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『遙かなる時空の中で7』佐々木大和ルート感想

『遙かなる時空の中で7』、佐々木大和ルートの感想です。

現代から主人公と一緒に異世界へと赴くことになる幼馴染、大和。彼のシナリオもまた本当に作りこまれていて面白かったの一言! 恋愛物語としてだけでなく、孤独で何にも真剣に打ち込むことができなかった少年の成長譚としても引き込まれ、胸が熱くなりました。

現代っ子世に憚る

大和の特徴としては、異世界に赴く主人公たち三人の中でも最も現代っ子らしい少年だということでしょうか。七緒は織田信長の娘ですし、五月は星の一族の末裔でゴーストバスターですからね……。

大和にも何か出身の秘密でもあるのかと思いきや、本当にただの現代に居場所がない霊感少年でした。現代での彼は、家族とうまくいかず、友達も少なくて、暇つぶしのためにいろいろなことに手を出してはすぐに飽きてしまうばかりでした。
しかし、その彼が異世界の戦国で剣術と出会ったのは、しかるべき運命だったのかもしれません。むしろ、ずっと剣に呼ばれていたのかも……。

しゃべり方や七緒に対する態度なども他の登場人物と比べて非常に生っぽい感じでしたね。「~じゃん?」みたいな口の利き方、非常に親しみが持てて好きでした。七緒と本当に仲がよくて、距離感が近いんだなぁということが二人のやりとりから伝わってきます。ほっぺたをつねったり、襟首をひっつかんだり、何年も一緒に過ごしてきた間柄独自の気安さがありますよね。

心の強さ

驚かされたのは、彼の自立心、自制心の強さです。
彼の家庭環境を垣間見ると、私は彼の父親に対して怒りが湧いてしまいました。とくに大和がふたたび家に戻れたときに、父の新しい家族となる見知らぬ少年がいて、家を出ていくよう示された場面。「私が大和の代わりに父親にパンチしてやりたい!」という気持ちになったくらいだったのですが、大和は落ち込みながらも、淡々としていましたね。

父親に受け入れてもらえず、傷付いているのに、彼は父を恨んでいませんでした。
彼は、父親にどうしてほしい、ということではなくて、自分がどうするべきかにひたすら向き合います。私は、彼の境遇では傷付いて当然だと思ったのですが、彼はそれを自分の「心の弱さ」だと言って、向き合おうとします。

大和は恨みません。相手に理解してほしいと、自分を受け入れてほしいとは、大和は最後まで言いませんでした。
それは、父親の心は父親のもの、自分の心は自分のものだと彼がわきまえているからだと思います。彼が責任を負うべきは、自分自身の心であって、父親の心のありようではないのです。

追い討ちをかけるように、ターラの罠で呪われた刀を手にしてしまった彼は、意に反して仲間たちを傷つけ孤立することになります。七緒のそばにもいられない。自分にも打ち込めるものがあると剣の道に救いを見出したのに、今度はそれが大切なものを傷つけてしまった……。
しかし、彼はそのときも、自分を陥れたターラや運命を恨みはしませんでした。自分の心と向き合うために、彼は山にこもって修行を始めます。もうこの時点で心が強くないですか!? 大和はすごいと思います!

当初は彼に放っておけないような脆さを感じていたはずが、いつのまにか本当に尊敬できる頼もしい男性に成長していることを感じました。また同時に、七緒のみならず仲間を彼が本当に大切に想っているのだということが、染み入るように嬉しかったです。

剣士・佐々木小次郎の誕生

ルートの途中でふと「あ、そういえば宮本武蔵のライバルだから、大和は苗字が佐々木なのか」と気が付いたのですが、驚いたことにその直後に「物干し竿のような長刀」が登場しました。

なぜか彼にそなわっていた、剣の道における天賦の才。
共通ルートの途中で、刀鍛冶から刀を贈られるのを断ったときのこと。
彼の持つべき刀があると言われたこと。
そして、七緒の相手が誰になるかに関係なく、ここまで見てきたすべてのルートで大和が異世界の戦国に残留するという事実。

本当に彼はこの世界で「佐々木小次郎」となることがさだめられた人物なのだと気づいて、突き抜けるようなふるえが走りました。

しかも、その後の話の運びが本当にすばらしい!
みたび戻った現代に父親にすべてを語り、剣士として生きていく道を選んだ大和。餞別のように、父親は古風な名前なら「小次郎」と名付ければよかったか、と漏らしました。そして、ターラとの最後の決戦で、いよいよ彼は新たな名前「佐々木小次郎」を名乗ります。
そんな彼の姿があまりにカッコよくて、ビリビリきてしまいました。

帰るべきところ

異世界の戦国に残るのか、現代に帰るのか。大和は剣の道に生き、異世界に残ることを決めました。
まず、ヒロインである七緒がどうするかに関係なくその決断ができるところがカッコいいです。そのうえ、彼は七緒の将来だからこそ、彼女自身にきちんと選ばせようとしてくれます。七緒が彼にとって大切な人なのは自明なのに、自分と一緒にいてほしいとか、異世界を選んでほしいとは言わないのです。

現代に五月が帰る前日、それでもまだ決断できない七緒に大和の放った言葉はとても素敵でした。

「これから先
 お前が俺の帰る場所になると思う」
「だから、どこにいてもいいよ
 どこにいたって
 勝手にお前を頼りにしてる」

この物語の途中で、七緒と離れなければならないときもあった彼ですが、その間も淋しくなって思い浮かべたり、悩みを頭のなかで相談したりする存在は彼女だったそうです。七緒こそが大和の居場所で、拠り所。本当は、きっとずっと前から……。

少年の成長と、大切な人への大きな想いに胸打たれたお話でした。

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