キッチンカーに魅せられた僕が、移動販売のプラットフォームに懸け続ける理由
Mellow共同代表の石澤正芳です。
Mellowは、「SHOP STOP」という、キッチンカーをはじめとする店舗型モビリティのプラットフォームを運営しています。
僕個人としては、移動販売プラットフォームの原型となるビジネスを立ち上げてから、早いもので約20年がたちました。
この度Mellowは、シリーズBラウンドで10億円の資金調達を発表しました。
「移動販売?あやしいね」
世間一般には馴染みがなかったので、そう言われ続けてきたこのビジネスが、日本を代表する企業の皆様をはじめ、「社会に必要な仕組みである」と応援いただけるところまできたのだと実感しています。
とはいえ、まだまだ道半ばです。
「このビジネスに、なぜここまで懸けられるのか」。これまで、ほぼ自分自身で発信をしたことがなかった僕ですが、大きな節目となるこの機会に、自分の気持ちを改めて綴ってみることにしました。
ユーザーとキッチンカーの接点をつくる。ただそれだけをやり続けてきた。
キッチンカーといって思い浮かべるイメージは人それぞれだと思います。
街でたまに見かける、イベントでご飯を買ったことがある、ランチタイムに利用している。コロナ禍では住宅街での活躍も注目を浴びたので、自宅の近くで利用したという方も中にはいるかもしれません。
今でこそ都市部では身近になりつつありますが、僕がキッチンカーと出会った2000年代初頭は、ある種幻のような存在でした。「車で移動しながらお店をしている?そんな人たち本当にいるの?」と。
東京都の記録によると、その頃届出がでているのは1000店ほど。その多くはイベントを生業としているお店。街で定常的に営業している姿はなかなかレアで、ほとんど誰も見たことないという時代です。
僕はこの頃に個性豊かなキッチンカーと出会ったことで、「キッチンカーは人々に支持される存在になる」という確信を持ちました。
そこからは、ただずっと、ユーザーとキッチンカーの接点をつくっていく、接点となる「場」を作っていこうとしているだけです。そう言ってしまうと、20年を語るうえではシンプルすぎるかもしれません。
なぜそんな確信を持つに至ったかもお話しさせてください。
起業のきっかけは、「不特定多数の人と出会える、リアルのコミュニティを作りたい」という想いから。
当時の僕は、実家が東京の城東エリアで町工場を営んでいたこともあり、いずれ家業を継ぐことを見越して大企業のSEとして働いていました。
この頃インターネットは黎明期、SEはIT土方ともいえる大変な仕事でした。人とコミュニケーションを取ることもほとんどなく、パソコンとサーバーが並んだ狭い部屋で明け方まで働くこともザラでした。
徹夜明けの早朝、出勤してくる人の波を窓の外に眺めながら、「組織の一部」であることに息が詰まっている自分を自覚し、家業を継ぐために仕事を辞めました。
実家の町工場はまさに下町ロケット的な世界。唯一無二の高い技術を持っていても、下請けとして生き残っていくのは大変な世界です。ここまでやってきた親を尊敬すると同時に、これからインターネット技術が発展していく未来に、大きく広がるところをイメージできなかったのも正直なところでした。
ちょうどこの頃、mixiなどインターネット上のコミュニティが盛んになってきていて、「逆に新たなリアルのコミュニティの場を創れたら面白いのではないか」という思いがありました。
そして、SEの時からくすぶっていた、「人と関わる仕事がしたい」「不特定多数、いろんな人に出会いたい」という思いも大きくなり、「人との出会い」=「カフェ」という着想から、中古車をDIYしてコミュニティカフェの移動販売を始めることにました。
こうして一つの小さなアイデアをもって、移動販売の世界に足を踏み入れたのです。そして、その後のキッチンカーの方々との出会いが、僕の人生を変えました。
キッチンカーはなぜここまで生き残ってきたのか
見よう見まねで始めたカフェカーでしたが、ガツンとした苦味にこだわったコーヒーは、「お前んとこのコーヒーは苦くて最高だな」と、よく来てくれる外国人のお客さんがつくなど、少しずつ支持を得ていきました。
他と違うこだわりは、たとえたくさんの人にウケなくても、「これを求めていた」という少数のお客さんにさえ受け入れてもらえればやっていけるのでは、という実感も得ていきました。
同時に、このビジネスの難しさにも直面していました。営業場所を確保することが非常に困難なのです。
路上に停めていたら10分で取り締まられるし、公園などでは簡単には営業は認められず、じゃあ私有地にと思っても、どこの誰だかわからない個人事業者に土地を貸してくれる不動産オーナーはいません。
そんな風に、営業場所を探してさまよっていた頃に、高層ビルが立ち並ぶ虎ノ門付近で信じられない光景を目にしました。
お昼ご飯を求めてビルから一斉に人が出てくるランチタイム、オフィスワーカーが路上で営業しているキッチンカーに一直線に向かって行き、行列を成していたのです。
衝撃の光景でした。
周辺には飲食店やコンビニもあるのに、並んでまでみんなこのキッチンカーで買いたいのか。スッゲェなぁと思いました。
同業者でありながらコーヒーという商材を出していた僕は、キッチンカーの先輩方から「お客を取り合うライバル」と思われることなく、ちょくちょく言葉を交わすようになりました。
そして、近くで出店するようになってわかったのは、人がいっぱいいるという立地で売れているだけではなくて、メニューや商品、接客で売れているんだということです。
既製品ではない手作りの料理には、「旅行で知った、アジア料理を再現したかった」、というような、「とにかく自分がいいと思ったものを出したい」、「自ら作った料理を、直にお客さんに届けたい」という店主の熱量が表現されていました。
そして、ただただ実直に「やりたいからやってる」「誰にも負けない料理を出したい」という姿が、計算づくじゃなくて、魅力的で。アホだなぁと思いました。(人と違うことに惹かれる僕にとって、最大のリスペクト表現です)そんな姿勢がお客さんにも伝わり、働き方としても魅力的で羨ましく映っていたのかな、とも思いました。
しかし、体力的にもキツく、安定とは無縁といえるこのビジネスを、キッチンカーの方々はなぜ続けることができるのだろうか。
彼らの姿を見ているうちに、そんな疑問への答えも明らかになりました。
お客さんが、彼らの熱量から生まれる唯一無二のサービスを求めてやってくるように、対面販売だからこそ得られる、お客さんに受け入れられているというダイレクトな満足度がそこにあるのではないかと思います。
今の世の中、口コミサイトやレビューには本物もあれば嘘も溢れています。移動販売は今も昔も「いいと思ったものを出す」「それをいいと思うから買いに行く」。シンプルながら、両者にとってリアルでこそ得られる本物の満足があるのだと思います。
こうしてキッチンカーの方達の「個の強さ」に感銘を受けた僕ですが、個がバラバラにやっているだけでは、続けていくためのハードルが多すぎるということにも気づき始めました。
営業場所を確保することももちろん、今のようにSNSや、インターネット上のノウハウ記事も存在しません。お客さんがキッチンカーの出店情報を取得する手段も、開業希望者が参入するきっかけも掴めないままでは、業態としてのスケールが見込めません。
魅力的なお店が、出店場所を確保できずにどんどん消えていってしまうのを間近で見ていた僕は、「キッチンカーを一つの確立した業界として世の中に認めてもらうために、一定のルールや仕組みのもと、社会的信用が必要ではないか」と考えるようになりました。
世の中にこのビジネスを知っている人はほとんどいない。だからこそ、しっかりルールを作り、移動販売の商圏を確立できれば、持続可能なビジネスにできるのではないか。
そんな風に、自らのカフェカーを辞め、ゼロから「移動販売プラットフォーム」をつくる挑戦が始まりました。
私有地を駐車目的以外で利用する、事例のないこのビジネスを普及させていくのは大変でしたが、「おもしろい」、「昼食難民のためになる」、「使っていない場所の有効利用ができる」と、ビルへの導入を検討してくれるオーナー様も増えていき、少しずつ受け入れられていきました。
人の数だけ発見がある。「人の魅力」を扱う店舗型モビリティプラットフォームの挑戦。
SHOP STOPには、こうした創業の想いを込めた運営ポリシーがあります。
僕の思いは創業から一貫して、「プラットフォーマーの自分達の力はたかが知れている、ユーザーに対してサービスを提供するのは事業者さん」です。いかにいいお店を増やせるか、そこにプラットフォームとしての価値があるのではないか、そんな想いを込めて「個性の尊重」を掲げています。
「個性」を取り扱うのは非常に難しいことです。
ユーザーとお店の出会いを生み出し続けるために、移動販売業態のプラットフォームとして拡張していく中では、運営面としてのDXや効率化は大前提です。このなかで、サービスの核である個店個店の魅力をどのようにシステムにのせていけるのかというのは最大の問いであり、私たちにしかできない挑戦でもあると考えています。
以前カンブリア宮殿に出演させていただいた時に、村上龍さんに「人が好きなんですね」と言われたことが心に残っています。
このビジネスをしていると人の数だけ発見があります。Mellowでは、料理をつくっている「人がいい、面白い」と、どこまでも人の思考が入ったものを魅力としてとらえているメンバーが多いように思います。
プラットフォームとしてまだまだの状態ですが、これからも「個性」という定量化できない魅力をどう尊重していくのか、まだ数値だけでは予測できない、正解のない問いに向き合っていけたらと思っています。
つくりたいのは、「自分の価値観で生きていける」世界。
移動販売のプラットフォームを作るということは、ライブハウスを作っている、そんなイメージも近いのかもしれません。
演奏できる箱があり、演者にはそこで思いっきり表現してもらう。
成功して別のステージへ行く人もいれば、ファンのためにそこでやり続ける人もいる。演者はそれが楽しくて、それが人生。やっている人が満足していればそれでいいんじゃないかと思っているんです。
時代とともに価値観の変化もあり、「多様性っていいよね」と言われるようにはなってきています。社会においても、個人個人に対しては個性は大事、楽しくていいよね、と尊重される風潮がある一方で、社会の枠組みの中では効率化や費用対効果を前に、「正」とは認められない現状があることも事実です。自分の価値観で生きていこうとすると、まだまだ生きづらい世の中ではないでしょうか。
「今の一般的な価値観」に擦り寄らなければ生き残れない。それだと、どうしても同じモノしか生み出されなくなり、世の中が統一されてつまらなくなります。
僕がこれまで出会ったキッチンカーは、そういった「統一」とは無縁の、思い思いの表現によって人を惹きつけていました。
評価が大事で周りの目ばかり気にしてしまう世界ではなく、数人のファンがいて成り立って、お店をやっている人が満足していればそれでいいのではないかー。
移動販売の業界を確立したい。
このビジョンの根っこには、自分の価値観や表現で生きている人が、生きやすいフィールドを作りたい、そんな願いがあります。
その手段として「移動できるお店」というものが最適だったのです。
大量生産、大量消費が主流だった社会の流れも変化し、ユーザーや事業者が自分のオリジナリティを求めるようになり、多様性が魅力としてフィーチャーされるようになりました。D2C、TikTokといった新たなSNSでは、まさにそうした多様性が躍動しています。
SHOP STOPはそのリアル版のプラットフォームです。アイデア、努力ひとつを自分だけの表現として突き詰め、自分の思う成功を追求できる。経済力の大小に関わらず、同じフィールドの上で勝負できる世界。
僕は「誰かを豊かにしたい」という思いや気持ちが、誰かを豊かにすると信じています。そんな想いをMellowのパーパス「それぞれの豊かさを、それぞれの想いで。」というパーパスに込めています。
ファイナンスは、社会インフラになるための通過点
この移動販売という業界はまだまだ成功パターンが数多く存在していません。そのため、お客様、店舗型モビリティの事業者様、モビリティビジネスに関わる様々な方々に応援される状況をつくっていかなければ、到底「移動販売業界を確立する」というビジョンは遠いままです。
だからこそ今回のファイナンスでは、「世の中の課題解決への人の想いや、アイデアによって生まれる個性豊かな移動販売車と、これらが持続的に活躍できるプラットフォームは社会にとって必要である」と、日本を代表する企業様に共感いただけたことが、とても大事な一歩であると感じています。
移動販売ビジネスを始めたいという方からは「成功事例あるんですか?」「売れる場所はあるんですか?と聞かれることが多々あります。
僕が言えることは「成功事例がないからやっている」ということです。
まだまだ未開の地だからこそチャンスがあり、自分なりの成功もあると思っていただける方と、個人であれ企業であれ、一緒にこの世界を盛り上げてい
けたらと思っています。
ここに、20年近く第一線でキッチンカーを続けて来られているある事業者さんから最近いただいた印象的な言葉を記します。
複数の現場を持ちながら、商圏の可能性を広げられることが魅力の店舗型モビリティですが、ひとつひとつの現場では、売り方を模索し、サービスを突き詰めなければ客がつかない厳しい常連ビジネスです。
移動販売ビジネスを志す方には、売れる場所を探す、テストマーケティングとしての可能性も大いにありますが、この言葉の重みと魅力を受け取っていただけたらと思います。
技術の発展によってECやメタバースといったオンライン上の世界が台頭しても、リアルの世界で「想い」も一緒に届けられる移動販売という業態は、この先も人々から求められ続けると僕は確信しています。
僕たちの挑戦は続きます。今回、ひさしぶりにオープンオフィスを再開いたします。Mellowのビジョンや事業にご興味をお持ちいただける方はぜひ、直接お話ししましょう。
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