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フォント作りで苦労すること / あるいはフルスタックフォントエンジニア(の憂鬱、か?)と対策
書体のサンプル画像の作成。
以上です。
その心はというと、私にとってフォント作りは用意するものが少なく、サンプル画像と比べるとわりとラクなため。
本校ではデイジィ・ベルの状況と対応・対策について書きました。
最近も「Stela* シリーズフォント」のデザインを2日で済ませたあと、書体見本の作成で詰まってリリースに2週間かかりました。
※「フルスタックフォントエンジニア」というのは持ちネタのジョークで「フォントフォーマット解説からフォントデザイン広報リリースまでぜんぶひとりでやってる」の意味です。
むかし「フルスタックエンジニア」という言葉があって、
「Webぜんぶできるすごいひと」
「Webぜんぶやらさせられるかわいそうなひと」
の両方の意味があったと思います...。
# フォントのサンプル画像とは?
書体見本というのはつまり『サンプル画像』のことです。
デイジィ・ベルではサンプル画像を重視しています。
理由は、単純に一般的なパッケージがキレイな理由の
「見た目の第一印象がよくないと製品を手にとってもらえない」
のもありますが、デイジィ・ベルのフォント製品では、
「こういう使い方のできるフォントなのか」
「作品のここに使えそうだ」
「わたしにも簡単に使えそうだぞ!」
と使用感を想像してもらうこと、実際に使ってもらうところへつなげることを狙っています。
ルーン文字専用&デザイン重視のフォント製品を持っているのはウチくらいだと思います。
他にないなら、使用例を示すのはとっつきやすさを増すためにも重要なのです。
デイジィ・ベルでフォントを作るとき、
「RuneAMN で気軽に魔法陣を描いてほしい」
「RuneAMN BlackLetterを魔導書の背表紙に使うと絶対に格好いいぞ!」
「CurcuitSolderが電子工作キットのパッケージに使われないかな」
「StelaRegularは同人誌の表紙に使われるのを意図してる」
などと考えるわけです。
ではそれを伝えよう、サンプルでお見せしよう、となったとき、当然に「魔法陣やイラスト背景・パッケージデザイン・同人誌をデザインする技量」が必要になるわけです...。
また『素材』を集めるという問題もあります。
フォントはモノクロのベクタが描ければいいのですが、
(キャラクタイラストなんて用意するのは黒塗りベタが限界です)
RuneAMN Freeのこの見本の背景は、じつは当時住んでいた借家の壁です。
RuneAMN BlackLetterのサンプル画像では、蔦囲みをベクタでヒイヒイいいながら初めて描きました。
RuneAMN StelcilArmyも、迷彩をベクタで(以下略)
CurcuitSolderでは、背景の電子回路の意匠も自分で描きました。
Stelaの背景の星屑は、それっぽく見えますが、なんと「Gimpで描いた『ピーマン』のスタンプ」です。
このテクニックをやったのがもう10年も前だったので、なんというか何が役立つのかとか隔世の感とかいろいろ頭を通り過ぎました。
GIMP2.8で星空を描く(基礎編) -偏りのある星空を作り出す-
# デイジィ・ベルではフォントデザインのほうが楽
私にとっては、サンプル画像よりフォント自体のデザインのほうがラクです。
これには2つ理由があって、
- 気が乗らないときにはやらなくていい
- (いまのデイジィ・ベルの力で実現可能な)作りやすいフォントしか作ってない
- 後方互換をそれほど意識していないこともあり、バリエーションを気軽に増やしてもサポートコストがほとんどない
というデイジィ・ベルの運営方針によるところが大きいです。
つまりここでは因果が逆、「フォント作りが楽」というのは嘘になっていて実際は「作るのが楽なフォントしか作ってない」です。無理をしてはいけない。費用対効果が高いところを狙えている、という意味では、私的に大変快い状況であります。
ともかく、デイジィ・ベルのフォント制作は、
- フォントデザインはテーマとなる意匠を決めて
(例:CircuitSolderでは「電子回路風」など)
- 7文字くらいのサンプルを作って
(フォント名をそのまま描いてみてtwitterへアップする)
- イケそうだと判断したらあとは量産作業
という感じです。
画像はすでに大文字が揃っていますがCurcuitSolderの初期校。
作りにくい文字もありますが、基本は根気による流れ作業です。
(CircuitSolderに限らずデイジィ・ベルのプロダクトは直線的デザインが多いため、Jjなどは困ります。また`i`はプロポーショナルが要求されがちなところと上に浮いている点のあつかいで悩まされることが多い。)
デザインしたあと、製品パッケージ化も大変な仕事ですが、デイジィ・ベルの場合はそれも楽になっています。
(配布経路・販路はデータのダウンロード)
デイジィ・ベルはフォントビルドシステムを持っています。
これは、fontforgeをコアにしたスクリプト群です。
開発期間は当時の3ヶ月くらい。
開発済みなのでマイナな機能追加はありますがそれくらいです。
データを流し込めば、フォントからリリース用パッケージまで、自動で生成されます。
# (フリーフォントとして)収録文字を明らかにする
フォントベンダは『書体見本誌』というものを持っています。
フォントベンダは以下の理由、
- (多くのばあい)100種類を超えるフォントを持っている
- 1つのフォントでも日本語1万文字以上(!)を収録している
によりたくさんの文字を持っているため、全文字を印刷・収録していることは稀です。
また、フォントベンダであれば、ユーザに「わたしが使う文字は当然に収録されているだろう」という前提としての期待があり、フォントベンダは当然それに答えている、というのもあります。
フォントベンダはこれを「第四水準漢字まで収録」などと一言で済ませています。(が、その一言の裏で支払われている労力には頭が下がります。)
一方でフリーフォントの場合、「アルファベットだけ」で記号もない、カナはあるが漢字は作者が試しにつくった2〜3個だけ、というのもあたりまえです。
なので、収録文字を明らかにしておくという意味でも、書体見本誌には全文字収録を基本としています。
デイジィ・ベルの書体見本誌フォーマット サンプル
(RuneAMN font Serif)
デイジィ・ベルでも、ルーン文字など特殊な文字を扱っているため、ASCIIの記号`@$`とか、収録してないことがよくあります。
ちなみにルーン文字には句読点・数字がないのですが、過去にアップデートで追加収録しました。その方がイラストレータのユーザの方々には便利だと判断してのことです。
閑話休題。
# デイジィ・ベルで画像の用意を楽するための工夫
目的は対応の共有なので、その話を。
デイジィ・ベルでは、次のような工夫をしています。
## 共通の書体見本誌フォーマット
デイジィ・ベルが確実にフォントを世の中に出すために、何よりリリースまでに用意すべき素材・データの数を減らし、考えることを削減するのが大切でした。
書体見本誌は、シンプルな見た目で色数も少なく、どんなフォントを作ってもおおむね流用可能なものを、初期にがんばってデザインしました。
またフォーマットが揃っていることは、単純にシリーズを並べた際の美観も良くしてくれます。
## 姉妹フォントにはサンプル画像の元データを流用・またあいのりする
BlackLetterで小文字追加の姉妹フォントを作った時、サンプル画像データはそのまま流用しました。
他にもRuneAMNの基本シリーズは色変えくらいで見本を共有しています。
類型のKnifeシリーズなどは、もう見本データにあいのりして、そもそも描く必要のある数を減らしています。
(観察すると、背景素材も別で使ったものを流用しているのがおわかりかと思います)
下の画像はそれぞれ、Lumo4のレギュラー書体と長体です。
(同じといいつつ位置調整など工夫しています。本当は手間をかけたくないのですが、書体ごとの特徴にも合わせてやりたくなって、結局手作業が入ります。)
## その他
使用例と広報目的として『魔法陣素材を100作る』というのをやったのですが、その後この素材がフォントのオマケ&独立した商品になり、なんならフォントそのものより売れていることもあります...。
以上です。