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老人の夢と孤独Ⅱ


(朝食のテーブルに着く老夫婦。Gは物憂げだ。)
お父さん、昨夜も眠れなかったの?
うん・・・3時頃までだ。
何をしていたの?
動画を見たり、タバコを吸ったり、もう少し飲んだり・・・エッチなことを考えていたよ。
病院に行ったらどうですか?
そうだね・・・もう少し様子を見るよ・・・まだ正気だからな。立って歩けるし・・・車の運転も出来る。
一人きりで生きたい?
・・・そんなつもりは無いよ・・・。
エッチなことって、AVでも見ていたの?
うん、それと母さんの結婚前の、俺とは別の男との性行為を想像してた・・・。
悪趣味ね。
だよなあ・・・。でも、刺激的だよ。
あなたの頭の中を見てみたいわ。
それは無理だ。解剖しても解らないだろうね。


お父さん、娘のところの孫が高校受験です。
そうか・・・もうそんな歳になるんだ。
私立を3校受けて、2勝1敗だそうです。後は公立なんだけど・・・。南野高校なら万々歳だわ。
母さん、期待してはいけないよ。
解っているんだけど、つい期待してしまう。お婆ちゃんだからね。・・・たまにお小遣いをあげると、ちょっと嬉しそうだった・・・。不憫だわ。
そんな感情は、隠しておくと良いよ。・・・母さん、優しいから。
・・・はい。
(子供達は、無傷で育つわけじゃない。)



(昼頃、ゆっくりと階下に降りるG。妻が台所に立っている。)
お父さん、居眠りでもしていましたか?
うん、昨夜、眠れなかったからね。何を作っているんだい?
おつまみ・・・。
さて・・・おつまみ・・・。
今日は風が強いし寒いからね・・・二人で蟄居しようと思って。
良いね・・・。
少しお酒を飲んで、二人で狂いましょう。
・・・・・・。
天与の生活を味わおうね。・・・お酒は何にする?
ビールから、芋のお湯割りかなあ。
残念、ビールは切らしてます。缶酎ハイならあるけど。
じゃあ、それで良いよ。
少し待っててね。
(缶酎ハイとグラスを用意するG。チビチビ飲み始める。)


(妻がちょっとした料理を運ぶ。自ら缶酎ハイとグラスを持ってテーブルに着く。)
こうしていると、後ろめたさを感じるのはどうしてかしらね?
秩序や規律に反しているからかもしれないな・・・。
秩序や規律は必要ですか?
会社や土曜日戦争では必要だろうね。
・・・お父さん、私が何処で生まれて、どうやって育ってきたか、関心なかったよね。
そう言われれば、そうかもな・・・。
どうして?
俺、見た目と言動にしか興味ねえから・・・。母さん、嘘つかねえし。
言わないこともありますよ。・・・私の見た目に惚れたんですか?
いや・・・言動だよ。俺、良い女だと思った。まあ、見た目も悪くなかったし・・・俺に相応しいと思った。あんたがボスだよって言ったろ?
憶えていません。
まあ良いさ・・・そうだったんだから。


(他愛もない話をしながら飲んでいると、時間が過ぎていく。風は収まりそうにない。)
母さん、俺、横になりたい。
どうぞ・・・此処はあなたと私の家だから、自由にして良いのよ。
そうか・・・家は有難いなあ。
そうですね・・・2階には行かないで。酔って階段の登り降りは危険です。私のベッドに行きなさい。
いやあ・・・すまんね、最後まで付き合わなくて。
良いのよ。誘ったのは私だから・・・。



(テーブルを片付け、食器を洗い、寝室に向かう老妻。Gが壁に向かって体を丸めている。衣服を脱いでベッドに潜り込み、背後から夫に抱きつく。気づいたGが体勢を入れ替えて、妻を抱きしめる。)
・・・お父さん・・・。
なんだい?
私・・・もう・・・誰かの心配をしたくない。
じゃあ、俺がするよ。
・・・お父さんじゃ頼りないわ・・・。お父さんは、頼りない・・・。
解っているよ・・・。


(眼を覚ますG。住宅街はすっかり闇に包まれているが、まだ午後7時だ。ゆっくりと、妻を残してベッドを抜け出す。キッチンで水を飲み2階のトイレで放尿し、自室に戻る。若干の寂寥感を感じながら机に向かい、PCの電源を入れ、タバコに火をつける。)
(まだ7時なんだ。中途半端な時間だな。今夜も眠れないのか。)

(櫂との会話を思い出すG。)
G、眠れないの?
まあな、そんな夜があるよ。
奥さんは?
女房とは寝室を別にしている・・・。
家庭内別居?
ハハハ、そんな言い方もあるのか。
セックスはしないの?
うん・・・プラトニックな関係だよ。
意味が、違うと思いますけど。・・・性行為は夫婦関係の重要なファクターですか?
時期によるが、そうだろうね。例えば、週に2回セックスするとすれば、年に104回、週3回なら156回・・・それが20年か30年とすると・・・。
・・・多いね。
そうかもな・・・。
ーーーーーーーーーー
G、眠れなくてもね、安静にしていれば良いんだって。横になって静かにしていれば良いそうよ。
難しいな。
大人しくしていれば良いのよ・・・。



(眼を覚ますG。カーテンの隙間から光が差し込む。タブレットで時間を確認すると、8時近い。ゆっくりと体を起こす。重苦しい目覚めだ。階下に降りる。)
お父さん、目が覚めましたか?
うん・・・。
昨夜も眠れなかったの?
そのようだ・・・。
コーヒーを淹れるわ。
ありがと・・・。
ねえ、お父さん、餃子、食べに行かない?
駅前かい?
私、食べたい・・・。
良いよ、そうしよう。・・・母さん、元気だね。
そうでもないよ。
バスで行くかい?
バスだと、帰りの時間がね。車にしよう。
そうか。・・・駐車場、大丈夫かな・・・。
不安なの?・・・みんなが利用しているわ、大丈夫よ。


(昼食後の帰りの車の中で。)
お父さん、私と外食してもつまらない?
そんなことはないよ。
でも、不機嫌そうだし、会話も弾まない。
口数が少ないタイプなんでね・・・不機嫌なわけじゃないよ・・・考え事をしているんだよ。
・・・面倒だわ・・・。
母さん、妻は夫に対して寛容であるべきだ。
口答えするんですか?
いや、そんなつもりはないよ。


(自室で喫煙の後、思い立って階下に降りるG。)
母さん、少し、散歩してくるよ。
あら、珍しいわね。
足が衰えたようなんでね。
「お散歩カード」持ちましたか?
さて・・・。
この前、作ってあげたでしょ?
そうだっけ・・・。
困った人ね・・・予備があるから、持って行ってね。
(妻から名刺大のカードを受け取り見る。氏名、住所、妻の電話番号が記されている。)
常時携帯するのよ。
ああ、そうするよ。・・・じゃあ、行ってくる。
はい・・・転ばないようにね。
(門を出て、スマホのタイマーを15分にセットし、ゆっくり歩き始める。)


G、あなたの夢はなに?
無いこともないが、夢は他人に語るものじゃない。・・・櫂、黙して制作するものだ。まあ、そんな類の夢だよ。淡くて、ほろ苦いや・・・。


   令和5年2月5日

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