【短編小説】夢想
静寂の中で、声が聞こえた。
僕はそっと目を開け、耳を傾ける。
「まだそんな所に居るの?カズくん」
聞き慣れた声。
カズくんというのは、僕のあだ名だ。
透き通った声で、僕の名を呼ぶ。
忘れもしない、愛しいユリア。
「こっちに来てくれてもいいんだよ」
嗚呼、分かってるよ。
でも僕は、まだやり残してる事がある。
そちらの世界へ行く訳にはいかないんだ。
君の分まで幸せになるって、そう決めたから。
「なんてね、冗談だよ」
くすくすと笑いながら、君は続ける。
「カズくんのこと、ずっと見守っているから」
何度、こんな夢を見ただろう。
いつも目覚めた朝は、涙が頬を伝う。
僕の大好きな、ユリア。
世界は容赦なく、君を奪っていった。
交通事故だった。
僕達は恋人同士で、とても幸せだった。
なのに、あまりにも残酷だ。
寂しさを抱えたまま、僕は今日も生きる。
だけど、いつまでも引きずる訳にもいかない。
じゃないと、ユリアに笑われてしまうから。
「じゃあ、行ってくるよ、ユリア。」
笑顔の二人が映る写真立てに向かって。
僕は今日も声をかける。
ユリアが笑っている、そんな気がした。