2021.9.28. ~エレベーターこわい~
・6
エレベーターが苦手だ。特におなじ事務所で働く人と一緒にのるとき。
みんなおもしろい人たちで、仲も良い。けれど、仕事の外の時間で話したことがないし、その様子をまだみたことがなかった。
いつも通り和気あいあいと話すのだろうか、案外さっぱりしていているのだろうか。
この現場にきて約2ヶ月。ようやくその輪に足を踏み入れたくらいのわたしは、どうやり過ごせばいいのか、わからなかった。
エレベーターに乗るくらいで心臓がドキドキしする。一瞬の時間に無理をすることはないかなと思って、いつも階段をつかっている。
しかし今日はエレベーターに乗ろうと決めた。
事務所に向かって歩いていると、まもなく、同じくらいの年齢の東さんがわたしを追い越した。1ヶ月も一緒に働かないうちに別の階に異動になった人。ほとんど話したことがない。
わたしが入り口まで10mくらいのところで、東さんは中に入ってエレベーターのボタンを押して待っていた。やっぱりやめとこうかなとも思ったけど、意を決してその後ろで待つことにする。
おはようございますって言おうかな… 戸惑われたら罪悪感あるからやめようかなあ…
あいさつひとつで頭いっぱいになっていると、雀部さんというおなじ事務所の人がやってきた。おだやかな40代後半くらいの女性だ。
あいさつが増えた…!!! 今日にかぎって2人とはちあわせるとは!!!
うおーーーっと心はもがきながらも、体はただ突っ立っている。
雀部さんが、エレベーターの脇においてある、非接触体温計に手をかざす。体温計は32.7度を表示して「正常です」という。
「32度ってでちゃいましたね…!」
「これって正常じゃないよね~笑」
勇気をふりしぼることもなく、言葉がもれ、会話が生まれた。
エレベーターに3人でのりこむ。雀部さんと体温計の話しを続けながら、ボタンを押して待ってくれた東さんに「おはようございます」と小さく声をかけた。
会話が途切れて、しんと、事務所がある階にとまるのを待つ時間。
東さんがポケットに突っ込んでいたスマホが、ダンっと音をたててを落ちた。
「ちょっと、大丈夫??」
雀部さんが笑いながら声をかけたのにつられて、東さんが照れ笑いした。わたしもなぜか、照れ笑いした。
今日、エレベーターに乗って、よかった。