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すぐ言い訳を考える(飲食店にて)

なにかささいな不都合やうまくいかない状況になったとき、
いつも言い訳を考えるクセがある。
誰からもなにも言われるわけでもないのに…


猪五郎は居心地が悪かった。
飲食店の5席が並んだカウンター、端の2席は大学生の2人組が座っている。
猪五郎は空いた3席の真ん中に座っている。

両隣が空いている。
次に2人客が来たらと考えると、猪五郎は不安になってくる。

猪五郎がどちらかにずれれば二人で座れるのに。
でもすでに食べ始めている猪五郎、今からずれるのは現実的じゃない。
2人客が付き合い始めたばかりのカップルで、でも席が空くのを待つ時間もなく急いでいて、猪五郎をはさんで両脇に座られたらどうしよう…!?
恋人同士の仲睦まじいランチタイムのはずだったのに。

猪五郎だけではない、カップルの居心地まで悪くさせてしまう。
付き合い始め2週間の恋人同士のデートがこんな始まりだなんて。
カップルからなんと思われるだろうか。

それだけではない、もし店の中にたまたま猪五郎の息子がいて、
「いつも周りを気遣いなさいと説教するクセに、父はなんと配慮のない人間なのだろうか」と、失望されたらどうしよう。

そんなことは有り得ないとは分かっている。
猪五郎に息子はいないからだ。


食事をしながら頭のなかでいろんな言い訳がかけめぐる。
・入店した時はガラガラで、どこに座っても迷惑はかからないはずだったから(←これが真実)

それでカップル(特に気の強そうなカノジョのほう)は納得するだろうか。

・入店した時にはカウンターで空いているのはこの1席だけだったから
・他の席も空いてはいたんだけど、まだ前の客の食器が片づけられてなくて…
・店員に案内され強制的にここを指定されてしまったから
・その店員にはなにか有無をも言わせぬ圧があって…
・本当はどこか隅っこの、なんなら床に地べた座りでもいいくらいだと遠慮したんですけど…

口に出すことはないと自分でも分かっている言い訳を作り続ける。


「いらっしゃいませー」

お客が来た!
何名さまであろうか?それにより猪五郎の運命は決まる!

猪五郎の横、カウンターの端の席のイスが引かれる。
反対側の空き席はそのままだ。しかたなく両端に分かれた気配はない。

一人客だ!

一人客は隣が壁になっている端っこを確保できて満足そうだ。(顔は見えていないので想像)
あのカップルもどこかで肩を寄せ合い仲良く食事をしているに違いない。
架空の息子にも父の威厳を保つことができた。

分かってはいたけど、言い訳をする必要なんてなかったんだ。
安堵する猪五郎、店を出て空を見上げる。


季節はもう秋。

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