屋根裏部屋の少年Ⅹ
1
{
(7月、最後の土曜日。バス停で待つデビッド。すぐにマッド・ブルが来る。)
よう・・・。今日も暑くなりそうだな。
はい、マディー、おはようございます。
おまえが志願したのは、一昨年の10月だったかな。
はい。その頃でした。
・・・まるで、昨日の事のようだ。
・・・・・・。
おまえの同級生だった連中は、高校受験の夏期講習にでも行ってる時期だなあ。
そうですね。
おまえも背が伸びたしな。
マディー、何かあった?
ん?・・・何もねえよ。ただ思い出しただけだ。この暑い夏は、そんな季節なんだろう。
}
{
(バスが来て、最後尾の座席に座るマディーとデビッド。JR駅前で、ジョニーとエコーが乗って来る。二人を、マディーが手招きする。ジョニーがマディーの隣に、エコーはデビッドの隣に座る。)
ねえ、デイブ、今日もDランクで飛ぶの?
いや、今日はEだよ。Dに定着したわけじゃないからね。行ったり来たりだ。
そう・・・。
おい、そこの二人、何をこそこそ話してるんだ?
マディー、あなたが、いつ私をレギュラーリーグに呼んでくれるのかなって・・・。
それは、アンクル次第だな。
私、あのおじさんに評価されていないわ。
ハハハ、そんなことはねえ。おっさんは、よく解っているよ。
そうかしらね。
}
2
{
(昼休み前、館内放送で呼び出しがかかる。「マッド・ブル、ジョン、デビッド、保健室まで急いで。」それぞれ別の場所に居た3人が保健室に集まる。ベッドにエコー、担当医とアンクル・ジョージが付き添っている。担当医はマシューとスパローの父親だ。)
先生・・・。
ジョン、過呼吸と頭痛だよ。だいぶ落ち着いた。
帰れますか?
誰かが付き添えば。
僕が付き添います。
ああ、デビッド、ありがとう。
じゃあ、昼食が済んだら迎えに来てくれ。
はい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
エコー、無茶したようだね。
はい、先生。
デビッドが来たら、帰って良いよ。
お手数をかけて、すみません。
ハハハ、僕の仕事だ。・・・来週、月曜日、病院に来てね。
はい。
デビッドは付き添えるかな?
頼んでみます。
}
{
(それぞれのプレートを持ち、食堂のテーブルに着く4人。ジョンとデビッドは、いくぶん緊張気味だ。)
すまん、俺の責任だ。
ジョージ・・・。
休憩時間にな、目を離した隙に、二人を相手にバトルを仕掛けた。
無謀だな。
ああ、なんでも良く出来る娘だったよ。まさかなあ・・・。
(無言で食事を進める。)
僕、エコーに付き添って帰ります。
ああ、帰る前、俺の部屋に寄るよう言ってくれ。おまえも一緒にな。
はい。
}
{
(保健室から出るデビッドとエコー。)
デビッド、悪かったね。
気にするなよ。帰る前、マディーに呼ばれてる。
マディーに?
うん、呼ばれてるのは僕じゃない、君だ。一緒に行こう。
はい。
}
{
(マディーの部屋のドアをノックする。ドアを開けると、マディーとアンクル・ジョージが居る。)
エコー、君は、とても良い生徒だった。
はい。ありがとうございます。
来週は、休んでくれ。
はい。
再来週からは、マディーの指揮下に入る。
えっ?
歓迎するよ、エコー。俺は厳しいぞ。
・・・はい。
(涙を浮かべているエコーに、ジョージが手を差し出し、握り返すエコー。)
おめでとう。念願のレギュラーリーグ入りだ。
はい、アンクル。ありがとうございます。
}
3
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(エコーの家の近くのコンビニで車を降り、買い物をする。店内の棚を確認しながら、ゆっくり歩くエコー。カゴを持ったデビッドが続く。エコーは商品の値段を確認しながら、少しカゴに入れていく。)
(高級アイスクリームのケースの前で立ち止まる。しばし迷って、一個を選びカゴに入れる。)
良いわ。これで終わりよ。
(デビッドが、残りの全種類を一個づつカゴに入れる。)
デイブ?
プレゼントするよ。
・・・ありがと。(顔を赤らめ、下を向くエコー。)
(レジ。デビッドがスマホのスイカで支払う。)
}
{
デイブ、スイカ入れたんだ。
うん、君に勧められたからね。やってみたら、出来たよ。便利だね。・・・。次は月曜日だね。
はい。心苦しいわ。
そんなこと言うな。・・・ゆっくり休むと良いよ。
大丈夫だよ、デイブ。明日は1日しか来ないからね。私は、乗り切れる。・・・私の家は、そんなに豊かじゃない。私、いろんなことを我慢したわ。悔しい思いをしたこともある。でも、今は違う。意志のある所、道ありだよ。
そうだね。・・・じゃあ、僕、帰るね。
はい。後で電話する。
うん。待ってる。
}
4
{
(夕食後、入浴、自室のベッドで横になるエコー。スマホを手にし、デビッドに電話しようかなと思う。ノックの音、兄だ。机の前の椅子に座る。)
今日は、付き添えなくてすまなかったね。
良いよ。デイブと一緒だったし。
そうか・・・。レギュラーリーグ入りだそうだね。
はい。努力が報われました。でも、恥ずかしい思いをしたわ。
・・・どんな?
お腹が減ったので、おやつを買おうとコンビニに寄ったの。高級アイスクリームのケースの前で、私、一つ選んだ。デイブが、残り全部を買ってくれたの。彼は、選ばなかった。
そうか。
}
{
ねえ、お兄ちゃん、私、レギュラーリーグでやっていける?
どうかな。みんな、何の保証もなく参戦するんだ。そんな場所だ。頑張れ、応援してるよ。
はい。
(兄が出て行く。デイブに電話するエコー。)
もしもし、こんばんわ。僕はロンサム・デイブです。君は誰ですか?
あなたが良く識っているかも知れないロンサム・ガールです。
そうか、それなら僕の恋人のエコーだけど、本当にそうなの?
本当よ。
エビデンス、ありますか?
コンビニでアイスを買ってもらった、月曜には病院に付き添ってくれる約束をした。
それなら、僕のスウィートハートだ。
・・・・・・。
エコー?
デイブ、明日、会ってくれる?
良いよ。君からの誘いは、いつでもOKだ。嬉しいね。
・・・デビッド、嬉しいのは、私だよ。
}
令和5年8月5日