見出し画像

コルクマンガ専科10期・卒業制作感想

昨年から半年間ほど、オンラインの漫画スクール「コルクマンガ専科」に参加しました。
コルクマンガ専科 第11期マンガ家コース 特設サイト | コルク

その卒業制作として、「ストーリー漫画のネームを完成させる」という課題があり、同期の皆さんの作品に感想を書かせていただきたいと思います。(作者名50音順)



あおいおきなさん『ゲス男がふざけたひょっとこに復讐される話』

あおいさんの作品は、あおいさんにしか出せないコミカルなテンション感がとにかく面白い!
もうまず「なんでひょっとこなの!?」みたいな。ツッコまずにいられなくなってしまいます。台詞や動きももいちいち面白くて、なんか可愛い。

ホラーなのかコメディなのかわからないような感じなんですが、その独特の読み味が面白くて、ホラーが苦手でも深刻にならずに読めちゃう小気味よさがあります。絵も可愛くて親しみやすいから怖すぎないというのも、私のような怖がりな読者にとっては読みやすくて良いところ。
ただ怖くしようとか、ただ笑わそうというだけじゃなくて、どっちの読み味もしっかり利かせようという心配りがこの作品の独特な読み味をさらに深めていると思います。

クズ男がひょっとこに命を狙われて更生し、結婚してハッピーエンド……かと思いきや、ラストにはもうひと展開。ゾクっとしますね。
皆さんも人の恨みを買わないように、くれぐれもひょっとこのサブスクにはお気をつけください。

青山六郎さん『「パパと一緒に寝たくない」って 嘘吐いちゃった女の子の話』

本当はパパのことが大好きなのに、「一緒に寝たくない」って嘘をついちゃったふうちゃん。そんな娘に、困ったような八の字のまゆげのままずっと笑いかけてくれるパパの優しさ、あたたかさに泣けてしまいます。

明日も大切な人が変わらずにそばにいてくれるかどうかなんてわからないのに、私たちは素直な気持ちを伝えられずになんとなく生活してしまう。
中学生になったふうちゃんが、パパに本当の気持ちを伝えられたとき、パパの心残りは終わってしまいます。そして「パパはここにいるのに」とこだわり続けてきたふうちゃんも、感じられないパパの体温を通して「パパはもういないんだ」ということを受け入れ、新しい朝へと踏み出していくんですよね。

それでも、ずっと大好きは残る。
パパがずっとそばにいてくれたから、今のふうちゃんがいる。

大きな喪失と悲しみを乗り越えて、ふうちゃん一家がこれから健やかに幸せでありますようにと願わずにはいられないようなお話でした。

いぬじんさん『Zombie Docter』

生きる目的をなくしたゾンビ(不死者)のミラと、大切な人のために不死を研究する天才科学者のルイスが出会い、人類のためにゾンビを研究する研究所から脱出するSFアクション。

ミラの感じていたどこにも行けない閉塞感と、それを打破して未知なる外の世界へと踏み出していくワクワク感が良い!
当初マッドサイエンティストっぽいルイスが、最愛の人を過去の研究で傷つけてしまった過去があって、それを悔いて彼女の笑顔を見るためにゾンビ研究をしていた、っていう背景も意外性があって好きでした。飄々としたルイスが激情にかられてこんなに烈しく怒る、っていうのが熱い!

ルイスが一方的にミラを助けるんじゃなくて、ミラもルイスを助けるっていうシーンがあるのが更に良いなって思いました! それぞれの得意分野が違ったりして、普段は凸凹コンビでも互いに困ったら助け合う、バディものはこうでなくちゃって感じです。
広い世界に飛び出していく、これからの彼らの冒険にも期待が高まります!

いろむらちよさん『快眠コンシェルチュ』

不眠症の話かと思ったら、まさかのぬか漬けの話だった!? 主人公まさかの野菜になっちゃうの!? という先の読めない展開にぐいぐい引き込まれて、一気に読んでしまいました。いろむらさんの漫画のなかでは動物もしゃべるし野菜もしゃべる、この自由さが楽しいところだなって思います!

多様な社会のなかで、アライグマじゃなくてもネズミじゃなくてもぬか漬けじゃなくても、私たちはお互いにわかりあえずに、いつも戸惑ったり悩んだりしているよなぁって思います。
すごく好きな台詞が、アライくんの「バランスが崩れることがあってもいいんだ 手をかけ続ければ必ず応えてくれる」。人間関係もそうだといいなと思います。疎遠になったり傷つけあったり、うまくいかないこともたくさんあるけど、思いをかけ続けたら仲良くなれるといいなって。

アライくんが主人公のことをずっと心配してくれているのが健気でいとおしいです。そしてアライくんを傷つけてしまったことで、思い悩んで不眠症になってしまう主人公もまた、不器用で可愛いなと思いました。
コンシェルチュさんはこうして人の夢をとおしてみんなの心をほぐしているのかな。皆さんもよい夢を!

emixさん『相楽部長は天才』

木野山くんと相楽さんによる、表現者同士のぶつかりあいや葛藤と、だからこそ繋がり合える絆が胸を熱くしてくれます。

天才だともてはやされてきた相楽さんは相楽さんで孤高の人なんだろうと感じます。周囲の多くを遠ざけているようなところがある人だと思うんですが、表現に対しては驚くほど純粋で素直な方ですよね。だから木野山くんの漫画にだけは子供みたいに心を開いてくれる。

そして周囲の人に自分の表現を否定されてきた木野山くん。たくさん傷ついて、自信がなくて、周囲の目が怖くて、こんなに怯えていたのに、それでも己を奮い立たせ、「読んでください」と自分をさらけだした。その勇気に拍手を送りたいし、そこを乗り越えられたら彼は無敵なんだって思います。

フィールドは違えど、遠くにいても時間が経っても二人は同志なんですね。理解されづらい相楽さんのことを、大人になった木野山くんがちゃんと理解してくれているという、この関係が尊く感じられます。

カヲリさん『お互いスパイだと知らない二人が恋に落ちるまで』

美桜と葵の二人がとても可愛くて、恋の行方が気になりすぎてドキドキしてしまいました。
産業スパイ同士、秘密を抱えた状態で関係性を構築していく二人にハラハラしたり、葵に惹かれていく美桜が可愛くてキュンとしたりで、キャラクターの魅力に引き込まれる作品だって思います。作者のカヲリさんがすごく登場人物に愛情をかけて描いていることが伝わってきます。

美桜が葵のことを誤解して泣いちゃうところとか愛しすぎる!
ずっと飄々として何を考えているかわからないような感じだった葵が、彼女の涙を見て、動揺して思わず告白しちゃうシーンが好き! 私だったら抱きしめてた。
美桜のおまじないは葵が由来だったりするエピソードも可愛い。

最後、二人はもう本来の自分たちになって、本当の気持ちを相手に伝えられるようになったんだなと思うと幸せな気持ちになれます。

かとひとさん『ニコとイチ』

コミカルなドタバタ劇のなかに、この兄弟の仲が良いようで悪いようでやっぱり良い、みたいな心あたたまる要素も入っていて、こう……「あんまんの中に栗も入ってました!」みたいな、贅沢な満足感を得られました。かとひとさんのこういう話運びやキャラクター描写って本当にすごい! 楽しい!

イチがマンションから飛び降りたり警察官の初恋の人を演じたり無茶すぎて、読んでいる間爆笑してしまいました。そしてなんだかんだ言ってお兄ちゃんのことが大好きなニコが可愛くて、微笑んでしまった。ニコ……。

この逃亡劇の果てに二人が手にするものって何だろうと思いながら読んでいたんですが、自由と金と兄弟との絆、すべてを手に入れているの最強すぎませんか!?(無人島だけど)

でもイチとニコなら、無人島でも、刑務所に入っても、結局なんやかんや楽しくやっていけるんじゃないかって気がしちゃいます。無人島脱出編とか刑務所エンジョイ編とか読んでみたいかも!笑

こみちゃんさん『お嬢とジャンク飯』

こみちゃんさんの作品は、キャラクターのキャッチーな可愛いビジュアルの向こうに、ストーリーでシリアスな苦悩や葛藤が描かれているところにギャップを感じて、その魅力に釣り込まれてしまいます!

設定とか導入はひたすらキャッチーで親しみやすい感じなのに、話が進んで突きつけられるのはあなたと私は育ってきた境遇も悩みも習慣も経済状態もまるで違う赤の他人である、という事実で、それを乗り越えてどうしたら友達になれるの? という普遍的な葛藤でした。

諦めないで呼びかけ続けるとか、違うことを受け入れるとか、いろいろな双方の歩み寄りが関係を持続させるために必要なんだろうなと思うのですが、それが難しい……。合わない人とは近くにいないほうが楽、ということもあると思います。それでも仲良くなりたい、一緒に時間を過ごしたい。

二人が衝突を乗り越えて一緒にジャンクフードを作って食べたり、なにげない毎日を一緒に過ごせるというのは、本当に尊いことだって感じました。

sakuraさん『親の孤独死を悲しめない子どもの話』

sakuraさんが、この表現することが難しいストーリーを描き切ったことに、まずは拍手を送りたいです。

主人公の家族から語られる、父親に関する生前のエピソードのひとつひとつに胸苦しさを覚えます。田舎の閉塞感とかも生々しい! なのにsakuraさんの漫画ってどこか爽やかだから、するっと読めてしまうのが不思議です。

親が死んだのに悲しまないなんて……とか一般論を言うのは簡単ですが、家族の内実ってもっと複雑で、その死をどのように感じるかというのはきっと家族のなかでも各人で少しずつ違っているのだと思います。
それは個人の、心の奥のもっとも冷たい氷河のなかに仕舞われている。
この作品はきっとその氷のかけらなんだって気がします。

「父親の植えた樹を切り倒す」行為を通じて、主人公の父親の呪縛から解き放たれた解放感、そして虚脱のようなものが同時に胸にせまってきて、この作品でしか味わえないようなどこか寂しく清々しい読後感を覚えました。

せかいひろしさん『宇宙犬☆ポチ丸』

せかいさんの漫画は、コロコロコミックの漫画みたいな完成された世界観と画面の出来栄えに毎回驚かされます。キャラクターデザインなんかもみんななんかちょっとクセがあったり、ちょっと変で可愛い。この「手書き感」もちょっとノスタルジックでたまらない。

主人公が冴えなくて愚痴っぽいおじさん、というのはちょっと大人の読み味。このおじさんが成長することもなくただひたすら失敗を繰り返す、という鉄板のギャグ漫画なんですが、読んでいるうちにこのダメダメな主人公がなんだかにくめないと思えてくるから不思議です。失敗こそ笑える、ダメダメな自分こそ面白い、みたいに思えてくることがこういうギャグ漫画の良さなのかもしれないと思いました。

せかいさんはこあとに大幅に筋書きを描き直して、成長しない主人公のギャグ漫画ではなく、この冴えない主人公が昔の自分に会ったことで運命を変えるというストーリーの漫画も描いていました。
本作を描いたあと、「やっぱり描きたいことは違うかもしれない」と思って改めて描き直されたそうなのですが、二つの対になるストーリーのようで、それ自体も面白い試みだなぁと感じました。

しぐさん『友達にやらされる悪役を断れない話』

序盤、友達とのやりとりにざらっとした気持ちにたり、この友達嫌な奴過ぎるよ〜と思いながら読んでいたら、後半はまさかの展開! ハラハラドキドキしてしまいました!

友達がラスボスというか、ここまで明確に主人公を裏切っていて敵に回るって、嫌な奴だと思っていても衝撃を受けるものなんだなと思いました。序盤では「そうはいっても、どこかに良いところがあるから友達なんだよね?」と思っていたのですが、そもそも友達になった経緯すら捏造だったり、そばにいたのも主人公を監視していただけだなんて……そんな……。
他の生物だから人間の倫理観にてらしてひどいとかそういう問題じゃないのかもしれないけど、ひどい!

こういう敵だからこそ、主人公がそれを打破してくれたとき爽快感が生まれるという痛快なアクション。こんなつらい出来事があっても立ち向かい誰かを守れる主人公が、カッコいいを超えてもはや偉い!!

あとしぐさんの化け物(敵)の作画がめちゃくちゃうまくて、そこも推したいポイントでした。造形的なカッコよさと気味悪さが調和していてすごい。

珠虫さとりさん『HMG放課後モデラ―ガール』

この話、とにかく「プラモデルを作るって楽しい!!」というエネルギーに満ち満ちていて、最高でした! すごく元気をもらえます。
まさに青春のきらめき!

女子高生が友達とわちゃわちゃしながら50年前に製造された複葉機のプラモデルを作る……というニッチな話なんですが、結局のところ趣味に全力で打ち込んで楽しんでいる人は魅力的なんですね! その「楽しい!」が読んでいるこちらにまで伝染してきます。

一つのプラモデルを作るなかにも物語があって、思い入れがある。
プラモデル制作はただきれいに形を作り上げるということだけじゃなく、作り手の想像力のなかで無限の広がりを持つんだな……というところまで含めて夢があって、素晴らしかったです。ラストのサムズアップジョージの登場のさせ方、好きすぎる。

思わず私もプラモデルを作ってみたくなりました。(影響されやすい)

なちぼぅ★さん『宇宙人ララ 取り返せない嘘』

岡の単調な毎日に、突然現れた宇宙人との恋愛を可愛くコミカルに描いた作品。岡のために献身的で一生懸命になってくれるララが可愛い!
見た目も習慣も違う、周囲の人には見えない宇宙人との恋愛って……どうなるの? って思いながら、ただ岡とララの楽しそうな日常を垣間見るだけでもほっこりします。
受け身だった岡が自分から努力しなきゃと行動したところに、颯爽と現れるララがまるで王子様みたいで素敵。「逆かぐや姫」みたいな感じ。

この完成版の前に連載版があったんですが、なちぼぅ★さんは前半の演出をこの完成版で大きく描き変えていて、演出が非常に効果的になっていることに驚きました。とくに宇宙人のララの全身が初登場するところなんて雰囲気もかっこいいし、驚きもある。

出会いから二人の関係性の深まっていく様子も見られ、発展と成長があって、読後感のよさまで含めて、心あたたまる作品でした。ずっと仲良く過ごしてね。

ニッカさん『自由と書いてギャルと読む』

生徒を先生が指導するというシンプルで親しみやすく誰しもが経験するネタを、指導される側の生徒が模範生、そして先生側はギャルを規範としているという逆転した設定で描いたことで、「そうはならんやろ!」みたいな面白さを引き立ててくれる作品だと思いました。キャラクターの面白さ、演出のうまさでテンポよく魅せてくれます。

クライマックスの感情の解放がすばらしい! 主人公はただスニーカーを履いただけかもしれませんが、この作品で起こったことは、宇宙飛行士アームストロングの名言をもじって表現するなら「人類にとっては小さな一歩だが、彼女にとっては大きな飛躍だ」と言ってもいいのかなと感じました。
作品のなかで大きな事件が起こるわけじゃないけれど、だからこそ、日常のふとした生きづらさに寄り添い、ちょっとはみ出して遊んだり冒険したりしてもいいのかも、という風に気分を軽やかにしてくれます。

ちょっとした現実を一歩だけ変えてみたら、もっと毎日がワクワクするような変化を起こせるかもしれない。そういうことを積み重ねて、自分の人生を自分なりの美味しくて楽しいフラペチーノにカスタイマイズしてみたい!

にみりさん『小学生に振り回される先生の話』

制作期間中、にみりさんとはよくお話ししていたんですが、そのなかで「かわいそう」は「可愛い」ということをおっしゃっていたのが私にとって印象的でした。主人公の林くんは、にみりさんが自分なりの可愛いを詰め込んだ存在なんだろうなと思いました。虐待の描写は目をそむけたくなっちゃうくらいつらいんですが、それでも先生に助けを求め、救いを求めている。

林くんのことを気にかける先生もまた、きっと子どもの頃居場所がなかったのだろうな……ということを感じさせる描写が随所にあったのですが、その推測は当たっていました。
彼が先生として林くんを導くというよりも、この世界から抜け出したいという心が共鳴しあった二人の逃避行というか、まるで埋められない寂しさを分け合う共犯関係のような、二人だけの世界を感じました。

作品内で林くんの問題が解決されるわけではないんですが、本当にこの世界のどこかには、今じゃないいつかには、息をしていてよいと思える場所が、そんな日が見つかるんじゃないか……そんな密やかな希望だけを残して、物語が終わります。
海に二人でたどり着けたら、いつか大人になってまた会えたら、幸せになれる場所が見つかりますように。

ねぎしまちこさん『推しえ子』

この話、根岸さんの良さが爆発していて、すごく惹きつけられました!
作者である根岸さん自身が専門学校で教師をされていて、生徒さんと交流があるからこそ生まれた漫画だと思います。コルクマンガ専科では、「自分の知っている感情」を解像度高く描きましょうという指導があったんですが、それをしっかりとやり遂げたのではないかと思いました。

キャラクターのちょっとトホホでおちゃめなところはやはり根岸さんの持ち味だと思います。すごく親しみが湧いてきちゃう! 先生がゲームのキャラクターに毎日話しかけるほど入れ込んでいて、それを生徒に知られちゃうなんて考えただけても恥ずかしい!

でもこの作品、先生の秘密を知られちゃうとかそういうドタバタコメディでは終わらないのです。そこに意外性があって、面白い! 生徒の葛藤や悩みに触れたときに先生ってやっぱり大きい存在なんだなと思わせてくれるものがあって、良い話だな〜と思いました。

「教師にとっては教え子が推し」名言すぎる。

隼瀬ショウさん『大人の引きこもりが学校で赤ちゃんに育てられる話』

主人公のマサルの「怒られる」ことに対する恐怖心の強さを見て、この人はなぜこんなにもずっと怯えているのだろう……と考えさせられました。

仕事でミスをしたら叱られるのは当然だし、無断欠勤や会社の備品を返却しないところなど、マサル自身のよくない点も大いにあったと思います。
しかし、マサルの一番苦しいところは、それにどうしても向き合うことができないところだったんじゃないかと思います。とにかく自分のよくない点からは逃げたい。目をそらしていたい。怒られたくない。だから反省できないし、改善もできない。
自己嫌悪だけが募り、負のループに陥ってしまいます。

赤ちゃんの面倒を見るなかで、自分自身の至らなさに気が付き、どんなに苦しくて受け入れがたくとも、それと正面から向き合えたということが、マサルの視野を広げ、成長させてくれたのではないかと思いました。
完璧な人間はいないし、ミスをしない人間も、怒られて嬉しい人もいない。みんな適度に迷惑をかけあって生きているし、それは言い換えれば助け合いだし、人間の社会はそうやって巡っているんだろうな……と感じました。

東山わかるさん『ゴーストライター』

冴えない日々を送るサエコは、すっかり承認欲求の塊と化してしまい、「何がなんでもバズりたい!」という気持ちでユーレイに自分を明け渡してしまうのですが、そのユーレイとの出会いと別れを通じて「自分の漫画が描きたい」という本当の自分の想いに目覚めていきます。

レイジがこの世に残した思い、作品が彼女のその感情に火をつけたのだと思うと、作家たちのこの火は聖火のように消えることなく、受け継がれ続けるのだろうと思えて胸が熱くなりました。
私自身も、やはり先人たちのすばらしい作品、面白い漫画に魅了され、この漫画があったから生きてきてよかったという作品に何度も出会い、「誰かを心から感動させる漫画が描きたい!」と夢見て漫画を描き始めました。サエコにはそんな自分自身を見ているかのような思いを抱きます。

一方でレイジには、なぜこんなに漫画が好きなのにこの人は亡くなってしまったのだろう……という運命の残酷さを感じます。それでも、この人の漫画はサエコのなかに確かに残っていくんだ、ということも感じました。
二人の前途を応援せずにいられない! この先彼らの手でどんな作品が生まれ、彼らの運命がどうなるのか、楽しみです。

ひつじいぬさん『空を集める魔女とナイフの話』

ひつじいぬさんのこの作品、とても独特の読み味で好きでした。
こういう漫画、昔はときどき商業でも見かけた気がしますが、今はあんまり見なくなってしまったかも……。
もしこれが商業作品なら、この漫画のなかで、主人公に心がないということにより大きな意味を持たせたり、その心をどのように埋めるかということにもっと重きを置いたりするかもしれないんですが、スカーレットにとってはそれが日常であり、そこに大きな意味などない、というのが個人的に面白かったところです。

スカーレットという名前も、「赤い」色を示す言葉ですが、その彼女が自分を充足させるために「青い」空を切って集めている、というのもなんだか詩的で好き。

かわいい絵柄で、ラストシーンも笑顔なのに、ちょっと怖い。なのに平和でもある、っていう、不思議な感覚を味わえる作品でした。

福田雄一さん『タコヤキ』

日本から遠く離れたポルトガルのリスボンで、タコヤキを焼いてお客さんに出すお店をやっている主人公。現地の子供が物珍しそうにタコヤキを焼く様子を見物しているのを見て、その子供にタコヤキを焼いてあげる、というちょっとした日常のストーリーなんですが、ほっこりと心あたたまります。
タコヤキを食べる子供の表情が細かくて、味があって可愛い。

自分も子供の頃にタコヤキを見知らぬちょっと怖めのオジサンにもらった思い出があって、だからこそ自分も子供にタコヤキをあげようとする人情のあたたかみ。異文化交流の面白さも併せて、こういう何気ない日常のなかの特別じゃない瞬間にフォーカスできるのが。福田さんの作品の良さなんだろうと思いました。

世の中、いろいろなことに配慮して身動きできなくなるようなこともあるけど、まあ適度にゆるく、人を思いやりつつやっていけば、その思いやりはまた自分のところへ巡ってくるのかも。

文海月町さん『ムーン ライク アワー ソング』

この卒業制作はネームでの提出でよしとされているのですが、作画をやりきって出している点に文海さんのプライドというか、作家魂のようなものを感じました。

壮大な世界観のストーリーにも圧倒されました。テルルは真っ暗な宇宙空間にぽつんと浮かぶ惑星のように、いつも心のどこかで寂しさを抱えていました。けれど、月が毎晩のように私たちを追いかけ、照らし続けてくれているように、私たちはいつも気づかないうちに誰かに愛されているんじゃないか、と感じさせてくれます。言葉にならなくても、たとえ一生知ることはなくても、その愛は途切れることはない。

偶然か必然か、この一瞬のテルルとケンジの邂逅も、そういう愛の一部が引き寄せた巡り合わせだったのかもしれません。テルルの名前そのものが、彼がどんなときも愛されているという証。

『ムーン ライク アワー ソング』というタイトルのとおり、まるで詩のような美しい作品でした。

ふじかわいつきさん『勢いで犯人言っちゃった探偵』

Cork-08_宿題で描いた読み切り⑧|ふじかわいつき@会計士、漫画

ミステリー風のギャグ漫画だと思って読んでいたら、意外とちゃんとミステリーっぽく仕上がっていて、そこが逆に意外でした。もっとハチャメチャな展開になるかと……。

密室殺人おなじみの糸を使ったトリックが出てくるんですが、ハニワで糸を迂回させたり、ハニワを置く溝がサイドテーブルに備わっていたりして、力業でトリックを成立させているところがまたギャグでしかなくて面白かったです。どうしてそんな窪みが……!?(誰にもわからない)

更にクライマックスでは突如として犯人=助ヶ崎節が浮上するのですが、そこを乗り越える過程でいきなりラブコメみたいなことを言い出すのが面白過ぎました。そうだったのか探田……。そしてその後の急展開で事件が解決に向かうというのもまたハチャメチャ過ぎて面白かった。
ふじかわさんにはぜひこのギャグセンスを大切にしてほしい。

ブルーザキヤマさん『『カニのカプチーノ』を求めて』

「自由に楽しくね!」
この言葉がすべてなんだろうなぁ、と思うのですが、曲のなかで同じフレーズを繰り返すサビのようにこのテーマが作中を通じて繰り返し流れ、心に優しく余韻を残してくれる作品だと思いました。

「推し」に対する大きなエネルギーを持っているザキヤマさんだからこそ、こうやって推しのことを知りたい! というエネルギーに突き動かされて行動していく主人公を描けるんだと思います。好きなことを突き詰めると、それが自然と仕事になっていったり、自分の生き方を導いてくれたりする。だから変に我慢せず、「好き」に忠実に生きるというのは、意外と生きやすいものかもしれない、と思うことがあります。

作中の海野さんの「わからないながらも自由で楽しんでる カニカプに学んでんじゃん」という台詞、個人的にとても好きです。
それこそが本当に藤田くんがカニカプの申し子であることを表しているんだろうなぁ、と思います。

星庭ひかるさん『性悪デブ男子が恋に堕ちて変わっていく話』

主人公の二村は他者に対して僻みきって卑屈になってしまい、憂さ晴らしにレナをだますところから始まって、彼女に心奪われ、更生して彼女に好かれるため努力する……というラブストーリー。

最初はこの人大丈夫なんだろうかと思うのですが、二村が不器用ながらすごく一生懸命だから、だんだんと応援したくなってきてしまいます。
そしてレナはずっと可愛くて優しい~!
そんなレナを、一度は悪意をもって傷つけようとしたことを償いたいと願って、早見と彼女をなんとかしてひとときだけでも会わせてあげようとする二村。本音では自分を見てほしいはずなのに、そこには献身的な愛があるんだなと感じます。
レナ自身も、いつまでも幻の王子様に夢を見続けるのは不毛だとわかっていて、現実に自分を一生懸命追いかけてきてくれる二村に心惹かれ、思いが通じ合うというのが素敵でした。

見た目を変えたいとか、性格を変えたいとか以上に、「好きな人の幸せを願える人 それがなりたかった本当の自分だ」というのも素直でとても良いラストシーンだなと感じます。この先もずっと二人の幸せを願いたいです!

町田ねねこさん『このマンガが、なっちゃんへ届きますように』

町田さんの作品は、悲しい・厳しい・寂しい現実を前にしても心のなかにぽっと灯りをともすようなあたたかさと優しさに満ちていると感じます。新しい作品を読ませていただくたびに、少し心が明るくなったような、「ちょっといいことがあった日」みたいな心持ちにさせてくれます。
私はそんな町田さんの作品が、本当に大好きです。

漫画を描いているといろいろなことがあり、一生懸命描いていればいるほど「こんなに一生懸命描いたのに……」「あんなに頑張ったのに……」という想いを、数えきれないほど経験するものだと思います。
でもやっぱり、心を込めて漫画を描くのは楽しい。それを読んでくれた人と繋がれることは得難くて、とても幸せなことだと実感しています。

作品を描いて発表することは、宛名のない手紙を出すようなものだと感じることがあります。私も町田さんの作品が、たくさんの「誰か」の心の岸辺へとたどり着くことを願っています。

まるさん『マッスルに生きる!』

まるさんの漫画には、確立されたまるさんワールドがあるな~と思います。
アクション漫画っぽい筋書きだけど、可愛い女の子がめちゃくちゃマッチョになって戦うというギャップを魅せつつしっかりコミカルで、でも熱いところもあって面白い! 強子が玲香さんのことを終始大好きで可愛い!

特殊能力のあるヒーローものっぽい筋書きに、ちょこちょこギャグを仕込んで楽しく読ませてくれました。なんで署長が強子のメールを監視しているのかとか本当に意味わからないし、誘拐犯から一人で来いって言われているのにヒーロー5人全員で来ちゃったりとか、でもとくにそこまで気にしてない犯人とか、そもそも他の4人が全然役に立たなかったりとか、いちいちボケて楽しませてくれます。

一方で、大好きな人をしっかり戦って守るというヒロイックな王道展開で、アクションバトルもの・ヒーローものとしても満足度が高いです。
そして強子と玲香はずっと仲良しで可愛い。ガールズラブコメっぽい雰囲気もあって一粒で3度美味しい作品でした。

光澤裕顕さん『仏像青春漫画!仏像部』

青春といえば、部活! そして何より……愛!! みたいな勢いがあって面白かった!! BIG LOVE!!

大仏の大は図体と大きさのことじゃなく、愛の大きさ。
愛は注ぎ続けないと萎んじゃう。それも本当のことで、愛って毎日の生活のなかに息づくものなんだなぁと思います。マヤ姉が子供の頃からいつも善太郎のそばにいてくれて、当たり前のように善太郎のやりたいことをいつも応援してくれていたように……。

大切な人を愛し、愛されるって当たり前のことのようでいて本当に難しいことで、当たり前にあることほどその大切さに気づけないものだなぁと思います。善太郎が自分の愛をこの土壇場でどーんと口にしたのがすごく良かった! やっぱり想いは言葉にしないと伝わらないものだよねって思います。彼らにはこれからも仲良しでいてほしいな。

山岡兄弟さん『地獄ちゃん地獄へ行く』

https://x.com/happy_monD/status/1856322677033582660

壮大なスケールの物語で、この話は一体どこへ着地するのか……と思ったら、まさか1ページ目の問答がそこまで大きな意味を持つことになるなんて、物語の構成に驚かされました。

人類が優しくなった頃、苛烈だった地獄ちゃんの正義自体も和らいでいったように感じました。
「嘘」や「悪」で人を裁くとき、私たちはある特定のものさしで人を裁いているけれど、そもそも善や悪は必ずしも普遍的なものではなく、ある時代やある環境下で悪だったことが千年後、別の国では善となることもあり得ると思います。

人類が世代交代、あるいは輪廻を繰り返しながら普遍的な「善」に向かっていくものかどうかはわかりませんが、人類を己のものさしで裁いていた地獄ちゃんが人を許せるようになったからこそ、地獄は消えていったのかもしれない、と思いました。


私自身の卒業制作作品はこちらです!

オリジナル漫画『3,000メートル向こうの言葉』|モモチップス

未読の方はぜひ読んでいただけたら嬉しいです!

同期のみんなの作品に感想を書くことを通じて、各作品の良さが強く心に沁み入りました。ひとりひとりの個性が爆発している!
みんな大切な思いをそれぞれ漫画に託しているのだ、と感じます。尊い……。
コルクマンガ専科10期、本当にお疲れ様でした!
どうもありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!