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なぜ「進捗管理」はこんなにも大変なのか…?

先日、こんなポストを投稿しました。

「進捗管理」という言葉を目にして、ワクワクする人はあまりいないんじゃないでしょうか。
私なんかは、条件反射的に下腹部に痛みが広がります。「キリキリした痛み」というよりは、「鈍痛」という表現がしっくりくる(笑)

進捗管理。

これだけ多くのビジネスパーソンを悩ませているものって、めったにないんじゃないか…

進捗管理の「ツール」は数多くあるけれど…

進捗管理のための「ツール」なら、世にたくさん出回っているんですよ。

WBSとか、ガントチャートとか。
タスク管理ならJiraとか。
プロジェクト・マネージャーにとってはおなじみですよね。

(ちなみに、私もこんな記事を書いてます)

進捗管理のツールは、たくさんある。

それなら、これらのツールを使いこなせたら、進捗管理はバッチリできるのか?…というと、そんなわけありませんよね。

ガントチャートを毎日こまめに更新したとしても、タスクごとのステータスをJiraチケットに丁寧に記録し続けたとしても、炎上するときは炎上します。

ツールを使いこなすだけでは、進捗管理はできない。

じゃあ、どうすれば進捗管理がスムーズにできるようになるのさ??…と問い詰めたくなるわけなのですが、進捗管理の本質的な考え方やノウハウを体系的に網羅した本って、じつは無いんですよね。

なぜ?
これだけ大勢の人が苦しんでいるのに、マトモなハウツー本すら見当たらないのはなぜ…?

その理由を考えてみまして。

結局のところ、プロジェクトの進捗に影響を及ぼす要因の多くが、(自分も含め)人間が遺伝子レベルで受け継いできた「情動」のシステムの中でも、とりわけネガティブな感情によって左右されている。
そして、我々人間の感情というものは、底なし沼…広範囲に渡るものであり、その全てへの対処法を一冊の本にまとめるなんてことは、とうてい不可能だから…という話だと思うんです。

では、プロジェクトの進捗を左右する人間の感情には、どのようなものがあるのでしょうか?

人間は「責め立てられる」ことを恐れる

プロジェクトを円滑に進捗させるためには、各メンバーが担当するタスクごとの進捗状況、ボトルネックとなりそうな要因、将来に予見されるリスクなどの情報を正確に収集・把握することが不可欠です。

とくに、「悪いニュース」ほど正確に集める必要があるのですが、これが実はハンパなく難しいことは、プロジェクトの進捗管理を担当した経験のある方なら同意いただけるのではないでしょうか?

以前にこんなnoteを書きました。

このnoteでは、自身が担当する開発タスクが遅れているにも関わらず、リリース予定日の直前までなかなか正直に言い出せなかったエンジニアのエピソードをご紹介しました(そのプロジェクトはめでたくプチ炎上しましたw)

人間は、自身が属する集団の他のメンバーのキゲンをそこねて、非難される・責め立てられることを、本能的に恐れます。

太古の昔から、人間は集団で狩猟をしたり、農耕することで生き延びてきました。そのような社会では、人間はひとりでは生きていけない。自分が属する集団を追い出されることは、すなわち死を意味しました。そのような厳しい環境の中で、集団から追い出されないよう、他メンバーから責め立てられる事態を恐れ、回避する行動を取れる個体が生き残ってきた。我々は、その「合理的な行動を取れるおかげで生き残ってきた」個体の遺伝子を受け継いでいるのだそうです。

話をプロジェクトに戻すと。

先のnoteに登場したエンジニアの行動は、生物学的な個体の生存戦略としては合理的なものでした。

自身が担当している開発タスクが遅れていることは、集団にとっては「悪いニュース」であり、そのニュースを伝えた相手(上司、同僚、プロマネ…)を怒らせてしまい、責め立てられて、最悪の場合は集団を追い出される可能性もあります。

そのリスクがある以上、その事実をできる限り隠蔽(いんぺい)しておくことは、そのエンジニアにとっては自然な反応(?)だったのです。

プロジェクトの進捗をマネジメントする人間がとくに把握すべきなのは「悪いニュース」なのですが、不都合なことに、人間は本能的に悪いニュースを話したがらない。

遺伝子レベルで我々人間にビルトインされた生物学的な反応が、プロジェクト内での情報伝達が目詰まりを起こす大きな要因になってしまうのです。

人間は理不尽な状況を許容できない

「Aさん(エライ人)からの指示で、他の◯◯案件を優先する必要があるので予定より1週間遅れそうです」

プロジェクトのスケジュールが予定よりも遅れる要因として、あるあるですよね。

しかし、仮に、ですが…

この担当者がムリをして深夜残業し、場合によっては休日出勤もして取り組んだら?
ふたつの案件の両方を、当初のスケジュール通りに完了させられるかもしれません(カラダとメンタルは壊すかもしれませんが)

理屈のうえではそうなるけど、実際には、そんな方法はとれませんよね。

人間は、「最もラクで、自分にとって利益が最も大きな状況」を好みます。逆に言うと、「最もシンドくて(=自身の心身にダメージをもたらす)、自分にとって利益にならない状況」は大キライです。後者の状況は「理不尽」と呼ばれます。

先に登場した担当者の人にとっては、ふたつの案件を強引に同時並行で対応することは「とてもシンドい割に自分の利益にならない状況」です。そして、そんな状況は、ほとんどの人間にとっては受け入れられないものなので、全力で回避しようとします。
仮にプロジェクト・マネージャーが強制しようとしても、この担当者の上司が全力で止めに入るでしょう。労務管理の責任問題になるので。

プロジェクトを進めるのは生身の人間であり、人間は、個体としての生存がおびやかされそうな状況、理不尽な状況を本能的に回避せざるをえません。

ここも、プロジェクトの進捗に影響を与える大きな制約条件になります。

人間はパニクると思考力が鈍る

これは、進捗管理に責任を持つプロジェクトマネージャーやディレクター自身の問題です。

自身がディレクションを担当している開発案件のスケジュールが、予期せぬ要因によって遅れそうな事態になった時。心臓がバクバクしたり、腕がブルブルと震えたり、頭の後頭部から肩にかけてのあたりがギューっと締めつけられるようになったり…そんな経験、ないでしょうか?
私はしょっちゅうですw

先に書いた話とも共通するのですが。
人間は、自分が他者から叱責される、責め立てられる状況になりそうな気配を感じ取ると、その状況を「回避する」ための身体反応が自動的に起動します。

「このままだと、集団から追い出されるぞ。死ぬぞ。全力で回避しろ」

このメッセージを脳が身体へ伝達した結果として生じる、不安・恐怖の情動反応です。

いわゆる「パニクる」というやつです。

メンタルを病んでしまう、鬱になってしまうプロジェクトマネージャーが多いのは、この種のストレス反応に日常的にさらされているからに他なりません。

プロジェクトの進捗が遅れそうになった時。
責任者がすべきなのは、「冷静に」現状を分析し、問題点を特定して遅れを取り戻すための打ち手を「冷静に」検討して実行することです。

ことごとく「冷静に」取り組むことが重要になってくるわけなのですが…先ほど見た通り、人間はピンチに陥いるとパニック症状が出て思考力が低下してしまう。当然、意思決定の質にも影響してきます。

もちろん、トラブルの渦中にあっても、ある程度は冷静さを失わずに対処できる人も中にはいますが、そんな人でも、人間である以上は多少の動揺は生じるはずです。

人間が大昔から本能的に受け継いできた情動反応から自由になることは、並大抵のことではないんです。


今回は、人間の本能的な感情が、プロジェクトの進捗を様々な意味で左右しているのを見てきました。

では、それが分かったところで、何をどうすればよいのか?

…正直なところ、私には、まだ分かりませんw
なにせ、自分自身の感情に向き合い対処することすら難しいので…

ただ、ひとつ言えるのは。

人間の感情が無視できない大きな要因である以上は、プロジェクトをマネジメントする人は、「人間」というものをいま以上に深く理解する必要がありそうだぞ…という点は、間違いないかと。

共に、日々精進しましょう。



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