回帰と終末4
1
{
私は土曜日戦争の戦士で、ガーティというニックネームで飛んでいます。結婚しています。夫のアダムも戦士です。彼は隣町の土木会社で働いています。肉体労働です。背丈は男性の平均値くらいですが、上半身が逞しく胸板が厚い。
もし、私が生まれ変わることが出来て、欠けるところがない娘だとしたら、私の人生はどうなっていたのだろうと思うことがある。アダムと結婚していたのだろうか?それとも、もっと別の人生を送っていたのだろうか?
}
【
=08 What's Next?=
06 Empty Victory
{
マッド・ブル、勝ったわ。
そうだね。良くやった。
あなたのお陰だわ。
そうでもないよ。おまえの力だ。
午後、飛ぶの?
今日は、飛ばない。コマンダーのサブに就く。
指揮官に専念するの?
まだ、決まっていないよ。・・・スパロー、リリーに勝って、満足か?
・・・そうでもない・・・。もう、我儘は言わない。与えられた場所で、戦うわ。
そうか。良い判断だよ。次のフライトは、再来週だね。
はい。Cランクに戻らないと、毎週飛べない・・・。また、土曜日の午後に飛ぶのが、私の夢です。
そうか・・・叶うと良いな。ター坊のフライト、見ないのか?
見る。バスで来たからね。帰りも一緒だよ。
おまえらは、いつもつるんでるな。飽きねえのかい?
・・・マディ、結婚したそうね。
あぁ・・・?
毎朝、毎晩、女房の顔を見て、飽きねえかい?
・・・ハハハ、おまえ、良い奴だなあ。そろそろ、行こうぜ。
はい。
}
{
マディ、誰なの?
ん?
今、すれ違った。あなたに、目礼した。知り合い?
彼女も、アビエーターだよ。Fランクの初戦のリザーブに入った。3ラウンド目はフル参戦、2分間飛んで、息を荒げていたよ。ガーティだ。・・・18歳、お前より歳上だ。
いい顔してるね。
そうかい?俺には不機嫌なおばさんに見えるがな。
ずいぶんゆっくり歩くね。
理由があるんだよ。
18才のおばさん?
失礼かな?
はい。あなたにはデリカシーがない。
でりかしぃ?
・・・心が、粗暴だということです。
褒めてるわけじゃないよな・・・俺、ガキを甘やかすタイプじゃないんでね。
識ってる・・・。
}
07 Jobless Gerty
{
G、待って・・・。
ああ、スパロー、勝ったか?
はい。・・・勉強したわ。
そうかい。何を勉強した?
・・・敵愾心を持つことの意味と無意味・・・。
良いね。
}
{
さっきね、マッド・ブルとランチしてて、食堂を出たら、女の人とすれ違ったの。質素な身なりで、ゆっくり通り過ぎた。Fランクのアビエーターだって。・・・18歳・・・地味な格好だった。
・・・ガーティ・・・。
そんな名だった。彼女のこと、知ってる?
少しはな・・・。
教えて。・・・差し支えがない程度で良いわ。
センシティブな事もあるからなあ。
足の事?
・・・彼女は、高校を卒業した。なかなか職が無くてな。今も、無職だ。
それで、土曜日戦争に?
そのようだね。
名付け親、誰なの?
チーフKとコマンダー・・・。
期待されてるのね。
どうかな。彼女は、戦士の末席に加わったに過ぎない。
Fランクじゃ、報酬少ないよね。
君よりは少ない。けどな、彼女にとっては、大切なお金だよ。
・・・貧しいの?
まあ、裕福には見えない。
・・・・・・。
・・・沙羅、同情は不遜だ・・・。
・・・はい・・・。
}
{
スパロー、隣に座っても良い?・・・帰らないの?
バスです。
そう、私もよ。
朝、居なかった。
もっと早いバスよ。
そうですか・・・ガーティ・・・。
私の事、知ってるの?
さっき、Gに聞いた。
何か言ってた?
・・・高校出て、就職が上手くいかなくて、土曜日戦争に志願したって言ってた。チーフKとコマンダーが名付け親だって。
事実よ。
だからって、簡単に入隊できる場所じゃないわ。・・・チーフKとコマンダーって・・・。
お情けで、入隊許可を得たと思ってる?
とんでもないです。彼らは、そんな事しません。戦士の感情には、冷淡な人たちだわ。
・・・そんな事も、知ってるんだ。
あなたもでしょ?
・・・初めて聞いたわ。
08 Reputation
{
シュガー、待たせたかい?
想定内よ。バスの時間があるからね。
退屈したかい?
いいえ。ター坊のバトルも見たよ。
そうか。今日は、上手く行かなかった。
そんな日もあるわ。あなたの日じゃなかったね。
ーーーーーー
スパロー、帰るわ。私のバスの時間だから・・・。
はい。話相手になってくれて、ありがとうございます。
私の方こそ、ありがとう。・・・お隣は、彼氏?
はい。
ター坊ね、はじめまして・・・。お邪魔したわ。
ーーーーーー
誰?
ガーティ・・・。今日、 Fランクの初戦でリザーブに入った。3ラウンド目はフルに飛んだって。
へ〜え。見ない顔だね。
最近、志願したみたい。美人だわ。
そうかなあ。・・・ずいぶんと、ゆっくり歩くんだね。
私も、そう思いました。
シュガー、元気がないのかい?
何故?
気持ちが、沈んでいるように見える。
気持ちの在りようは、一日に500回も変わるそうよ。ご心配無く・・・。
知らなかったよ。
}
{
彼女と、何を話したんだい?
サイレント・ルーモアについて・・・。
微妙だね。気になる事が、あるのか?
特にはありません。
話が、見えないんですけど・・・。
}
{
マッド・ブルがランチに連れてってくれた。
付き合えなくて、すまなかったね。
良いよ。・・・マッド・ブルは、私達がいつも一緒で、飽きねえのかって言った。
ハハハ、で?
ワン・パンチ入れといたよ。
おいおい・・・。
猫パンチだよ。・・・食堂を出た所で、彼女とすれ違ったの。マディとアイコンタクトを取って、何事もなかったように、通り過ぎた。・・・私、驚いたわ。とても優雅な振る舞いだった。
・・・・・・。
誰も、彼女に注目しない・・・。人が気にするような事を言わないし、目立つ動作もしない。就職出来なかったからって、バトル・フィールドは、すぐに来れる所じゃない。でも、彼女は来たわ。
志願するに足るスキルがあるんじゃないの?
ポイントは、そこじゃない。チーフKとコマンダーが、名付け親なんだって。土曜日戦争を牽引する両輪だわ。
そうだね。
・・・一戦士の感情には冷淡、歯牙にも掛けない。その彼等が、彼女を選んだ。なんで?
解らないよ・・・。
私も、解らない。今日は、リリーに拘ったから。私を見下した彼女に勝とうとしていた。マディに頼んで、リリーに当ててもらった。勝てたわ。
知ってたよ。
止めようと思わなかった?
俺に、権利は無い。
好きにしろって、思った?
気を回すな・・・。
私、嫌な感じになってる?
・・・シュガー、手相を見てあげようか。
はい。出来るの?
出来ないよ。おまえに触れたいだけ・・・。
良いわ。
・・・綺麗だね。・・・小指が長い。・・・右手の中指にペンダコがあるよね。
見てるの、左手だけど・・・。
俺、おまえの右手のことも、知ってる。
・・・ター坊・・・。
良いんだよ。おまえが俺のことを知ってるより、俺はおまえのことを識ってるかな・・・。
・・・はい。
ん?ヤバいぞ。バスが出る。シュガー、走ろう。
はい。
}
09 Flower on the Wall
{
スパロー・・・。
ガーティ、休みですよね。
私、行く所がないの。だから、朝のバスで来て、夕方のバスで帰る。あなたも休みでしょ?
はい。でも、ター坊が来てるから・・・。
そう・・・。
}
{
私に、タンバリンを叩いてくれる男は、居ないようだわ。
そんなことは、ありませんよ。
でも、良いの。・・・解っている。気持ちは隠せるけど、そうじゃないこともあるから・・・。
・・・・・・。
・・・日曜の朝、雨が降っている。言いようもない寂しさを感じる。自分が空っぽになったようだわ。
・・・・・・。
【
シュガー、申し訳無い。昼メシ、一緒に食えない。
そう・・・。
すまんね。
大丈夫よ。今、ガーティと一緒なの。
そうか、バトルが終わったら飛んで行くよ。
】
どうしたの?
ター坊、ランチに来ないって。
そう。私と食べる?
はい。
}
{
私ね、しばらくの間、お弁当を持って来てた。サンドイッチと水筒に入れた飲物を持って、来てたの。
そうですか。
お金を、節約する必要があった。でも、今は大丈夫。少し余裕ができたわ。メニューの中から、好きなものを選べる。ここの食堂は高くないから、お財布の中を気にすることもない。
・・・・・・。
楽しいでしょ?
・・・はい・・・。
ここに居ると、いろいろな話を聴ける。戦士の自慢話や罵り合い。卑猥なジョークや深刻な話もあるわ。・・・みんな、生きてるんだなあって思う。だから、ここが好きなの。
}
10 Uncontrollable
{
ねえ、ガーティ、どうやって志願したの?
知りたい?
はい。
あなたから、先に話して・・・。
学校の帰り、偶然、キッドに会った。バンビにも。お兄ちゃんが、ブート・キャンプで彼らの生徒だったの。ター坊が誘われた。・・・私は、ター坊の後を追いかけたの。自信があったわけじゃないです。無給戦士から始めて、志願しました。
そう・・・。私とは違うわ。
}
{
私は、就職がなかなか決まらなくて、不安だったし、悩んでいたの。ある日ね、コピーを見たの。土曜日戦争のアビエーター募集。年齢、性別、学歴不問・・・。なんか、魅力的に思えてね。6日ほど考えて、決心した。コピーを持って来たのは、私が二人目だって。前の土曜日戦争の時、細っこい少年が持って来たって。
・・・キッドです。
キッドって、Aテームの?
前の土曜日戦争では、14歳のトップ・ランカーが3人居た。ミニー、キッド、バンビよ。アーリーデイズの奇跡だって言われてる。ミニーは亡くなった。今は、戦士の層が厚いし、14歳でAチームは厳しいね。早ければ、良いってものじゃないし。
いろんなことを、知ってるのね。それでね、そこには4人居たの。コマンダー、チーフKと、もう2人、スリーピーとマッド・ブル・・・。どうやら、そのコピーは期限切れだったらしいの。でも、シミュレーターに乗せてくれた。優しく接してくれたと思ったわ。
そうですか・・・。
初めのうちは、上手くできた。でも、終わり近くで失敗したの。ショックは無かった。出来るだけのことはしたから。
【
ここまでかな。
・・・・・・。
・・・チーフK?
ちょっと待ってくれないか。
俺も・・・。
・・・左のペダルを踏めてない。
使用頻度が低いペダルだ。
おいおい、どうしたの?
もう少し、見てみたい。
その後、俺とワン・オン・ワンを・・・。
強情だねえ。
コマンダー、あんたに言われたくねえな。
スリーピー、言葉を慎むと良いよ。
はい。
ーーーーーーーーーー
もう一度、やってみるかい?
はい・・・。
】
もう一度、飛んで、それからスリーピーと対戦したの。彼らは、しばらく話し込んでた。それから、コマンダーが近づいて来て、私、志願書にサインした。
凄いわ。
}
{
志願しますか?
はい。
志願書です。確認して、良ければサインして下さい。僕達の判断では、最低の報酬しか保証できない。・・・僕達の立場も理解して下さい。
・・・はい。え〜と・・・充分な、いいえ、不満を言ってはいけない額だわ。月額ですか?
1回の参戦に対する報酬です。君のランクでは、2週に1回だから、月額にすれば2倍強になります。
(ワォ・・・。)
}
{
シンプルだった。こんなに簡単に入隊許可を得て良いのって思ったわ。ガーティ、歓迎するよって。チーフKが、そう言ったの。ガーティって、私のこと?って思ったわ。入隊して、みんなニックネームで呼び合うんだって判った。
名付け親には、意味がある。あなたがここにいる限り、彼らはあなたの事を気にかけ、陰ながら擁護する。
そう・・・。私、護られているんだ。
恩義を感じる必要はありません。彼らの、当然の責務です。
スパロー、あなた凄いね。年下とは思えない。
いいえ、あなたには敵わないです。
どうして?
あなたの振舞いは、とても優雅だわ。
・・・そんなこと、言われたことない・・・。
だったら、今まで会った人達は、目が曇っていたのね。
}
【
スリーピー、手を抜きましたか?
俺、そんなことしないよ。
杜撰なように見えた。
解ってます。・・・俺の能力を削がれた。不思議な少女だよ。コマンダー、ショックです。アンノウン・ガールに、何事もなかったように、俺の能力を削がれた。ヤバいっす。
まあ、様子を見ることにしましょうか。組み合わせが難しいなぁ。マッド・ブルに頼もうかな。スリーピー、どうですか?
はい。俺、異存はありません。
・・・俺も、異存ないです。
それは良かった。当面、マディにお願いします。ここに居る4人が、彼女の名付け親という事で、良いですね。いやあ、今日は楽しいなあ。スリーピーのオタオタしたフライトも見れたし。
コマンダー、次は、もっと上手くやるさ。・・・叩き潰す・・・。
おい・・・。
マディ・・・相手が誰であろうと、手加減はしない。全力を尽くすよ。
(こいつ、やっぱりヤバいな。)
】
11 A Taste of Honey
{
ガーティ・・・。
はい。誰ですか?
俺のこと、知らないの?・・・今日、おまえと飛ぶ。さっき、マディに確認して来たよ。おまえがセンターで、俺は右翼に入る。
・・・おまえ呼ばわりは、心外です。
そうかい。なあ、一つ提案がある。
何?
バトルの後、ランチに行かないか?俺、車で来てるから、昼、食ったら送っていくよ。
理由がありますか?
あるよ。
どんな理由ですか?
おいおい、そんなこと、決まってるじゃないか。ランチ、奢るよ。
どう決まっているの?
今は、言わない。
}
{
スパロー、食事に誘われたわ。どういうことでしょうか?
そんなの、決まってるじゃない。あなたに気があるってことです。
そうなの?
はい。男が女を食事に誘うのは、そういうことです。断らなかったよね?
はい。迷ったんだけど・・・。
良いわ。アダムは気が弱いから、断ったら二度と誘われないよ。
私、誘われたいわけじゃないし。・・・アダムって言うの?
そう、それなりの力はあるけど、自信家です。マディとは親しい。・・・ガーティ、彼が言ってるのは、一緒に食事をしようってことなの。何か問題でも?
}
【
マディ・・・。
何だ?
・・・・・・。
ハッキリしねえ奴だな。サッサと言えよ。
ガーティを、食事に誘って良いか?
なんで?
一応、断っておこうかと・・・。
そうか。俺の許可はいらねえよ。
はい。すみませんでした。
・・・おい、イージードールだと思ってる訳じゃないよな。
はい。
だったら、許さねえからな。
はい。俺、解ってます。
】
{
ガーティ・・・。
はい。
俺と付き合わないか?
どういう事ですか?
まあ、一緒に飯食ったり、話したり・・・そういう事だよ。
なんで・・・。
嫌なのか?
・・・そうじゃないけど。・・・私、あなたのこと、知らないし・・・。
好きになっちゃ、いけないかい?
私のことを好きに・・・?
まあな。・・・俺じゃあ、不満か?
答えなければ、いけませんか?
・・・良いよ。ゆっくり行こうか。けどな・・・俺だからな。
はい。・・・アダム・・・あなた、強引です。
そうか?
自覚が足りませんね。
}
】
2
【
=09 The Wind Blows=
01 Live in Vain
{
G、ここ、煙草臭いわ。
そりゃあそうだ。俺は、煙草を吸うからな。
私の前では吸わないね。
うん。
気を使ってくれてるの?
そうだよ。
私に、気遣いは無用です。
まあ、そう言いなさんな。
}
{
そう言えば、ガーティ、Eランクに上がったよな。
ええ、案外、早かったね。このところ、アダムと組むことが多い。
そうだな。二人はデキてるのかい?
はい。
そうか・・・。
でも、不器用な二人だからね。どうなることやら。
ハハハ、沙羅・・・生意気なことを言うな。
・・・アダムが誘って、ガーティはおずおずと近づいたの。・・・どうにかなると良いわ。
物事は、なるようになるよ。
楽観的だね。
気になる事でもあるのかい?
・・・アダムは・・・粗暴だわ。・・・ガーティは、脆い・・・。
ベッド・ルームでは違うかも知れないな。
まだ、そこまで行ってないよ。
情報通だな。だが、そうした事では、女は嘘をつく。
見てれば、解るって・・・。
そうかい。・・・そう言えば、マディに、毎朝毎晩、女房の顔を見てて飽きねえかって言ったんだって?
はい。
失礼な奴だな。
前段があるのよ。私とター坊が、いつも一緒で飽きねえのかって言うから、ジャブ入れたんだよ。物事には、理由があるからね。
ハハハ、愉快な娘だ・・・。
}
{
【
シュガー、Gの所か?
はい。
俺も、行く。Gの許可を得てくれよ。
良いわ。
】
G、ター坊が来るって。構わない?
もちろんだよ。どうしたのかな?
一刻も早く、私に会いたいんだって。・・・嘘よ。
爺さんを、揶揄うな。
はい。
}
{
G、元気?
ター坊、昨日も会ってるじゃないか。
まあ、そうだけど、挨拶代わりだよ。・・・G、昼飯、買ってきた。3人で食おうと思って。
すまんね。俺が払うよ。
いいよ、俺たちの事、子供だと思ってる?年齢からすれば、そうかも知れないが、幾許かのお金を持ってる。自分の裁量で使えるお金をね。小遣いを使っただけだよ。
そうかい。
子の好意は、鷹揚に受け流すのが親の役割だと思うな。
そうか・・・勉強になるよ。
すみません。好きな女の前で、格好付けちゃいました。
・・・だってよ、沙羅。
特に、感想はありません。
}
{
G、あんたの親父さんも戦争に行ったのかい?
そうだね。そのようだ。・・・親父から、戦争の話を聞いた事はないよ。
配管さんの親父さんも?
うん。・・・配管さんの親父さんは、長男でな。姉と妹が居た。みんな亡くなってる。親父さんは、負傷して帰国したそうだ。お姉さんが会いに行った。顔が浮腫んでいて、すぐには分からなかったそうだ。苦学して、教師になった。音楽には苦労したようだよ。だから、配管さんはピアノを習わせられた。嫌でたまらなかったそうだ。遊びたい盛りだからな。
配管さんも、苦労してるんだ。
ター坊、苦労していない人なんて居ないよ。
あんたもか?
無駄な人生を、生きてはいけないかい?
人生は、自分だけのものか?
ター坊、失礼な物言いですよ。
ああ、すみません。
・・・構わんよ。
}
02 Walk the Line
{
アダム、ちょっと顔貸せや。一服しようか。
はい。
ーーーーーーーーーー
なんすか?
ガーティとは・・・その・・・どうなんだ?
どうって・・・。
言いたくねえのか?
・・・プライベートな事ですから・・・。
おめえ、誰に口きいてんだ?
・・・・・・。
}
{
アダム、何かあったんですか?
どうして?
表情が、固いです。
そうか?・・・まあ、大した事じゃねえよ。
そうは見えません。言いたくなければ、良いですよ。どうしたのかなあって、私が心配するだけですから。
なあ、ガーティ・・・いや、マディとちょっとあってな。
マッド・ブルと?・・・なんですか?
俺、信用ねえから。
女癖が悪いとか?
ハハハ、ジョークかい?
はい。
まあ、そういう事だよ。だから、マディは、俺に対して厳しい。・・・良いのさ、マディの理屈は通っているからな。・・・俺の名付け親は、マディだ。女房と相談したらしい。俺、名前負けしてるよな。
そんな事はありませんよ。
そうかい。
}
{
マディ、ちょっと良い?
ああ、ガーティ、なんだい?
アダムに何を言ったの?
・・・・・・。俺とあいつの問題だ。
私達の事は、私達が判断する。口出ししないで・・・。
・・・・・・。
覚えておいて下さい。私と話した事は、彼に言わないでね。
ああ。(やれやれ。)
}
06 Unacceptable
{
ガーティ、アダムと寝た?
性行為をしたかってこと?・・・ええ。
あなたが望むようなふうだった?
いいえ。
不本意だった?
微妙ね。・・・こういうものなのかと思った。
・・・アダムと結婚するの?
そうなると思うわ。どうして?
マディに聞いたの。「あいつら、結婚するらしい。」・・・そう言ってた。アダムとあなたのことよね。マディ、嬉しそうだったわ。
まだ、誰にも言わないでね。
どうして?
二人で、そうしようって約束しただけだから。・・・結婚したわけじゃない。
慎重なのね。
結婚しますって言って、やはりダメでしたって、とても恥ずかしいことだわ。
そうですね。
}
{
そんなに早く決めて良いの?
スパロー、私、19歳になった。交際期間は短いかもしれないけど、そんなことに決まりはないよ。いつになったら、決断できるの?彼がプロポーズしてくれたから、結婚することにした。
不安はありませんか?
不安のない人生ってあるのかしら。・・・私は蝶でも花でもない。自分の人生は、自分で切り拓くしかない。アダムは、私を誘ってくれた最初の男だけど、私に次は無いの。そう思うわ。・・・理想を追うよりも、為すことの方が良い・・・。私の人生のコストは、私が払う・・・。
・・・結婚の約束をしたから寝たの?
それは、別の話だと思うわ。
どう別なの?
セックスは、結婚生活の一部に過ぎない。もっと大切な事がある。
・・・何なの?
家庭生活を営むってことは、自立することだと思うの。経済的にも精神的にも。まあ、経済的に自立する事が大前提だわ。私たちは、出来る。アダムには職があるし、二人の土曜日戦争の報酬もある。スタートには、充分な額だわ。子供達に恵まれたら、育てて、良い教育を受けさせる責任がある。そうした、私たちの責任を果たす・・・なんか、私、変なテンションになってるね。・・・私の、初体験の話だったね。
そうでした。
それなりの歳で、それなりの付き合いをすれば、そういう時が来る。・・・アダムは、高校の頃から、地元の悪のマディと連んでたんだって。マックでね、たまたま見かけたキッドとバンビからカモろうとした事があるって言ってた。・・・24になる。けっこう、歳上だね。・・・私達、二人とも、バトル・フィールドに出た日の後、ホテルに行ったの。・・・アダム、強引だから。
・・・・・・。
一緒にシャワーを浴びた。緊張したわ。・・・私、あまり露骨な話はしたくない。・・・聞きたい?
はい。
私、セックスはあまり好きじゃない。受け入れ難いわ。
そうですか・・・。アダムは?
しばらく、私の中で動いてから、私のお腹の上に射精した。自分でペニスを扱いて。タオルで、私のお腹を拭って、タバコを吸った。それから、眠ったの。・・・アダムは、慣れてるわ。初心者の扱いに慣れてる。
・・・・・・。
アダムと私は、そんな出来損ないの恋から始まった。なんとかなれば、どうにかなれば良いと思うわ。
・・・ガーティ・・・。
・・・私、結婚生活に憧れてはいけない?
いいえ・・・。
}
07 Adam
{
よう、スパロー。ガーティの話し相手になってくれたんだってな。
はい。
ありがとな。
アダム、結婚するの?
ガーティに聞いたのか?・・・そうだよ。血液検査もしたし・・・。
血液検査?
うん、みんなそうするんだって。あいつ、怒らせると怖いからなあ。・・・俺は、従順だ。
あなたが従順?
知られざる一面ってやつだ。誰にも言うなよ。
・・・言いませんよ。
ん?・・・ん?・・・その顔は、信用できねえな。
私が信用できるかどうかは、マディに訊いてみると良いわ。
解った・・・理解した。マディには訊かない。・・・俺がおまえを疑ったと知ったら、マディは気分を害する。そりゃあ、マズい。俺とマディの友情に亀裂が入るからな。
アダム、あなた、良い男だね。
そうか?・・・だがしかしだ、俺にはフィアンセが居る。
そういう意味じゃないよ。
・・・なあ、スパロー、これからも、あいつの話し相手になってくれるか?
はい。
}
{
スパロー、午後に飛んでたろ?
はい。
午前中とは、違うのかい?
距離感が半分、スピードは倍と言えば解りますか?
よく、そんなとこで飛んでたな。
マディのお陰だよ。今になれば解る。私は、守られていた。・・・だから、お兄ちゃん達とター坊は凄いわ。
マシュー、アノゥニマス、バンビーノ達とター坊か。・・・俺にも出来るかな?
出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。あなた次第よ。
スパロー、おまえの欠点を教えてやろう。
何?
おまえには、優しさが足りない。俺の、考えだが・・・。
私も、あなたの欠点を教えてあげる。
何かな?
・・・女心が解らないな。
ハハハ、小娘がナマ言ってんじゃねえよ。
すみません。
良いよ、良いよ。・・・俺、覚えておくよ。
・・・アダム、バトル・フィールドの土曜の午後は、苛烈です。
・・・・・・。
}
08 Apologize
{
マッド・ブル・・・。
ああ、ガーティか。
・・・・・・。
ん?・・・おまえ、口紅引いてんのか?
・・・はい。
で?
スパローに聞きました。
何を?
あいつら結婚するらしいって言った時、あなたが嬉しそうだったって。
ハハハ、そうか。口の軽い奴だ。
いいえ、良い話を隠さなかっただけです。
・・・俺も、そう思うよ。
}
{
おまえ、結婚生活に憧れているんだってな。
・・・はい・・・スパローが言ったの?
そう、彼女は良い話を隠さない・・・だよな。
はい。・・・でも、想いを秘めてはいけませんか?
まあ、俺、女心には疎いんでね。
・・・・・・。
}
{
マッド・ブル・・・私は、あなたに対して失礼な・・・大変に無礼な事を言いました。
そうだったかな?
はい。私は、恥じています・・・後悔しています。
そうかい。
私、あなたに謝罪したいです。
ガーティ、俺の話を聞いてくれるか?
はい。
俺たちは、俺とアダムは、誰かが誤った時、その事を責めるかもしれないが、そいつがその事に気づいて、改悛の情を示したと解ればそれで終わりなんだよ。それ以上、ネチネチと追い込むことはしない。しつこく、諄い真似はしないんだ。・・・充分だよ、ガーティ。
・・・・・・。
する必要がない謝罪を、するもんじゃない。俺は、そう思うけどな。
すみません。
まあ、アダムをよろしくな。あいつは、ああ見えて、強がってはいるが、内面は弱い。易損品だ。俺のとこに来た時から解ってたよ。・・・あいつ、良い奴だろ?
はい。アダムは、私の男だから。
おいおい、惚気てんじゃねえぞ。
すみません。
何度も言うな。・・・ガーティ、アダムを土曜日の午後に連れて行ってくれや。
私が?
まあな。・・・頼むわ。
はい。
(即答かよ。簡単じゃなねえのにな。)
}
09 Notable
{
マディ・・・。
どうした、キッド。
午前中の指揮を執ってるって?
そうだな。
アビエーターは卒業かい?
コマンダーに頼まれてな。断れないよ。飛ぶのをやめたわけじゃない。
出来る奴、誰か居る?
居るよ。
誰?
ガーティー、若い女だ。
そう・・・。ランクは?
今はEだ。Fランクで3回飛んだだけで、Eに来た。
へ〜え、凄いな。
一緒に見るかい?
良いの?俺、指揮官室に入ったことないけど。
構わんよ。午前中の指揮官は俺だ。指揮官には、権限がある。
}
{
キッド、マックで俺の連れが、お前達にプレッシャーかけた事あったよな。
よく覚えてるね。
まあな。すまなかった。
気にしてないよ。
いや、おまえはバンビに、食べかけのバーガーを持って出ろと言った。
うん。揉め事はマズいんで・・・。
邪魔して、悪かった。謝っておくよ。
はい。
なあ、キッド・・・俺、今まで迷惑をかけた連中に謝りたい。謝って済む事と、そうでない事もあるがな・・・。
全員は、無理だよ。
そうだな。
・・・マディ、これから出会う人達に、謝れば良いよ。
そうか。・・・キッド、昼飯、一緒に食うか?
はい。
ーーーーー
・・・さあ、ガーティが飛ぶ。クイーンのお出ましだ。俺に、話かけないでくれ。
はい。
・・・瞬きすら出来ないバトルの始まりだ・・・。
・・・・・・。
}
10 Memories of Gerty
{
マディ・・・。
ん?
彼女、右ペダルのダブル・タップ、ずいぶん多用してたね。
ああ・・・。
・・・マディ、上の空か?
ああ、すまん。・・・彼女、負けたことがない。初めてリザーブに入った時から・・・負けてないんだ。・・・今日も勝った。
・・・・・・。
最高勝率、誰か知ってるか?
コマンダーだろ?
そう、ひよっこサムだ。666・・・3回に2回勝った。彼に近いのが、スリーピーとおまえだ、キッド。・・・一つの勝ちの意味は、同じじゃない。サムは、勝たなければならない時に勝った。その上での666だ。・・・で、ガーティは000だ。
ランクが下だし、回数も少ない。
・・・そうだな。
}
{
もう日が暮れようとしてる頃、俺たちは残ってた。俺は、コマンダー、チーフK、スリーピーの話を聞いていたんだ。このメンバーじゃ、話に入っていけないよな。・・・外に気配を感じて、ドアを開けた。化粧っ気のない、若い女が、丁寧に畳んだシワだらけのコピーを広げたよ。
【
お嬢さん、無謀だよ。
・・・私、たまたま来た訳ではありません。・・・どこへ行っても、門前払い。ここなら、チャンスを貰えるかと・・・。
ああ・・・あぁ・・・。訊いてみるわ、入って。
はい。
】
彼らは、目配せをして、シミュレーターの準備をした。戦士のレベルはクリア出来なかった。もう一度飛んだが、同じだったよ。それから、スリーピーとワン・オン・ワンを。・・・驚いた。2分で3回、スリーピーのバックを取ってロックオンした。スリーピーのボロ負けだよ。・・・彼女はメット脱いで、俺たちに顔を向けた。涼しい顔だった。
・・・・・・。
スリーピーは、しばらくマシンから出てこなかった。コマンダーとチーフKが、何やら小声で話していた。二人は、彼女を受け入れた。ガーティは、フライトの報酬を確認して、志願書にサインした。
【
ガーティ・・・。
はい・・・チーフK ・・・?
ここへは、どうやって来たの?
バスで・・・近くのバス停から歩いて来ました。
そう・・・日もすっかり暮れた。良ければ、僕が送っていくよ。
ありがとうございます。
コマンダー、差し支えないかい?
もちろんです。夜道ですからね、一人では返せないと思っていました。
もう一つ、彼女に夕食を奢りたいのだが、マディ、付き合ってくれないか?
俺、ですか?
若い女性と二人では気まずい。ガーティ、良いよね?
はい。・・・私、歓迎されているの?
そうだね。チーフK がディナーに誘うなんて・・・。僕も同じ気持ちです。店で一番高い料理を注文すると良いよ。彼はリッチだからね。
おいおい、ファミレスだよ。僕は、節約ライフの信奉者だ。君ほど豊かではない。
すみません。嬉しくて、つい軽口を叩きました。
】
コマンダーとチーフK 、ガーティは彼らを上機嫌にした。それから、Kの運転でファミレスに行った。それぞれ食事をオーダーした。K は、俺にハイボールを、と言った。面映ゆかったよ。嬉しくもあったな。土曜日戦争のナンバー2が、俺のことを気遣ってくれたんだからな。
マディ、あんた、良いね。
そうか?・・・それからな、2、3杯目から、下ネタ満載の話を始めてしまってな。的外れな受け答えを繰り返すガーティを、Kは満足げに見ていたよ。
目に見えるようだね。
そうか?・・・男が居るのかとか、処女なのか、とかな。俺の悪癖だ。・・・男は居ません。処女です。それが、彼女の答えだった。マディ、不躾だよってKが言った。穏やかに、微笑んでいるように見えたな。思い違いかもしれないが。・・・それから、俺とガーティは歩いて帰った。そう遠くなかったんでな。
【
マッド・ブル、もう良いです。すぐ近くですから。
そうか?だが、違うんだよ。Kは、おまえを家まで送って行けと言った。土曜日戦争のナンバー2がそう言ったんだ。俺には、そうする義務がある。
あなた、酔ってるし・・・。
だから何だ・・・おまえが心配する事じゃない。俺の事は、俺が心配する。・・・Kは、俺の上官だ。上官の命令は絶対だからな。
・・・はい。
なあ、土曜日戦争は、緩くはねえぞ。年齢、性別、学歴不問、それがどういう事か解ってるか?
はい。
そうなのかねえ。
ーーーーーーーーーー
マディ、私の家はそこ・・・。
ああ、そうか。
あなた、大丈夫?
おお、心配するな。俺のとこもすぐだよ。
そうですか。今日は、有難うございました。
俺に、感謝は不要だ。何もしてねえし。
・・・あなたは、取り次いでくれました。
・・・まあな、おまえは、期限切れの皺だらけのコピーを、丁寧に広げた。・・・すまんが、不憫に思えてな。
・・・・・・。
悪く思わんでくれよ。
はい。・・・行って、もう良いよ。
そうか。じゃあな・・・。
】
3
【
=10 The End Times=
04 Regularity and Chaos
{
ブルーローズ、少し話しませんか?
何?・・・構わないけど。
私が、スパローにお願いしました。あなたと話したいと。
ガーティね。あなたの事は知ってる。アダムと結婚したそうね。
はい。私は、アダムと家庭を持つことに、強く憧れました。私にとって、とても良いことだと思ったの。
そう・・・。解るわ。私もそう、Kと結婚して、専業主婦になることが、私の夢だった。
夢が叶ったんですね。
そう、でも、私は両親の気持ちを踏みにじった。悪い娘だわ。秩序を乱した・・・。
・・・そんなの、嘘だ。
スパロー、私は、そういう事だと思うの。秩序は、男たちの中にあって、女は混沌の中にある。・・・秩序からは、子は生まれない。だから、混沌の中から生まれてくるのが男なの。
・・・ブルーローズ、あなた変だわ。おかしいよ。
スパロー、解ってるわ。
}
{
ブルーローズ、結婚してからも、アダムは膣外射精を繰り返してる。子を持ちたくないの?
そうかもね。拘りがあるのかも・・・。
・・・・・・。
でも、良い方法があるわ。
何ですか?
彼の耳元で囁くの。
囁く?
そう、難しい事じゃない。その時にね、今日は大丈夫だから、中に出してって言えば良いの。簡単でしょ。それを、何回か繰り返せば良い。
アダム、偽りに気付かない?
大丈夫よ。彼のお尻に手を添えて、来てって言えば良いだけだから。
そうですか。
アダムは、あなたの月経周期を把握しているかも知れない。でもね、所詮、浅知恵なのよ。だから、あなたがアダムをコントロールするの。彼が、あなたの膣内に射精する時、あなたはより深い歓びを感じる・・・。
興味深いです。
そういうものなの?
スパロー、私は、そう思うわ。
・・・納得できません。
}
{
スパロー、ありがとね。ブルーローズと話せて良かったわ。
私、ブルーローズが何を言ってるのか、さっぱり解らなかった。
私は、納得した・・・。
アダムの仕事って何?
詳しくは知らないの。・・・ガテン系って言うのかしら、肉体労働よ。・・・家事は出来ない。私がやらないと、大変な事になっちゃう。
そうなの?
散らかり放題で、どこに何があるかも分からなくなっちゃうわ。アダムは、お片づけが出来ないの。・・・貯金も出来ない。・・・借金が無かっただけマシね。
大変ですか?
そうね・・・でも、自分で選んだんだもの、文句は言わない。私が、何とかする。
・・・ガーティ・・・出来るの?
出来るかどうかではなく、そうするの・・・。
}
05 Survive
{
アダムは、自分で食べていける男だわ。18歳で社会に出て、楽々で生きてきたと思う?
・・・いいえ・・・。
まあ、あの性格だからね。あっちにぶつかり、こっちにぶつかり・・・運転免許を取って、タバコやお酒を覚えて、大人になった。でも、まだ足りない。
何が足りないの?
・・・いろいろある。彼は、生きていく力はあるわ。我武者羅に、形振り構わずでも、生きて行けると思う。でも、それだけじゃいけない。
どうして?
一家の主だから。私と子供達を怒鳴るだけの男は、主とは言わない。それなりの振る舞いが必要だわ。
・・・・・・。
私、欲張ってる?
いいえ。・・・そんな事ないよ。
アダムは、ガーティ丸のキャプテンだからね。しっかりしてくれないと、みんな溺れちゃう。私は、アダムと一緒なら構わないけど、子供達は違うわ。・・・まだ、生まれてもいない子供達の心配をするなんて、おかしいね。
}
{
アダムに、そう言ったの?
言わない。押し付けがましい事はしたくないの。まだ、結婚したばかりなのに、あれこれ考えて・・・。おかしいわよね。でもね、つい考えちゃうの。
・・・・・・。
だから、なるべく普通にしてる。毎朝、ハグして送り出すの。機嫌が良い時は、私の股間を撫でて行く。悪戯っぽく笑って行くの。
あなたも、彼の・・・?
そんな事は、しませんよ。朝から、そんな事はしない。
夜は、するんだ・・・。ガーティ、エッチな女だね。・・・お口やバックドアでもする?
・・・ソドミー?・・・お口では、するかな。・・・バックドアは嫌・・・。
卑猥だね。
そうね。・・・こんな話をする私なんて、思ってもみなかったわ。・・・スパロー、話し上手ね。
}
{
マディにね、アダムを土曜の午後に連れて行けって言われたの。スパロー、午後に飛んでいたんでしょう?・・・苛烈なんだってね。
いや・・・アダムがちょこちょこジャブ入れてくるから、ナマ言っちゃった・・・です。
アダムは、やっと Dランク、Cまでもう一歩と考えるか、高い壁なのか・・・。私には解らない。・・・教えて・・・。どうすれば良いの?
グッチの小銭入れでも買いますか?
・・・高いんでしょ?
でしょうね。値段は知らない。
それで、アダムは午後に行けるの?
ガーティ、可愛い。・・・そんなはず、ないじゃないですか。土曜日の午後への切符は、お金じゃ買えないわ。・・・アダムは、献身するだけのあなたを見たいの?・・・私は、そうは思えない。・・・あなたが、人並みの物欲を持って、嬉しそうにしてるのを、見たいのじゃないかな。自分の嫁になって、ささやかな贅沢も出来る・・・そう思いたいんじゃないのかなぁ。
・・・スパロー・・・。ター坊と結婚したいと思ってる?
はい・・・。
どうして?
どうしてって・・・そうしたいからです。
何故、そうしたいの?
・・・何故って・・・生き残るためかな・・・。
スパロー、人は、生き残らなければいけない?
はい、私はそう思う。でなければ、意欲が湧かないわ。
そうだね。
私、ター坊のナンバーワンになりたいの・・・。
そう・・・彼のナンバーワンじゃないの?
なかなかね・・・難しいの。・・・私も女だから・・・。どうすれば、ター坊のナンバーワンになれるのか、考えているのよ。
大変ね・・・。
私とター坊の人生が、二人で生きてそれで終わりなら、私たちは生きる意欲を持つことが出来ない。・・・そう思うの。
そうですね。ター坊はどうなの?
解らないわ。そういう話はしないから・・・。でも、お兄ちゃんは・・・。
マシューが、どうかした?
・・・お兄ちゃんは、自分一人で生きていこうとしてる。・・・この前ね、お父さんと話したの。
そう・・・仲が良いのね。
そんなんじゃありません。
で、お父さんと何を話したの?
お兄ちゃんに、忠告した方が良いんじゃないかって言ったんだけど・・・お父さんは、同意してくれなかったの。
どうして?
・・・解りません。
}
06 Awesome
{
アダム・・・。
ん?
・・・・・・。
なんだよ?・・・ああ、そうか。・・・したいのか?
それもあるけど・・・私、次のファイトで Dランクのリザーブに入る。
えっ、凄えな。Eで何回飛んだっけ?
10回くらいかな。半分は、あなたと一緒だったわ。
負けてねえのか?
はい。・・・あなたに、追いついたわ。マディに頼んで、あなたと組んでもらおうかな?
よせよ。そんな恥ずかしい事、するもんじゃない。
はい。
}
【
ガーティ・・・。
はい。
ちょっと、来いや。
なんですか?
渡したい物があってな。
はい。
ーーーーーーーーーー
ほらよ。新しい胸章だ。失くすなよ、再発行には金がかかる。・・・次のフライトで、おまえを Dランクのリザーブに入れる。異存があれば、言ってくれ。
・・・異存は、ありません。
そうか。じゃあ、行けや。
・・・マッド・ブル・・・。
俺の用件は終わりだ。
はい。
】
{
アダム・・・。
なんだい?
ペニス・・・握っても良いですか?
ああ、構わんよ。・・・ほら・・・。
大きいですね。
他の奴のも、識ってるのかい?
はい。
・・・・・・。何人だ?
嘘ですよ。・・・動揺しましたか?
悪い娘だ。・・・悪い娘には、お仕置きをしなければならない。
何をするの?
決まってるさ。尻を叩く。
DVです。してはいけない事です。
}
{
ガーティ・・・。
・・・・・・。
ガーティ・・・。
・・・何よ・・・。お尻が痛いわ・・・。
なあ、機嫌を直せよ。
・・・図々しい・・・。
ふくれっ面のおまえも悪くねえけど、笑うともっと可愛いよ。
私より体が大きくて、力も強いあなたは、私を押さえつけ、下着を脱がして、お尻を叩いた・・・。
悪かったよ。謝る。
・・・本当に?
ああ、もちろん本当だ。すまなかった。
}
07 Hide and Seek
{
スパロー・・・。
どうかした、ガーティ?
この前ね、アダムにお尻を叩かれたの。
どうして?
アダムのペニス、大きいねって言ったら、他にも識ってるのかって言うから、はいって答えた。
他にも識ってるの?
いいえ・・・。
はぁ・・・ガーティ、地雷を踏んだね。
・・・そう?・・・マズかった?
もう、最悪。
そうかぁ・・・。私、どうしよう?
その後、エッチしたんでしょ?
判るの?
だって、そんな展開だもの・・・。大丈夫よ。・・・でも、ベッドで軽口は禁物。
はい。
}
{
ガーティ、 Dランクだって?
はい、ブルーローズ・・・。
随分、早かったね。
そうですか・・・。
なんかあった?
・・・どうして?
そんな顔してる。
・・・スパローに・・・叱られちゃいました。
そう、良かったわね。・・・アダムとはどう?
はい。良好な関係かと・・・。
新婚さんに、愚問だったね。
・・・アダムに、お尻を叩かれました。
そう。
男の人に、そんな事されたの初めてだったから、困惑しました。
無理もないわね。・・・私にも経験があるわ。
えっ・・・チーフKが?
彼じゃない、別の男よ。
嘘・・・。誰?
本当よ。・・・誰かは言わない。
チーフKは、知ってるの?
そう思うわ。
気まずくないの?
大した問題じゃないよ。私たちには、もっと大事な事があるから・・・。
秩序は男の中にあって、女は混沌の中に居る?
面白い事を言うわね。誰が、そんな事を言ったの?
私じゃありません。
そう・・・。
}
{
お帰りなさい、アダム。
おお、ただいま。
風呂?・・・飯?・・・。ビール?
ん?
あなたの口真似をしてみました。・・・ぶっきら棒も、楽しいですね。
そうかい・・・。ガーティ、背中、流してくれるか?
はい?
風呂でだよ。背中、流してくれ。
はい。
そうか。良いね。早速行こうぜ。
ーーーーーーーーーー
アダム、何かあったんですか?
うん、現場でちょっとな。ムカつくよ。
喧嘩したんですか?
しねえよ。所帯持ちがキレちゃマズいだろ。
私が、足枷になっているんですか?
そんなわけ、ねえだろうよ。
・・・なら、俺たち、仲直りしたと思っても良いかい?
ハハハ、そうだな。・・・そうだよ。喧嘩してたわけじゃないしな。俺が、ヘソ曲げただけだし。
私は、悪くない?
うん。
そう、良かった。
}
16 Individual
{
スパロー、私達、なかなか午後に行けないね。
そうですね・・・アダムとター坊は行ったのにね。
・・・アダムは、ギリギリよ。やっと午後に行けたわ。・・・彼は心が弱い。心配だわ。
ガーティ丸の船長さんだからね。
そう・・・彼がキャプテンだわ。・・・私、強欲かもしれない。もっともっとって求めているのかも。もう、持っているのに・・・。
何を持っているの?
・・・そう、夫と・・・その他いろいろ・・・。他人と比べて、あれこれ思い煩うのは愚かなことだわ。
}
{
ねえ、ガーティ・・・私たち、なぜ男に惹かれるのかしら?
さあ・・・。
あなたが解らなければ、私に解るはずが無いわね・・・。
スパロー、あなたがター坊に惹かれるのは何故?
どう言って良いのか解りません。
私も同じよ・・・。はじめは好奇心だったかも・・・。デートでレストランに行ったのも初めて、男の人と並んで歩いたのも初めてだった。アダムと歩いていると、私、安心してるの。いつの間にか、彼を頼りにしていた。・・・答になってる?
・・・はい・・・。
でも、それだけじゃない。・・・アダムにも私が必要なの。私が居たから、アダムは午後に行けた。
そうなの?
一緒に居れば解るよ。強さも弱さも・・・いろんなことが解る。一緒に暮らして・・・言いたいことは解ってくれるよね。
ええ・・・何となく・・・。
}
{
スパロー、私ね、中学生の頃、登校の途中に、言い知れぬ不安に襲われたの。何の理由もない。いつものように、同じように登校していたんだけど、不安を感じた。それは、突然に襲ってきた。
・・・・・・。
その時は、それっきりだった。それから、それなりの高校に進学して、卒業した。毎日、勉強して、みんながするような遊びもしないで・・・それでも、不満はなかったわ。私には、私のやり方があるんだって思ってた・・・。
}
{
でも、仕事がなかなか無くて、不安だったし、悩んでいた。日曜日の朝、雨が降っていた。また、不安が襲ってきて、自分が空っぽになったように感じたわ。・・・好きだったシンガーを聴いても、寂しくなるだけ・・・私が私でなくなった。
・・・ガーティ・・・。
私、これから起こる事を知りたい。
}
{
もっと話しても良い?
はい・・・。
・・・苦しんでいた時、コピーを見つけたの。興味を持った私は、土曜日戦争の事を勉強した。どうしようかなあって思ったんだけど・・・思い切って行ってみることにしたの。コマンダー、チーフK、スリーピー、マッド・ブルが居た。マッド・ブルが取り次いでくれたわ。彼等のお陰で、今の私が居る・・・。アダムと出会って、結婚したんだけど、マディが見守っていてくれた。・・・私、感謝しているの。
・・・ガーティ。
}
】
{
仮定の人生が無いことは解っている。でも、私は何度も夢を見た。
もし、私が生まれ変わることが出来て、欠けるところがない娘だとしたら、私の人生はどうなっていたのだろう。両親に愛され、解き放たれていただろうか?
私は、自分の気持ちと向かい合うことに臆病だった。
アダムとの結婚生活でも、それは変わらない。
}
{
(土曜日、夕食を終え、アダムはウヰスキーの水割りを飲んでいる。ガーティはキッチンに立つ。)
おい、明日の昼、外で食わないか?
はい。・・・何処へ行きますか?
近くのステーキ・ハウス・・・。
}
令和6年9月2日