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回帰と終末1

私はスワンと言います。今は、事情があって、お爺ちゃんと一緒に住んでいます。お爺ちゃんと言っても、本当のお爺ちゃんではありません。母の知り合いで、遠縁の老人です。彼はエムと名乗っています。
お爺ちゃんは伴侶を亡くし、娘と息子は家を出ていて、一人暮らしでした。
父が家を出て母が入院しました。私は、途方に暮れ、学校も休みがちになりました。
もうダメだと思った時に、お爺ちゃんが来ました。

=屋根裏部屋の少年ⅩⅩ=
(呼び鈴を押すエム。やつれた感じの、若い娘が出てくる。)
スワンか?
はい。あなたは?
俺はエムだ。
何の用ですか?
ちょっと入らせてもらおうか。
・・・良いけど。
(居間のテーブルのカップ麺に目を止める。)
それはなんだ?
私の夕食です。
学校には行っているのか?
いいえ・・・少し、休んでいます。
俺のところに来い。
いきなり、そんなことを言われても・・・。
これは、おまえの母親の手紙だ。
お母さんの?
おまえの世話を頼まれた。読んでみるか?
はい・・・お母さんの字だわ。どうして、あなたに?
多少の義理があってな。大人の事情ってやつだ。詳しくは言わない。おまえは、ここにいたらダメになる。俺のところに来るか?強制はしない。
・・・はい。
用意しろ。最低限の物で良いぞ。おまえの部屋は、用意してある。
私の部屋?
ああ、俺の家の二階だ。それほど広くはない。
・・・・・・。(母の手紙を読みながら、涙を流すスワン。)

私は、お爺ちゃんと一緒に暮らすようになりました。学校にも復帰し、生活を立て直すことが出来ました。

スワン、今日の昼はラーメンライスにするか。俺が作るよ。
はい。

そんなことを言って、お爺ちゃんは何を作ったんでしょうか。インスタントラーメンを半分づつ。それと、チンするご飯を一つづつでした。
不器用な人です。

お爺ちゃん、これじゃあタンパク質と野菜が足りないよ。
そうか?
だって、炭水化物と炭水化物でしょ。
空腹を満たすことは出来る。
それは否定しません。でも、バランスの良い食事は大事です。これからは、私が献立を考えるよ。

土曜日の私は、土曜日戦争のバトルフィールドに行きます。まだ、ランクが低いので午前中に飛びます。食堂で昼食を摂って帰宅します。同い年のデビッドとエコーは恋人関係。私もデビッドには関心がありますが、二人の間に割って入るのは難しいでしょう。家に帰ると、お爺ちゃんは自分の部屋で、お酒を飲んでいます。パソコンやタブレットを操作し、飲酒と喫煙を繰り返しています。

ねえ、お爺ちゃん、何をしているの?
うん・・・飲酒、喫煙、Youtube、Tver、Game、それと考え事だ。
何を考えているの?
ハハハ、何かな。





(土曜日、バトルを終えシャワーを浴びたエコーとスワン。)
このところ、暑いわね。
そうね。
昔はね、シャワールームは男女共用だったんだって。
刺激的ね。


お昼、どうする?
お弁当を買って帰る。お爺ちゃん、食べてないだろうから。
スワン、お爺ちゃん思いなんだね。
違うよ。・・・お爺ちゃんには恩義があるの。
恩義?
そう、おじいちゃんだけじゃない。Gにもだよ。


=老人の夢と孤独ⅩⅧ=
(放課後、文学部の部室。)
こんにちわ。(手足が長く、髪の毛の短い女子学生だった。)
はい。
エコーは居ますか?
・・・私よ。
聞きたいことがあるんだけど、良い?
聞きたいことにもよるわ。・・・あなた、誰?
スワンです。
あまり見たことないけど。
少し休学していたの。退学もやむを得ないと思ったんだけど、担任に説得されて復学した。出席日数はギリギリ。
大変ね。
まあね・・・。それ、テネシー・ウイリアムズ?(単行本に目を留める。)アメリカ文学に興味があるの?・・・私は20世紀を切り開いた英国、仏蘭西、独逸なんかに興味があるなあ。アメリカ哲学に触れて、急速に興味を失った。
だから、何?あなたの文学的趣向に興味はないわ。私に何を聞きたいの?
・・・土曜日戦争のこと。
どうして私に?
バンビーノⅡ先輩に聞いた。エコー、土曜日戦争に参戦しているんでしょ?
ええ・・・。
お兄さんの、ジョニーも。・・・デビッドに会ったこともある。
・・・・・・。
ーーーーーーーーーー
私のことを知ってるようだけど、不愉快だわ。
詮索したわけじゃない。知りたいことを聞いていたら、あなたに出会った。
・・・解った。Gに会ってみて。
G?
今度の土曜日の午後、東公園で。Gに連絡しておくわ。お爺さんよ。人の少ない公園だから、すぐに判る。
ーーーーーーーーーーーー
(東公園内をゆっくりと歩くG。手足の長い娘が近づいて来る。淡いピンクのブラウスと同じ色のミニ。やや濃い目のピンクのカーディガン。)
お爺さん・・・。
(無表情で振り向く。)
G・・・ですか?
君は?
スワンです。
ああ、君が・・・エコーから聞いている。・・・何をしたい?
何をすれば良いの?
・・・少し遊んでみようか。
良いわ。マッチの作法は心得ている。
で、その格好か?
今日のウェアは、私にとって特別な物なの。ブラウス、スカート、アンダーウェアもね。全部、お母さんが揃えてくれた。
そうか、思い入れがあることは解った。その格好でマッチをしたらパンツが丸見えになる。
気にしないわ。
(しばらく小競り合いを繰り返した後、マッチ・ポジションを解くG。)
このくらいにしよう。バトル・フィールドに行ってみようか。
えっ?
サムに会ってみよう。
はい。


(バトル・フィールドに着いて道場に向かう。コマンダーとマッド・ブルが待っている。)
無理を言ってすまなかったね。
いいえ、お安い御用です、先輩。・・・そちらのお嬢さんですか?
うん、土曜日戦争に志願したいそうだ。さっき、東公園で手合わせして来た。急いでいるようなんでね。
そうですか。では、早速、僕と遊んでみましょう。
はい。
着替えが必要なら、トレーニング・ウェアの用意があります。
お気遣いありがとうございます。ですが、このウェアでお相手します。
(マディーがGを見て苦笑する。【コマンダー相手にお相手するそうだ。大した玉だな。】)


(会議室で待つGとスワン。マディーが来る。)
先輩、お待たせしてすみません。
気にするな。良くない結果かな?
いいえ、入隊を許可すると言ってます。・・・Eランクで。
ほう、あいつの判断か?
はい。
ーーーーーーーーーーーーー
俺から、コマンダーの言葉を伝える。・・・スワン、君の入隊を認める。
ありがとうございます。私、何か心得ておくことがありますか?・・・私の権利についても教えて下さい。
君は、毎土曜日、このバトル・フィールドに出入りすることが出来る。食堂の利用も自由です。その他、トレーニング施設を利用するすることが出来ます。君は隔週、バトルに参戦する。俺の指示に従って下さい。毎月のフライトに対する報酬を支払います。勝敗に関係なく、契約書に定めた額を振り込みます。
はい。
君は、君の意思で、いつでも除隊することが出来ます。
・・・・・・。
同じように、私達は、いつでも、君の事情を考慮することなく、君を除隊させることが出来る。
・・・はい。
不満ですか?
いいえ、それがルールなら従います。
私からは以上だ。君の夢が叶うと良いね。
えっ?
土曜日戦争に志願する者達は、夢を持っている者が多いので、君もそうかなと・・・。
はい。ありがとうございます。


(スワンを送るG。)
家まで送るよ。どこに住んでる。
東公園の近く。お爺ちゃんと居るの。
そうか。その辺りだと誰かな?
エム・・・って言ってる。
・・・エム・・・俺の友人だ。一人暮らしのはずだが。
最近来たの。私にも事情があるのよ。
なるほど。
だから、東公園で降ろしてくれれば良いわ。
いや、そうはいかない。車を家に置いて歩いて送ろう。
良いわよ、面倒じゃない。
エムの所に居るのなら、彼に話を通しておかないと。
はい。・・・うちのお爺ちゃん、たとえ窮地に追い込まれても、俺は負けないなんて強がってるけど、あなたも同じ?
どうかな。
年寄りの冷や水ということもあるからね。お爺ちゃんは、いずれ、私を疎ましく思うようになる。憎まれる前に自立しないと。今日は、その第一歩だわ。あなたに感謝する。
・・・必要無いよ。


(エム宅の居間で酒を酌み交わすエムとG。スワンがバスルームから出てくる。全裸だ。)
お爺ちゃん、寝るよ。(エムに歩み寄り、頬擦りする。)G、今日はありがと。(同じように頬擦り。)おやすみなさい。(踵を返し、冷蔵庫から水のボトルを取る。)お水、貰うね。
やれやれ、今日は機嫌が良いようだ・・・。
君の孫だったのか。
違うよ。遠縁の娘を預かっているんだ。家庭が壊れてな。(エムが顔を曇らせる。)
家庭が壊れた?
ああ、脆くもな。・・・父親が家を出て、母親は入院中。身寄りが少なくて、俺の所に置いてる。高校卒業までかなあ。
そうか。
今日は世話をかけたようだね。
いや、興味深い日だったよ。
あの子、何をした?
土曜日戦争に志願し、入隊を認められた。差し出がましいようだが、俺が保護者の代わりを。君の所に居ると知っていれば、出しゃばりはしなかったんだが。君が不同意なら、取り消すことも出来る。
いや、お互いに干渉しないことにしてる。・・・なんで土曜日戦争に?
金が必要だって言ってた。
で、アルバイトか・・・。
エム、土曜日戦争は、普通のアルバイトとは違う。誰にでも出来ることじゃない。
金になるのか?
うん。
ここから飛び立ちたいのか・・・。



ねえ、スワン、あなた、あまり打ち解けないよね。
・・・みんなと燥ぐのは嫌いじゃないけど、後が辛いわ。
そうなの?
だって、パーティの後は虚しいじゃない。

   令和6年8月15日

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