと意欲的だ。

■協働、そして情報共有。市民に開かれた新しいものづくり拠点!

<Case6:場>
ファブラボ北加賀屋(大阪市住之江区北加賀屋5-4-12コーポ北加賀屋107)

私たちのライフスタイルにも影響を与えそうな「ファブラボ(FABLAB)」から目が離せない。
今世紀初めから試みが始まったファブラボは、現在、世界50か国に広がり、日本でも近年活動が開始された「市民工房のネットワーク」だ。
今年4月には、関西初の拠点が北加賀屋に開設された。
工房には3Dプリンター、レーザーカッター、CNCルーターが設置され、雑貨のような小物から家具などの大物まで、自分たち自身で学びながら作ることが可能。
「企業でしか作れないと思っていた物が、いろんな分野の人たちと意見交換して試行錯誤を繰リ返しながら作ることができ、蓄積された情報はネットワークを通じて世界中と共有される」と発起人の一人、大阪大学工学部 研究科助教の津田 和俊さんは語る。
もう一人の発起人で現代美術家の白石 晃ーさんは「作る過程を人と人とが共有するファブラボは、人を巻き込んで制作する私の作品と重なった」と熱く語る。
会費を通じて運営にかかるランニングコストをシェアし、“羽ばたき飛行機作り”など楽しいワークショップも開催するなど、新しいものづくリ拠点となっている。

■生産品目は月約1千点!
顧客のお墨付きは、徹底した品質管理と納期厳守から。

<Case7:人>
株式会社上垣金属製作所(東大阪市川田4-8-36)

ピン類、シャフトといった産業機械の関節をつなぐ重要部品が主力のメーカー、株式会社上垣金属製作所。
その精度や強度をクリアする高い技術力、提案力に加え、自社製品を徹底的に検査する姿勢が大手企業にも高く評価される。
代表取締役の上垣 守見氏は、大卒後に勤めた自動車部品メーカーでの経験が役立ったと話す。
「注文から製造販売までお客さんと直接仕事をさせてもらい、入口から出口まで関わって、大切なことが見えてきたんです」
ある時は、検査をクリアするため、受注した会社の検査係からチェックポイントを直接聞き出した。
不良品には厳しい検査係が、丁寧に教えてくれたという。
この経験が、完成品を切断し内部まで調べる同社の厳しい検査体制に活かされている。
また、コンピューターを駆使した独自の工程管理システムで、効率アップと納期厳守も実現。今後の展望を、「従来の小サイズから中サイズの部品の比率を高めたい。海外戦略では、巨大で成熟しているアメリカ市場が魅力的。
中国が、より高品質なものを輸出していく時代も見据えています」と語る眼は鋭い。

■歴史に裏打ちされた技術で、未開拓のフィールドにチャレンジ!

<Case8:場>
株式会社大福鉄工所(大阪市淀川区三津屋南3-10-19)

特殊金属加工の分野で、中型から大型の特注品を多く手掛ける株式会社大福鉄工所。
高い技術力と優れた設備力が要求される高硬度合金の加工を得意とし、関西国際空港や明石海峡大橋、台湾新幹線など、社会のインフラを支える基盤づくりにコミットしてきた。
「大きなものを作る時はチームワークで乗り切る」と代表取締役の大福 豊氏。
大手からのニーズにも、地域の加工業者と連携を取リ応えていく。
新分野への挑戦にも積極的だ。
5年前からOWO(次世代型航空機部品供給ネットワーク)の会員として、航空機部品分野への参入をめざしている。
さらに2012年には、大阪商工会議所のビジネスプラン発表会をきっかけに、福岡の産業医大と共同開発でAED(自動体外式除細動器)の気道を確保する医療器具の商品開発に着手。
何度も試作を重ね、4個目でやっと完成した製品には、医療現場のお困り事をニッチなところでサポートしていきたいという大福社長の思いが込められている。
業界のマーケットにどうアプローチをしていくかが当面の課題という。
歴史と信頼に安住することなく、技術力をカタチにした商品開発へのチャレンジは続く。


■編集後記
今号で取材した市民工房ファブラボ(FABLAB)は、ものづくりの楽しさを生活者の手に取り戻そうとする世界
規模のムーブメント。
プロセスと情報を共有することで、私たちは欲しいモノを手に入れるだけでなく、モノの目利きになることができる。
ライフスタイルの新しい風を久々に感じた取材でした。(山蔭)


■スタッフ
企画・編集
株式会社ショーエイベストコーポレーション

編集長
山蔭ヒラク(ショーエイベスト)

ライター
工藤拓路(ショーエイベスト)
金井直子(ショーエイベスト)

写真
岩西信二(JPS)

アートディレクター
高谷朋世(キューブデザイン)

印刷
昭英印刷株式会社


■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2013年9月30日発行


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