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ママチャリ、フェリーで小豆島に渡る

2022年の冬、仕事の本格的な繁忙期到来前の最後の旅行先として、暖かくてのんびりしたところに行きたいと思った。
そこで浮かんだのが、瀬戸内国際芸術祭で行きそびれた小豆島だった。

思い立ったが吉日。飛行機で高松に飛んだ。
高松のいいところは、駅と港がすごく近いところだ。駅に降り立った途端、船旅が始まる予感に胸が膨らむ。

駅直近の地下駐輪場に行き、1日200円の市営レンタサイクルを借りた。
少し年季の入ったママチャリが今回の旅の主役だ。
瀬戸内国際芸術祭を目当てに高松に来ていた時、Airbnbのオーナーが、「島に渡ってから自転車を借りると高いから、高松で借りてフェリーに乗せて行ったほうがいいよ。」と教えてくれた。
その教えが染み付いていて、フェリーで運んだレンタサイクルを交通手段にすることを、何の疑いもなく小豆島旅行の前提条件にしていた。

フェリーターミナルで自転車付きの大人往復チケットを購入し、乗り場に向かう自動車の列の横の、二輪車専用レーンに並んだ。レーンには私一人だった。
一番乗りで自転車を押してフェリーに乗り込み、デッキの左端に停めてけばだったロープで壁に括り付けた。
フェリーのデッキに自動車に紛れて1台のママチャリ。振り返ってもう一度眺めて満足し、うきうきとしながら客室に向かい、海がよく見える窓側の席に腰掛けた。
実はここがこの旅行のピークだった。

小豆島に到着して1時間も経たないうちに、交通手段を誤ったことを認めざるを得なかった。
まず、宿泊先に辿り着くだけでも一苦労だった。島の地形のアップダウンが運動不足の足腰と心肺に容赦なく襲いかかる。坂道の途中で自転車のスピードがゼロになり、何とか自転車に乗ったままもう1m進もうと粘るものの、2秒後に倒れかけた自転車から降りる。手押しで進みながら息を整えてまた漕ぎ始め、しばらくして停止。この繰り返しである。

島ってオムライスのような形だと思っていたが、実際には焼き目のついた裾の部分にも結構なアップダウンがある。定食屋のオムライスではなく、一時期流行った、ドレスみたいにひだひだのある小洒落たオムライスに近い。

アップとダウンが交互に来ればまだいいのだが、アップ、アップ、アップ、アップ。連続されると手押しで前に進む気力もなくなる。
坂道の中腹で力尽きた私は、ふとネットに入った農協のみかんを自転車のかごに積んでいたことを思い出した。そして、道路の端に自転車を停めて、目の前の道路を勢いよく通り抜けていく車を眺めながらみかんを食べた。
へとへとで甘かったのか覚えていないし、せっかく島に来たのに雑木林に遮られて海も見えない。そんなシチュエーションだったのだけれど、勢い任せで苦労する旅は久しぶりの青春だった。心にこっそりしまっておきたい武勇伝が、また1つ増えた。

(写真:小豆島のAirbnbのベランダから)

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