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『遙かなる時空の中で7』柳生宗矩ルート感想

『遙かなる時空の中で7』、柳生宗矩ルートの感想です。

私の攻略順としては阿国ルートのあとにこちらのルートをプレイしたのですが、見事に阿国の物語との対比になっていたと思います。
滅びかけた家を再興することの難しさを痛感したあとだからこそ、彼が複雑な情勢下で見事に柳生家再興を成し遂げた偉業が光るように思いました。

無表情の奥の優しさ

個人的な趣味として、宗矩のような感情の起伏が少なそうに見えて優しい人物はとても好きなので、かなり最初から彼のことは好ましく思っていました。

主人公の七緒が、意思は強いもののふんわり優しい感じの少女なので、彼女との組み合わせで見ていてもなんだかほほえましい気持ちになります。
鬼の末裔として生まれた宗矩の孤独が、隔意のない七緒に癒されていくのを感じるのは嬉しかったです。うんうん、そりゃあ好きになっちゃうよね……と思いながら、感化されていく彼を見守っていました。

無表情に見えてじつは心根は素直な人で、七緒に好意を持つようになると表情や言葉にあたたかい愛情がにじんで見えるところも素敵でした。

ラブレターの達筆な字が七緒に読めなかったため、武蔵が仲間たちの前で音読するシーンなどは、恥ずかしさのあまり思わず一時的にゲームのスイッチを切ってしまいました。ルート終盤になかなか厳しい展開が待ち受けているうえ、別離期間も長いため、恋愛としては苦いストーリーになってしまいそうなところを、ちょこちょことむずがゆいような甘いエピソードを挟むことでうまく緩和してくれていたと思います。

隠密と剣豪

柳生宗矩といえば、柳生新陰流を確立した剣豪ですよね。
しかし、とくに共通ルートでの彼は剣士というより隠密としての働きが全面に出ていましたから、『遙かなる時空の中で7』の柳生宗矩はそういう感じなのかと思っていました。そのため、ルート後半から尻上がり的に剣士としての彼の描写が加速していくのは驚かされました。

家康が言ったとおり、彼は守るべきものが増えて、「影の化身のような男」から「目に光が宿っておる」男に変わっていったということかもしれないと思います。

神子である七緒と、彼女が愛するものすべてを彼も守ろうと思うからこそ、影に徹する隠密としての役目以上に、人を活かす剣に生きようとしていくのでしょう。彼が弟子たちに慕われ、徳川家に重んじられていく様子は見ていて嬉しかったです。せっかくだから、私も史実の彼が書いた『兵法家伝書』を読んでみようかな。

神と人を切り離す

宗矩の運命は、恋愛劇としてはなかなか厳しいものに思われました。
徳川方についた彼はその後確かに出世していくのですが、愛する人がいないまま、長い年月を生きなければなりませんでした。

それでも宗矩は、七緒が残した「この後……神泉苑で私と宗矩さんは会えるはずです」という言葉を信じて、剣の道を極めます。そしてついに、神に属するものと人の世に属するものを切り離し、彼は七緒を取り戻すのでした。

そのとき、龍神のなかに溶けていた七緒の意識を引き戻すにあたって、宗矩が「七緒」と名前を呼んでいるところがポイントですよね。宗矩は思わず、自然とその言葉が口から出たのでしょうけれど、七緒の意識を導く標がこの名前であることは、すでに別のルートでも見た通りです。

柳生の一族を背負う人生

一族から離れて、人々に害をもたらすような行動を繰り返すターラ。彼女の処遇に、宗矩は物語のなかでかなり頭を悩ませることになります。正直なところ、彼がここまでターラのことに責任を感じる必要があるのかと思ってしまうほど……。
それは、彼のテーマが「一族を背負う」ということだからこそでしょう。
彼はその態度を、主君である徳川家康にターラの出生について報告することで示しています。

このテーマは、天地の対である、阿国との対比になっていますね。
家にしばられず、自分自身に従って生きることを決めた阿国に対して、宗矩はどこまでも一族を背負って生きていきます。それはまた、阿国とは違った意味で苦しいことでもあるでしょう。これまで無念のうちに死んでいった人々や、迫害されて苦しんだ人々のことすら、背負い続けていく生き方だからです。その証拠のように、彼はターラの死後も、ずっと彼女の墓参りをし続けていました。
そして、だからこそ、彼は静謐の世を築きたいと考えます。

柳生庄がやがて再生していくところを見ると、彼のなしとげたことの確かな意味を感じます。

一族を背負うことを苦しみに帰すのみではなく、視野を広く持って大切なものや守るべきものを増やしていくという意味で捉えなおしていて、非常に希望を感じるストーリーだと思いました。
苦労を重ねてやっと望んでいたものを手に入れた彼には、この先も大切な人と幸せな世の中を築いてほしいと思います。

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