Scent of a Girl Ⅴ
1
{
おい、スパロー・・・ちょっと待ってくれ。
なに?・・・ジョシュア。
うん、訊きたい事があってな。
言ってみて。でも、答えられない事もあるわ。
それはそれで良いんだ。・・・おまえ、ター坊と付き合ってるよな。
はい。
セックスしたのか?
不躾です。その質問には答えません。
そうか・・・まだなのか。
あなたはどうなの?
まあ、なかなかチャンスが無くてね。
ボヤボヤしていると、誰かが彼女をモノにしますよ。戦略分析室の櫂ちゃんでしょ?・・・彼女の周りには、経験豊富なバージン・キラーが沢山いるかもね。
よせよ・・・心配するじゃないか。そうなのかなあ。・・・ビリーか?
・・・ジョシュア、解ってないね。ビリーは、そんなことしない。
そうか・・・。
ジョシュア、想像してみて。草原に櫂ちゃんが居るとするでしょ。
うん。
あちこちにオオカミも居る。可愛い子羊の櫂ちゃんは、簡単に食べられちゃうの。食べ頃だからね。
やな事、言うなよ。
だからね、子羊の櫂ちゃんは、老練なオオカミに、簡単に仕留められちゃう・・・。
仕留める?
ものの例えです。解るでしょ?
・・・そうかぁ・・・。おまえ・・・物知りだな。
そうでもないよ。耳学問だからね。どこかで、そんな話を聞いただけ・・・。そんな娘のことも知ってるし。
・・・・・・。
ジョシュア、櫂ちゃんは大丈夫よ。
だと良いがな。
}
{
(翌週の土曜日。午前のフライトが終わり、食堂で昼食を摂る沙羅のテーブルに近づく櫂。)
こんにちわ、スパロー。同席しても良い?
はい・・・。
私は、食べ頃の子羊ですか?
・・・誰が、そんな事を?
私より三つも年下で、面倒な恋をしてるって聞いたわ。小生意気な子だって。・・・私、似たような子、知ってる。
当たらずとも遠からず、かも知れませんね。
(食器を持ったガーティが、ゆっくりと近づいて来る。)
こんにちわ・・・仲間に入れてくれる?
もちろん・・・。
}
{
珍しい組み合わせね・・・櫂ちゃん。
誰かさんが、私は食べ頃の子羊だって言ったようなの。
そうですか。表現はともかく、良く実態を表しているかもしれない。
・・・・・・。
不本意ですか?
ええ・・・。そういう目で見られるのは、嫌だわ。
ビリーのラムジーだって言う奴もいる。
ガーティ、口が過ぎるよ。
良いのよ、スパロー。事実なんでしょうから。
(困ったなあ。ガーティ、火に油を注いてるじゃん。)
でも、不愉快だわ・・・。
}
2
{
ガーティ、櫂ちゃんを怒らせてしまったわ。
だから?
Flashback
【
(ジュードの事務所。)
ジュード、ター坊が複雑って、どういうこと?
彼は、自分の中に問題を抱えようとしているからね。いつも不満で、生活を楽しむことがない。問題が無くても、問題がなければならないと考えている。厄介だね。
そうですか・・・。生活を楽しむほうが良いんじゃないの?
難しいね。
自明の事のように思えるけど・・・。
スパロー・・・簡単な問題じゃないんだよ。
そんなの、おかしいよ。あなたは、解りきった事を、そうじゃないと言う。
】
だからって・・・櫂ちゃんの気分を害した。
大した問題じゃない。
ガーティ、あなたらしくない。
スパロー、櫂ちゃんの気分を害したのは、あなたでしょ。
・・・・・・。
違うの?
そうかも知れないけど、故意じゃない。あなたは、故意に彼女の気分を害したわ。
ビリーの子羊だって言った事?
そう・・・。ジョシュアとビリーの間で浮かれてるって言ってるのと同じだわ。
事実でしょ?
言う必要のない事だわ。
私は、そうは思わない。
}
3
{
シュガー、待たせたね。
ター坊・・・。
どうした?
喧嘩しちゃった・・・。
そうか・・・誰と?
櫂ちゃんと・・・ガーティ・・・。
仲良しだったんじゃないのか?
そう思っていたのは、私だけだったみたい。
気にすることはない。ガーティだって、気にしてないよ。
櫂ちゃんのこともあるんだけど・・・。
おまえが気にしてるのは、ガーティのほうだろ?
・・・そうだわ。・・・なんで?
見てれば、解るよ。おまえがガーティにシンパシーを感じているって・・・。
なんで解るの?
俺、おまえの男だからさぁ・・・。解る事の一つや二つ、あるよ。
・・・・・・。
帰ろうぜ、シュガー。
はい。
}
{
ねえ、ター坊・・・夕飯、食べていかない?
良いよ。
・・・お母様が用意してるんじゃないの?
うん、普段はそうなんだが、今日は居ないんだ。カップ麺にしようかと思っていたよ。
じゃあ、行こう。私、母さんに連絡する。
ーーーーーーーーーー
(ファミレスに入る二人。入店手続きをする二人に、声をかけるジョシュア。)
ター坊、偶然だな。・・・(店員に。)ああ、俺たちの連れなんだ。同席する。
ーーーーーーーーーー
さあ、座ってくれよ。俺たち、デートしてるんだが、話に行き詰まっていてね。スパロー、紹介するよ。俺のスイートハート、食べ頃の子羊だ。
初めまして・・・。
スパロー、冗談だよ。おまえら、旧知の間柄だ。
ジョシュア、飲んでるのか?
そう・・・ター坊、成人の特権だ。
ーーーーーーーーーー
(櫂ちゃん・・・。)
(ごめんね。ジョシュア、調子に乗っちゃて飲み始めたの。助かったわ。)
(適当なところで、切り上げましょ。ター坊がなんとかする。)
(お願いするわ。)
(大丈夫。任せて・・・。)
}
4
{
(トイレと喫煙に、席を立つジョシュア。)
Oar、今なら先に帰れる。後は、俺達が取りなしておくよ。
それは出来ない。
どうして?
スパロー、一緒に来て、黙って帰ることは出来ない。
櫂ちゃん・・・ビリーなら、自分だけ酔ったりはしない。彼は、昔、奥さんに恋をしたからね・・・。女を上手に扱う。普通の、どこにでも居る男のような顔をして・・・。
でも、ジョシュアは、そんなタイプじゃないようだわ。
・・・・・・。
ねえ、ター坊、今は終わりの時なの?
そう思う。
スパロー、あなたも?
解りません。・・・ター坊がそう思うなら、そうかも知れません。
そう、仲が良いのね。羨ましいわ。
(席に戻るジョシュア。)
いやあ、すまん。・・・もう少し飲むかな。
ジョシュア、もう一杯だけだ。食事も終わってるし。
そうか?・・・俺、まだいけるんだがな。
ジョシュア、もう一杯だけだ。
俺に意見を?
今日だけだ。・・・もう一杯飲んだら、帰る。俺の言うことを聞いてくれよ。
・・・解った、そうしよう。
}
5
{
(曇天、薄暮の町並みを歩くジョシュアと櫂。ほろ酔い加減のジョシュアが、櫂にもたれ掛かる。)
大丈夫?
ああ、酔ってるわけじゃない。・・・なあ、俺の部屋に行こう。
}
{
ねえ、ター坊、終わりの時って何?
うん、苦しい時代が終わりの時を告げているってことかな・・・。
今は、苦しい時代なの?
そうかも・・・。
・・・櫂ちゃん、どうしたかな・・・。
さあな・・・ジョシュアの部屋に行くんじゃね。
それって、どういうこと?
それから先のことは、俺にも解らないよ。どうなるんだろうね。
・・・・・・。
なるようになるよ。二人は子供じゃないし・・・。俺たちが心配することじゃない。
そうですね・・・。
}
令和4年7月16日