
肥人Ⅵ
観戦
{
櫂さん、行きましょうか。
はい。
ーーーーーーーー
入室する前に、少し説明させて下さい。
はい。
この部屋に入ることができる者は4人だけです。今はコマンダーとビリーが居ます。背の高い方がコマンダーです。コマンダーは第一指揮官、第二指揮官のマッド・ブルは参戦中。ビリーは僕の補佐官です。つまり、実戦部隊のトップ二人と、戦略分析室のトップ二人だけが入れる部屋です。・・・行きましょうか。
はい。でも、私が入っても良いんでしょうか。
僕が招待しますよ。大丈夫です。
}
{
コマンダー、ビリー、ジョシュアの友人で櫂さんです。
ああ、ジョシュアの・・・チーフKが戦略分析室に誘っているそうですね。
はい。
で、コマンダー、櫂さんがここでジョシュアのバトルを観戦して良いかな?
もりろんだよ、チーフK。君のゲストだ。・・・構わんよね、ビリー。
はい。
}
ーーーーーーーー
{
ビリー、櫂さんにランチをご馳走してくれないか?
はい。・・・行きましょうか、Oar・・・。
えっ・・・。
ファッツのことは、ジョシュアとマシューから聞いていました。君のことも・・・。
そうですか。
詮索したわけではありません。
はい。疑ってはいません。
ーーーーーーー
ビリー、転勤までして土曜日戦争に志願した理由って何ですか?・・・不躾ですみません。
ストレートな物言い、嫌いじゃありません。Kに誘われたからです。高校の先輩でね。報酬も魅力的でした。住宅ローンがあります。会社の給与だけでは余裕が無い。息子が生まれたばかりで・・・。でも、それだけではありません。僕は、Kと一緒に作業することに、やり甲斐を感じています。彼は、普通じゃない。
普通じゃない?
そう・・・発想がね。
私、戦略分析室に誘われています。
知っています。もし君が志願してくれたら、僕のアシスタントになります。
あなたのアシスタント?・・・私にできるでしょうか?
OJTですよ。僕がフォローします。
・・・彼と相談したいです。
ジョシュアと?
はい。
それは良い。
・・・はぁ・・・。
彼は、特別な男性ですか?
ええ・・・そうです。
だったら好都合ですね。共通の任務を通じて、お互いの理解が深まると思います。週一日のパートタイムですよ。
私にも報酬がありますか?
はい。ジョシュアよりは少ないかもしれません。彼は、Dランクですからね。
彼、Cランクに上がりたいと言っています。
Cランクに上がれば、報酬は倍以上になります。ABCクラブにも出入りできる。
なに?
土曜日の午後に飛んでる成人男性だけが出入りできるバーです。
女性の戦士も居ると聞いていますが・・・。
はい・・・でも、男だけです。
理由がありますか?
ルールです。
・・・しょうもな・・・。
怒ってる?
いいえ。
いずれにせよ、君は未成年だから入れませんがね。
ビリー・・・解っていますよ。
(ビリーの口元が緩む。)
}
志願
{
ジョシュア・・・。
おお、俺のバトル、見たんだって?
はい。特別室で・・・。
そうか。よく入れたな。
Kのゲスト待遇です。・・・あなた、こんなことしてたんだ。
ああ、俺、土地っ子だからな。思い入れがあるんだよ。
そうですか・・・。
昼食はどうした?・・・俺、ミーティングが長引いて、気になってた。
ビリーが付き合ってくれた。・・・奢ってくれました。
・・・そうか。・・・彼、何か言ってたか?
ABCクラブのことを教えてくれました。成人男性の戦士だけが出入りできるバーだそうですね。
まあ、そのようだ。俺には、まだ、権利がない。
ジョシュア、ABCクラブに入りたいですか?
・・・Oar・・・もちろんだよ。
・・・・・・。
・・・・・・。
私、志願するわ。
・・・そうか・・・。出来そうか?
解りません。・・・努力します。
櫂、無理するなよ。
良いじゃない。ダメなら除隊でしょ。出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。・・・チャンスの後ろ髪はないからね。
うん・・・。(おまえ、そんなキャラだっけ。)
ねえ、この前、あなたの部屋でKの課題を話し合った。
ああ、良く覚えているよ。
私たち、夫婦みたいだったね。
そうか?
うん、一緒に考えて、お昼を食べた。あなたの部屋で、二人きりで、誰に邪魔されることもなく過ごした。・・・二人で狂えるわ。
おいおい・・・。
気にしないで・・・言ってみただけだから。
まあ・・・悪くはないかも・・・。
私たち、狂うの?
・・・気にするな。俺も、言ってみただけだよ。
あなた、思ったほどおバカではないようね。
俺を軽く見るな!痛い目に会うぞ。
・・・はい。・・・まさか、私を脅してはいませんよね。痛い目って何ですか?
すまん・・・忘れてくれ。誤解されるような事を言って悪かった。
はい。
櫂、おとぎ話を信じるかい?
はい。それで幸せになれるなら。
そうか・・・。
}
ーーーーーーーー
{
ビリー、櫂さんをどうやって口説いた?
志願したんですか?
うん。来てくれるそうだ。
少し、話をしただけです。・・・彼女、凄いかもしれません。
僕もそう思いますよ。・・・まあ、過度な期待はしないでおきましょう。
そうですね。
【
ジョシュア・・・。
チーフK・・・。
櫂さんを説得してくれたかな?
いいえ・・・俺、賛成も反対もしていません。あいつの意思に任せただけで・・・。なんか、ビリーと話して決めたようです。
頭の良い女子と付き合うのは大変だね。
そんなことは無いと思いますけど・・・。
ジョシュア、君の問題は何ですか?
俺、昔から自分を超えなければと思ってた。
自分を超える?・・・不可能ではないですか・・・必要もない。
そうかなあ・・・。
僕も、そんな事を考えたことがあります。危険だよ。人生を棒に振るつもりですか?
・・・・・・。
君は彼女を雑に扱っているようですね。
そんなつもりはありませんよ・・・。
君に、そのつもりはなくてもねえ・・・。
俺、説教されてます?
・・・お節介が過ぎたね。アドヴァイスのつもりだったんだが。・・・忘れて下さい。
はい、ありがとうございます。
】
}
On the Job Training
午後のティー・タイム。ビリーに話しかける櫂。
{
ビリー、普通の人に罪はありませんか?
どうだろうね。
普通の人は、なんの罪もない人でしょうか?
君は、普通の人ですか?
はい、そう思います。
何故ですか?
特別な能力があるとは思えないし・・・著しく劣っているとも思えないからです。
それ、どんな尺度ですか?
・・・・・・。
家族や自分の生活に、そこそこ満足して、その他の事にはあまり関心のない人が、普通の人ですか?・・・普通の人が良い意思を持って努力すれば、良い社会を形成することが出来るんでしょうか?・・・Invisible Hand が僕たちを導いてくれますか?
・・・そうであれば、良いと思います。
}
{
さあ、最後のバトルが始まる、行きましょうか。
はい。
このところ、最終戦の勝率が落ちている。コマンダーとK、どうするかな?
・・・はい・・・。
}
James1:12
Blessed is the man who endures temptation, for when he has been approved, he will receive the crown of life, which the Lord promised to those who love him.
{
お父さん・・・。ちょっと良いですか?
ああ・・・。
お邪魔じゃないですか?
ちっとも。・・・土曜日戦争に志願したそうだね。
はい。戦略分析室です。・・・任務の詳細については話せません。秘密保持契約に同意しています。
そうか。
ねえ、お父さん・・・お父さんは誘惑に負けたことがありますか?
うん、あるね。
どんな?
今は、飲酒と喫煙かな。
そうですか。・・・飲酒と喫煙は悪いことですか?
良くも悪くもないと思うよ。法律に違反してはいないしね。
もっと大きな誘惑がありましたか?
意味が解らないね。
しらばっくれて・・・いませんか?
娘に嘘はつかないよ。
娘でなければ、嘘をつきますか?
櫂、言葉尻を取るのはやめなさい。
はい、軽率でした。
他者からの誘惑を断ち切ることは、さほど困難なことではない。それが、誘惑だと認識できるからね。でもね、自分が作り出す誘惑は、それが誘惑だと認識できないことが多い。・・・厄介だね。
ーーーーーーーー
お父さん、櫂、食事の用意が出来ましたよ。
は〜い。・・・お父さん、行きましょう。
ーーーーーーーーー
食卓につく父。
ーーーーーーーーーー
お母さん、手伝うわ。
ありがと。・・・お父さん、櫂と何を話していたの?
うん、人生の様々な誘惑について少しね。
有意義でしたか?
肉親との会話は、いつでも有意義ですよ。
そうですね・・・お父さん。
}
ーーーーーーーー
{
お父さん、今日は櫂とケンカしなかったようですね。
うん、穏やかに話を出来ました。
良かったですね。
細やかな心の安らぎを、感じることが出来たよ。
・・・・・・。
櫂は、良い娘だからね。・・・純も、良い息子だった。
そうでしたね。・・・忘れるところだった・・・薄情な母親になるところだったわ。
ハハハ、母さん。男は薄情な父になれるかもしれないが、女は薄情な母にはなれませんよ。
そうだと良いわねぇ。
}
{
お父さん、一緒に寝ても良いですか。
ああ、もちろんだよ。エッチなこと、するかい?
いいえ・・・。
まあ、おいで。櫂は寝たのかな?
そのようです。
ーーーーーーーー
純?・・・純なの?
母さん、痩せたね。・・・僕を見てくれる?
はい、見ていますよ。・・・純、肥えていないわ。
僕、戻ったんだ。
肥えを克服したの?
そうだよ。ほら、高校の時みたいだろ?
そうですね。・・・夢のようだわ。
母さん、夢だよ。
純、待って・・・。待ってよ。
ーーーーーーー
おい、母さん。
・・・う〜ん、なんですか?
魘されてるようだった。
そうですか・・・変な、寝汗を・・・。着替えるわ。
純の部屋に戻る?
はい、すみません。そうさせて下さい。・・・純の夢を見ました。
そうか・・・。良い夢だったかい?
はい、とても・・・良い夢でした。
そうか・・・。夢の続きを見れると良いね。
}
That's All Folks 令和4年3月