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まちまちのあとで: 夏休みの魔法と夢と現実

立つ場所が違えば


青森を旅先に決めたのは、フェリーに乗ってみたかったから。

船への憧れはずっとあって、このタイミングだと思った。

出発の日…8月25日は、札幌→函館(バスで5時間)からの津軽海峡フェリー(3時間)で、朝に出発して到着は21時。移動の1日。

フェリーは思ったより揺れなかった。

初めてなので一応酔い止めを買った。その時に対応してくれたフェリーの従業員の方が、「こっちを頭にして寝ると…」とか酔いにくい方法を教えてくれたり、到着の時まで「大丈夫でしたか?」と気にかけてくれて、1ミリも酔う気配がなかったのが逆に申し訳なくなった。


出航して少したち、ドキドキしながら海を見に行く。一番楽しみな瞬間。
風が強くて潮風が少しベタベタする。

柵を持って船と海の接地面を眺めると、海が見たことない模様だった。まるで霜降りがかった高級なお肉。

まあ、でも、私は安いお肉の方が好きだ。焼肉で霜降りなお肉が出ると、美味しそうよりもこれ何枚食べたら胃もたれすんだろうとか思ってしまう。

少し眺めたら階段を登って船の少し高いところに行った。
それからしばらく進行方向とは逆の、離れていく陸を眺めていた。
北海道の先があんなに遠くなっているのに、何も思わなかった。


出航の時点で夕陽が出ていたんだけど、船内に戻ってしばらくすると日が隠れてきていた。

私の身長より大きそうな窓から見た海面は、

氷みたいに滑らかで静かで、雲の隙間から少しだけ漏れる光がレースのカーテンみたいに見えた。
初めて見る海のスンと澄ました姿に、「知らない」と思ったし、立つ場所が違えば同じものでも違う姿が見えるという、至って普通のことを思ったりした。

移動時間は、本当に何もしなくていい時間という感じですきだ。まる1日移動でも苦じゃなかった。ずっと大体何もしていなかった。


そしてその日は青森駅近くのホテルを取ったんだけど、フェリーターミナルからホテルに行く交通手段がない(金なしなのでタクシーの選択肢はない)!

結果、50分くらいキャリーバッグを引いた。みじめすぎる…荷物は最低限にしたのになぜこんなにも重いのか。
夜でも真夏なので汗だくになって、本当につらかった。

夜でも大きな道路にトラックとかがビュンビュン走っていて、歩道は狭くて、車になんとなくムカついた。

暗い中でパチンコ屋だけが異常にピカピカ光っていた。


大人のファンタジー

青森で驚いたことは、まちを行き来するのが難しすぎること。
例えば、青森市と十和田市みたいな、主要なまちとまちが結構離れていて、電車とかバスで行くんだけど、電車は結構高い。なので基本バスを使った。

すると起こるのは、青森駅→十和田市に11時に着く便と15時に着く便の2本しかない、という事態。
帰りのバスの最終便が15時なので11時に着く便に乗ることになるが、4時間しか滞在できない。
街歩きがしたい私には結構つらかった。

特に何も考えず(悪い癖)、旅行2日目からは十和田湖に宿をとっていたけど、十和田湖から十和田市に行くにも1時間30分かかる。
こんなに遠くて便が少ないとは!

反面、毎日夕方に宿に帰ってゆっくりできたのは嬉しかった。

青森では、何もえらいことをしていないのに毎日温泉に入った。


旅行2日目には、十和田市美術館を見た後、私のゼミの先生のお友達であるAさんにお会いした。

Aさんとなじみの松本茶舗さんという場所で待ち合わせをしたが、外観はお茶とか湯呑みとか生活用品が並んでいる歴史ありそうなお茶屋さんであった。
Aさんよりも早く着くと店主の方から「作品を見に来たんですか?」と声をかけられた。この場所に作品?

私は「?」という顔をすることしかできなくて、少し気まずい感じで中を見ていた。そんな中でAさんも店に到着して、私が札幌私立大学の学生であることなどを説明してくださった。

そして、店の奥に歩いて行くと、いきなり現れたのはティンパニ? ……の上に泡立て器、ビニール袋が宙に浮いている。と思ったらそれらが動き出して勝手に音を奏でる(気になったら松本茶舗で画像検索してみてほしい)。

ぼん、ぼん、と控えめなティンパニの音、ガサ…ガサ…という袋の音が、まるでボソボソ話しているよう。

美術館のような展示空間ではなく、店内にいきなりあるので、私自身も「今から作品を見るぞ!」という心構えがなく、不意打ちで、さらに店の生活感が奇妙さを引き立てていて魔法かと思った。


そしてその作品の後もお茶碗で奏でる演奏だとか、地下室に眠る日本とかを見せてもらった。
店主の方の解説が凄くて、本当に作品が好きなことが伝わる。聞けば店内の作品たちは、十和田美術館に常設展の作品を作った方のものだったり、企画展で十和田市美術館に来たアーティストの方のものらしい。すごい空間だった。


この感動はなんとも伝え難いけれど、街の日常とアートが侵食しあっているのが逆にその異様さを際立たせていて、これは、大人のファンタジーだと思った。この言葉はスピッツの「オバケのロックバンド」から引用してみた。

アートが松本茶舗での暮らしを吸い込んで、普通の顔をしながら、いつものように魔法を使うみたいな… そういう、大人の顔をしたファンタジーだった気がした。

店を出るときに同じ頃に店に来ていたアート好きの紳士3名と店の前で記念写真を撮った。


誰の夏休み


3日目。

せっかく十和田湖に宿をとっているので十和田湖周辺を散策して1日を過ごそうと思った。

十和田湖の宿のオーナーの方はとても優しくフレンドリーで、素敵な滞在だった。

そこで一番嬉しいのは、自転車が自由にレンタルできること♪
私は自転車を持っていないのですごくワクワクした。


カラフルな自転車がある中で、黄色を選んだ。私は黄色い乗り物に憧れがある。


宿から十和田湖まで自転車で7分くらい。十和田湖のあたりは本当に落ち着くし気持ちがいい。


秋田との境界があるのを知らなくて、知らないうちに秋田に侵入して驚いたりしながら十和田湖まで漕ぐ。 涼しい。

観光施設の廃墟が多いのも独特の雰囲気があった。



10時くらいに十和田湖に着くと、すぐ目の前に遊覧船。
老夫婦が乗ろうとしている。

遠くに山。雲。
爽やかな景色。


十和田湖はすごく水が透明で驚いた。本当に綺麗。

あちこちで子供がお母さんに「あし水につけていい?」と聞いて「だめ」と言われていた。こんな暑くて晴れた日は、水にさわりたいよね。

周りには乙女餅?とか、きりたんぽとか、ソフトクリームとか色々売っていて楽しい。

ソフトクリームを食べながら神社に行ったり(まっすぐ生えた木々が茂り、本当に神様がいる雰囲気で、ソフトクリームを食べながら鳥居をくぐったことをなんとなく申し訳なく思った)、小石を拾ったり、喫茶店でホットケーキを食べたりした。

ホイップクリームが添えられていて、薄焼きのまんまるホットケーキに、ホテルとかの朝食で出る小さなカップに入ったバターとメープルが嬉しかった。




15時位、頭にぽつ、ぽつ、と水が落ちてきて、ハッとして急いで自転車を漕ぎ、宿に戻って少しすると、ザーザーというよりドドドという感じの大雨が降った。

それを聴きながら、和室の宿でベッドに転がり「夏休みだー」と思ったりしたけど、


なんというか、私ではない誰かの夏休みをやっている、という感じがした。

そのまま昼寝した。


ドキドキ、キリハリ、ギリギリ、アウト


四日目。
再び十和田へ。五日目は朝からフェリーで帰るので、実質最後の日。

この日の目標は、松本茶舗に私が作った本を置いてもらうことである。

私の研究では、旅の滞在中に本を作って、その土地に置いてくるというところがゴールだ。青森二日目に訪れたとき、松本茶舗に本を置きたいと思った。

函館では滞在していたホテルで本を制作したが、今回はこの日まで本を作っていなかった。それは、街歩きが足りない!と思ったから。

二日目の時はほとんど街歩きができていなかった。街歩きをろくにしない旅行なんてさみしい。

四日目は
11時に十和田市到着 → 街歩き → 17時45分発のバスまでに本の制作&松本茶舗に設置
というハードスケジュールを組んでギャンブルをしてみた。

バスの時間までの5時間くらいで、本の文面や写真の編集、画面の配置を終わらせてコンビニでコピーし三冊程度を製本、松本茶舗に戻って設置してもらう、までやるぞー。

バスに乗り遅れると一巻の終わりなのでどきどきだった。


結果、私は私自身のギャンブルに負けました!!
やればなんとかなる、というのを信じ続けていた人生なのに、全然なんとかならなかった!

つまり、本がバスの時間までに完成せず、松本茶舗に本を渡しに行けなかったということ…


でも、十和田市の街歩きはとてもおもしろかったので、やっぱりその選択でよかったと思う。私は後悔をあまりしたことがない。



時を戻すと、私は到着して1時間程度の街歩きをしたら、松本茶舗に行って「私はこういう研究をしていて、今から本を作ってくるので、本を置いてくれませんか」と頼んでいた。
思い切った行動に見えるけど、実際は何回も心の中で練習をして、怯えながら小さい声で頼んだ。

店主の方はとても優しくて、全然話したこともない大学生の制作物を置いてもいいよと言ってくださった。

わーい!と喜んで、店主の方に教えてもらったカフェに行き、14時くらいから作業開始。残り時間3時間ちょっと。

本のカタチは3日目に宿で考えた。全ページを開いて立たせると湯呑みの形状になる仕様。これはAさんから頂いた「本にとらわれずに立体にしてみたら」というアドバイスを取り入れたもので、画像のようなモビールの立体感を持たせる形状からもヒントを得た。

https://hokuouzakka.com/products/9019-051
試作品


函館で作った本は、ジャバラ折りで作ることで片面印刷でOK(旅先のコンビニで印刷しやすい)にした工夫があったけど、今回の本もそれを応用し、3枚のA4用紙を蛇腹におって貼り合わせる仕様である。
松本茶舗でアート作品が独特な雰囲気を出しながらも馴染んでいる様子に面白さを感じたので、湯呑みの形にしたら私の本もそうなれるかも、と想像しながら考えた。



カフェで本のトピックスを考え、文章を打ち、写真を選定したら、コンビニでプリントして切り、本の形状に折った紙に配置する。

どのページにどの写真を載せるか決めたら、写真と共にトピックスのイメージに合わせて雑誌のページをコラージュしていく。


この時点で私は相当焦っている。


あれ?間に合わないかも!
いや、間に合わなかったらその時考えよう、いや、間に合わない=バスを逃しているわけだから、それは絶対にダメだ、帰れなくなる、ヤバい!!


無料スペースの机で、必死の形相で雑誌や写真を広げて切り貼りしているのを何人かすごく不思議そうにみていた気がするが、そんなの痛くも痒くもないくらい必死だった。あの焦りを思い出すだけで喉のあたりがぎゅっとなる。



とりあえず本の原本が完成し、よし、、、!走ってローソンでコピーすると….色が変すぎる!

コンビニによってコピー機の色の出方が違うというのがあって、ローソンのコピー機はちょっとウマが合わなかった。


この時点でバスが来る10分前くらい。
違うコンビニでコピーする暇もないし、コピーできたところで3冊製本→松本茶舗に行ってお渡しする時間がない。


ガーン!


「とにかく今はバスに乗らないと」「青森駅のホテルに帰らないと明日朝のフェリーも乗れなくなる!」
バス停で松本茶舗に電話をかけ、
・間に合わなかったこと
・今日ホテルで仕上げて郵送しても良いか
ということをお話しした。許してくれました。


今思うと、いきなりきて完成品もないのに「本を置いてくれ」と言ってきた挙句「できませんでした」って、変すぎる!

結局ホテルで、焦りすぎて変になったところとかを直し、製本して次の日の朝ポストに入れた。
その日のホテルはなんだか寝る気にならなくてほぼ朝まで起きていた。

生感をだすためにチェキをつけてみた。
裏表紙には十和田湖で拾った小石を貼り付けた


夜中1時とかにコンビニに夜ご飯を買いに行って、対応してくれた店員さんとか、なぜか覚えてるなあ


あとがき:わたしのリアリティ

いつもあまり計画しなくても普通に旅行できていたので油断していた。

土地の交通機関とかそういうのだけは知っておくべきだったなー

頑張って急いで最終的にグチャグチャってなるのも自分らしい気がする。

失敗するとその時は心が揺らぐので、本が間に合わなかった後のバスに揺られながら、ホテルで本を作りながら、「何やってんだろう」と何回も思った。「こんなことして何になるんだ」…


でも、今は、きれいなことよりも、こういうグチャグチャがあった方が、読み手にとって私の旅がリアルになるんじゃないかと思う。

どんなにきれいに見えても、作った人は悩んだり、苦しんだり、恥ずかしい失敗をしたり、変なことをしちゃって気まずくなったりしているものであるのに、私たちは完成品だけを見て暮らしている。それがさみしい時もある。

このことに、旅の中で本を作る計画に失敗して気づいた。


今私がどうして旅の本を作るかというと、結局、今のSNSみたいに、なんかちょっと楽しかったとか、ちょっとやだったとか、みんなに教えたい気持ちがあるからで、そういうことをきっかけにして人と繋がりたい、というふうにずっと思っているからかもしれない。

趣味は何ですか、とか、学校は、仕事は、とかよりもぼんやりしているけど、
散歩でこういうのを見つけて何となくうれしかった、みたいなことを言い合って共感したり、新鮮に思ったりしたい。


さて この次はどこに行こうかな!
北海道はこれから冬に突進していくので、暖かくて、冬でも植物が生えているところがいい。
夏休みの話をしていたから、急に寒さを実感してさみしくなった。
冬服になるけれど、旅では絶対に荷物は軽くしよう。



ここでさんざん、失敗したとか嫌だったとかの話をかいたけど、今になって思い出すと、夜どうしてもあったかいお茶が飲みたくてホテルのポットで沸かしたお湯がすごく変な味がしたことが、じわじわと、一番嫌だなあ









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