Man in a House
1
{
(土曜日のバトル・フィールドで。)
G、しばらくね。
ああ、スパロー、元気そうだな。
まあまあですよ。今日は、どうしたの?
うん、コマンダーに話があってな。
難しい話?
いや、ブックがな、俺が関係してる団体に参加してくれることになって、コマンダーに断りを入れておこうと思って・・・。
ドリーム保全センターですか?・・・律儀だね。
まあ・・・ブックは、退役したとはいえエリート戦士だったからな。
仁義を切ったの?
ハハハ、言葉遣いには気をつけろ。
はい。・・・ター坊にも、よく言われる。
そうか、言うことを聞くと良い。
ねえ、G、お昼一緒に食べない?・・・奢るよ。
良いよ。割り勘だ。・・・食堂かい?
外に出たいな。外出許可を取るわ。
そうか・・・。
}
{
G、車、新しくなったね。
リタイアしたからな。自分で持たなければならなくなったんだよ。
買ったの?
リースだよ。中古の軽を探したんだが、品薄で値が上がってた。この車だって、車種が限られていてな。
けっこう広いね。
さあ、行こうか。
はい。
ファミレスで良いか?
はい。ター坊とも、よく行く。
}
{
(ファミレスの片隅で。)
昼は、外に出ることが多いのか?
いいえ。いつもは、ガーティや櫂ちゃんと食堂で食べてる。
仲が良いのかい?
微妙です。
そうか。良好な関係か・・・。
私の言うこと、聞いていますか?
ああ、日本語は得意なほうだ。ネイティブだよ。
知ってる・・・私もだわ。
}
{
G、除隊してから、何してるの?
うん、仕事も辞めたし、無聊を託つ余生を過ごしてる。まだ、数ヶ月だがな。日課は庭の草取りだよ。
不満なの?
・・・俺は、何処へ行くべきなのかな?・・・何をすべきか・・・。
70年以上も生きてきて、解らないの?
そうだね。愚かだ・・・。
そんなことないよ。・・・あなたは、愚かじゃない。
・・・家族・・・学校・・・会社。そんな神話に、盲目的に従って・・・反発してきた。
悪いことじゃない・・・。
見捨てられた気分だよ。
alone and forsaken?・・・やれやれ、厄介なお爺さんだね。
}
2
{
ねえ、G、世界統一政府って何?
全世界を統治する一つの政府だね。
社会主義?
・・・全世界を、一つの政府が、独裁的に統治する・・・。
そんなことが出来るの?
不可能ではないと思うがね。・・・軍事、経済、情報・・・理論的には可能だよ。
・・・・・・。
まあ、そうなっても、長続きしないと言われてるが・・・。
そうなんだ。・・・G、ドリーム保全センターでは、何をしているの?
ウェブサイトのコンテンツを担当している。自宅での作業だ。
凄いね。
そんなことはないよ。
お爺ちゃんにしてはねって意味です。
ハハハ、そうか。
どんな内容なの?
土曜日戦争の事だよ。戦士の紹介とかな。・・・物事には始まりがある。しかしな、その活動は世代を超えて記憶されることは無い。記録しなければ、それまでの活動が無駄になってしまう。
無駄になっては、いけないの?
良い質問だ、スパロー・・・。
気にしないで・・・言ってみただけだから。
}
{
(スマホを操作するスパロー。)
おい、何してる?
ドリーム保全センターのサイトを見てるの。私も載ってるわ。
見たこと、無いのかい?
うん・・・エゴサーチしないから。ター坊はするかもね。あいつ、自意識が強いから・・・。
同じ高校だっけ?
そう・・・サーティーズだよ。
ん?
成績が、クラスで30番台。
良いのかい?
まさか・・・でもね、これが侮れないんだって。そこそこの大学に合格したりするそうよ。
(さらに、スマホを操作するスパロー。Gに画面を示す。)
ねえ、これ、あなたのサイトでしょ?・・・裏アカ的な・・・。
ああ、そうだね。
}
3
{
感想は受け付けていない。
テーマは何?
俺が、その中で生きて行くストーリーを探している。
見つかった?
いや・・・。
見つかる?
いずれ、そうなると思うよ。
でも・・・確信は・・・。
無いよ。
大変だね。
人生は、いつも大変だ。
・・・楽すれば良いのに。
ハハハ、体と精神に良くない。老人には負荷が必要だ。そうすれば、反発心が生まれるだろ・・・少しは強くなれるかもしれない。
強くなりたいの?
まあな・・・曲がりなりにも父親だ。
だって、娘さんも息子さんも独立したんでしょ。役割を終えたとは思わない?
そういうことじゃないのかもな・・・。
}
{
俺は、週のうち何日かは、門の外に出ない日がある。午前中、庭に出て、それが終われば自室で考え事をして、午後には飲酒・・・やがて、その日が終わる。
・・・・・・。
スパロー、生き方は、人それぞれだ。老人だから、こうしなければならないということはない。そうすれば、長生きできるということもないし、長生きすれば良いというものでもない。
私は、お父さんやお母さんに長生きして欲しいし、幸せな人生を送ってもらいたい。
・・・君は、良い娘だな。
お爺さんに褒められてもねえ・・・。素直に喜べない・・・。
お父さんやお母さんの幸不幸は、彼らが判断するよ。・・・君の想いとは別に。
・・・なんで・・・そんなこと言うのよ。
いや・・・親子の絆を否定しているわけじゃない。
・・・・・・。
そろそろ行こうか。
はい。
}
{
シートベルト・・・。
はい・・・大丈夫です。
スパロー、今日はありがとな。
えっ?
}
4
{
そう言えば、先輩とデートしたんだって?・・・昼間からキスしたとか。
ヤダなぁ。なんで知ってるの?
ター坊に聞いたよ。・・・そりゃあ、気になるだろう。
・・・ラブレター貰ってたからね。彼、モテるタイプだったし、興味があった。でも、キスされて、体にも触られて、逃げ帰った。失敗しました。
ハハハ、そうか、そうか。
笑い事じゃねえです。デートを重ねたら・・・セックスすることになったかも。
ふ〜ん、女も大変だな。
・・・はい。
}
{
さあ、着いたよ。ター坊のバトルに間に合ったか?
ギリ、大丈夫です。
じゃあな・・・。
G・・・元気でね。
ああ・・・ありがと。
}
ーーーーーーーーーーーーーーー
{
シュガー。(屈託のない笑顔のター坊。)俺のバトル、見てくれたかい?
うん・・・。悪くない、よくコントロール出来てたわ。
勝利ポイントも稼げた・・・。
ああ、ランキングね。計算方法が解らないけど。
見たのかい?
保全ドリームセンターのサイトだよね。Gに教えてもらった。スリーピーがトップ、キッド、マシュー・・・バンビ・・・アノゥニマスも居たかな。あなたは、やっとトップ10に入ってる。
やっと?・・・随分な物言いだぜ。
・・・悪気はありません・・・。
そろそろ、バスの時間だ。行こうか・・・。
はい。(足早に歩くター坊を追うスパロー。)
}
{
(小型バスの座席に、並んで座る。)
昼、外に出たのか?
うん・・・Gに連れて行ってもらった。
爺さん、元気かい?
それなりに・・・。性的な妄想に囚われている・・・。
俺と同じだ・・・。
そうなの?
}
5
{
ター坊・・・誰かが、家族の負を背負うわ。私の家族の負は、お兄ちゃんが背負った。
同意できないね。
でも、そういう事だと思う。もし、あなたと家族になったら、私たちの家族の負は、私が背負うよ。
よせよ・・・俺、そんな事、望んでない。
解ってないくせに・・・。
そうかもな。
}
{
(バスを降りる二人。)
着いたよ。
ああ・・・。
明日も会う?
明日?・・・シュガー、このまま別れたくない。
・・・どうする?
特に考えはないよ。
じゃあ、ここで別れよう。明日、9時前に迎えに来て・・・。城址公園と歴博に行こう。
悪くないね。
約束ね。
ああ・・・。
ター坊・・・来て。
なんだよ。
私からキスします。舌を絡ませてみようかなと思ってる。・・・タバコ、吸ってないよね。
ああ、ルールは・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
}
令和4年8月27日