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京都のあんかけ

年末なので京都に帰っている。会社の後輩がたまたま京都にいたので、昼過ぎから遊ぶことにした。ランチは各々で済ませてから集合することになったので、四条河原町から集合場所であるAce hotelまでの道すがら、裏寺町の龍鳳に入った。

広東料理と書いてあるが嘘八百、完全に京都オリジナル中華である
カラシそば

カラシそば。メニューにはカラシ入そばと書いてあるけど、客も店員もカラシそばと呼んでいる。
中華麺に鶏、白菜、ネギ、しいたけをとじた餡。京都中華、特に祇園に近い中華の特徴としてニンニクやスパイスを入れないことがある。このカラシそばもニンニクが入っておらず、代わりに餡にカラシを溶いてある。ダシが効いていて、カラシが無ければおおよそ五目そばになる味。
この餡がしっかりと固い。大抵の餡かけは食べ終わる頃にはシャバシャバになっているけど、このカラシそばは最後までとろみが消えない。京都は冬の寒さが厳しいからか、あつあつでしっかり固い餡かけが多い。強いスパイスを使わない代わりに熱も味も逃すまい、というバランスが気持ちよい。
麺に具にねっとりと餡を絡めて口に放り込むと、カラシが舌をとらえてちゃんと辛い。白菜やしいたけを噛むとじんわりとダシが滲み出て、カラシを穏やかに中和する。ツンと抜ける辛味を感じながら全て食べ切る頃には身体は芯からポカポカになり、厳冬の京都の街に出てもしばらくは汗が引かない。

京都の餡だと、永正亭のあんかけそばも良い。永正亭は寺町四条を下がったところにあり、家から近かったので学生時代によく行った。初めて行くと気付けないくらい細い間口を見つけ出して店に入ると、入口の給水機でコップに水を汲んでから席に着く。8つほどある机の下にはジャンプやスポーツ新聞が入っているが、置いてあるものはバラバラなので、読みたい本に当たると嬉しい。
有名なのは特田舎そばという、冷たいそばに天かす、大根おろし、海苔、青ネギ、卵黄を乗せたもので、わたしも普段はそれを食べる。でも体調が悪い日や、雪が積もるほど寒い冬にはあたたかいあんかけそばが食べたくなる。

いろいろな具が乗っている特田舎とは対照的に、あんかけそばは驚くほど淡白な見た目をしている。薄くにごった餡の海の真ん中に、ポツンと生姜が乗っている。龍鳳のカラシそばと同様、餡が固い。餡がギンギンに熱を閉じ込めているので、箸で混ぜると中から湯気が吹き出す。
掘り進めるとそばが出てくるが、一口啜った瞬間、あまりの熱さに上唇と舌をやられる。毎回気をつけようと思うけど、どういうわけか何を備えたところで火傷してしまうことになっている。フーフーと冷ましてから餡をすすると、濃厚なダシと生姜の香りが鼻から広がる。熱と生姜の滋味深いパワーで弱いウイルスくらいなら撃退してしまうと思う。知らんけど。
味の構成は単純で、要はそばに絡めた餡のダシと生姜の風味を楽しむだけ。シンプルであるからこそ飽きが来ず、ハフハフと最後の餡まですくいきってしまう。

カラシそばもあんかけそばも、これを食べるために街まで出てくる、という品ではない。高島屋の販売員さんがランチでささっと駆け込むとか、JRAに競馬を見に行く前に腹ごしらえをするとか。旅の目的にはならないけど、軽く食べられる昔からのファストフードにこそ京都らしさが詰まっていると思う。餡にとじてあるのは熱と旨み、あと情緒。

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