M1輪講 第12・13回 Grote-Hynesの理論/溶媒の静的・平衡論的影響
こんにちは!第12回・第13回のM1輪講を担当したM1 平田です!
2024年9月16日(月)~9月19日(木)に北海道大学 札幌キャンパスで開催された日本物理学会 第79回年次大会に、光りろん研のメンバーと一緒に参加してきました!僕自身はポスター発表を行いました!
聞き手の方からの鋭い質問にすこしたじろいでしまうこともありましたが、全体的にはよい発表ができたと思います!
ポスター発表の様子は今後より詳しくお伝えできたらいいなと思っています!
今回の勉強会は、参加者の都合で2回に分けて開催しました。
今回も教科書「幸田清一郎, 小谷正博信, 染田清彦, 阿波賀邦夫:大学院講義物理化学 第2版」を使って学習を進めていきました!
ちなみに、今回がこの教科書で進める勉強会のラストでした!
ただ今後も研究室主導で勉強会を開催していく予定です。秋学期にはポラリトンに関する勉強会を実施していく予定です!参加したい方はぜひ馬場先生までご連絡を!
2024/8/26(第12回)
第12回の輪講では、溶媒による化学反応に対する動的な効果についてさらに学びを深めました。具体的には、溶媒の動的効果をブラウン運動とみなすKramersの理論に対して、より一般化された運動を考慮するGrote-Hynesの理論について学習を行いました。
第12回で扱った範囲は、教科書の6.3.3節(p161〜165)です。
前回扱ったKramersの理論は、ブラウン運動下の溶質分子の運動をLangevin方程式
$$
\frac{\partial p}{\partial t} = - \frac{\partial U(r)}{\partial r} - \eta p + f(t)
$$
によって記述するところからスタートします。ここで$${p}$$は反応座標$${r}$$に共役な運動量、$${U(r)}$$は自由エネルギー面、$${f(t)}$$は熱ゆらぎによるランダム力をそれぞれ表しています。
これに対してGroteはとHynesは、溶質分子の運動を一般化されたLangevin方程式
$$
\frac{\partial p}{\partial t} = - \frac{\partial U(r)}{\partial r} - \int^\infty_0 \eta(\tau)p(t-\tau) \mathrm{d}\tau + f(t)
$$
によって記述することから理論を構築しました。ここで時間に依存する摩擦係数$${\eta(\tau)}$$とランダム力$${f(t)}$$ $${ \left( \langle f(t) \rangle=0 \right)}$$ の間には
$$
\eta(\tau) = \frac{1}{k_\mathrm{B}T} \langle f(0)f(\tau) \rangle
$$
という関係があります。(揺動散逸定理の一種)
一般化されたLangevin方程式を用いることの利点は、一般化された摩擦係数$${\eta(\tau)}$$を用いることで、溶媒の摩擦や衝突運動の特徴を理論に取り込めることにあります。
勉強会を通じて、溶液内の反応における、動的な効果について理解を深めることができました!
2024/9/2(第13回)
第13回の輪講では、溶媒による化学反応に対する静的、平衡論的な効果について学習を行いました。扱った範囲は、教科書の6.4節から6.5節(p165〜177)です。
教科書では、溶質と溶媒の相互作用ポテンシャル$${ V_\mathrm{int} }$$を計算し、溶媒前後で生じる自由エネルギーの差が化学変化に与える影響を取り扱っていました。
ここでは、溶質と溶媒の相互作用ポテンシャル$${V_\mathrm{int}}$$の計算方法について、簡単に説明します。
この説明を通して学習した内容の雰囲気が伝わればうれしいです!
溶質と溶媒の相互作用ポテンシャル$${V_\mathrm{int}}$$の計算には大きく分けて、モンテカルロ法や分子動力学法等といった微視的な分子配置をあらわにして計算する方法と溶媒分子の集団を連続体としてみなす方法の2つがあります。
後者の取り扱いは、相互作用のうち、静電的な相互作用が中心的な役割を果たす場合には、溶媒分子集団を誘電体とみなす扱いがよく用いられています。
具体的には、溶質を球形の空洞の中心に電荷や電気双極子があるものとして扱い、その静電ポテンシャルを計算する方法があります。こうすることで、相互作用ポテンシャル$${V_\mathrm{int}}$$の計算を電磁気学の問題に焼き直すことができます。
この取扱は単純に見えますが、溶質分子の形に応じた空洞を与えることや、空洞をつくるために必要な仕事を考慮することで、より一般的な分子の相互作用ポテンシャル$${V_\mathrm{int}}$$の議論を行うことができるそうです!!
感想
溶質と溶媒の相互作用ポテンシャル$${V_\mathrm{int}}$$の計算が、学部生でも理解できるものに焼き直せるのは感動しました!単純なモデルで現象が説明できるのはかなり楽しい瞬間です!ただ、静電的な相互作用が中心的でなくなる場合がどのようなものであるかについて、より詳しく知りたくなったので、自分でも軽く調べてみたいと思いました!
また今回の勉強会で、反応速度論の学習には一区切りがつきました。今後は共振器内での化学反応では、典型的な理論からどの部分を変更すべきなのか深堀りしていきたいとも思いました!
最後まで読んでくれてありがとうございました!