老人の夢と孤独ⅩⅢ
1
{
お父さん、電話です。
ん ?・ ・・誰かな?
アノゥニマスですって。知ってる?
うん、土曜日戦争の戦士だが・・・。
(家電を取るG。)
アノゥニマスか?
はい。僕、軍籍を剥奪されました。
どうした?
・・・リリーと付き合っていました。
それがどういうことか知っていたのか?
はい。
君が持っているいくつかの権利に対する権利を失うことになるが。
承知しています。
俺からコマンダーに話してみようか?
いいえ、その必要はありません。僕、あなたには気をかけていただいていたので、報告を・・・。
そうか。で、どうするんだ?
リリーと・・・旅に出ます。二人で堕ちていければ本望です。
}
【
(数日前のこと、ビリーの呼び出しを受けるアノゥ二マス。)
アノゥニマス・・・。
はい。
少し、話せますか?
・・・・・・。
リリーを知っていますか?
中学で一緒でした。
そう・・・敵の諜報員だということも知っていましたか?
はい。
そのこと知っていて付き合いましたか?
はい。
どうして?
・・・恋をしたからです。
実らぬ恋でも?
・・・ビリー、僕の問題はなんですか?
情報漏洩・・・深刻です。
言い訳はしません。
そうですか・・・残念だよ、アノゥ二マス。
すみません。
】
2
{
(ファミレスで食事をするマシュー、バンビーノII、バンビーノIII。)
アノゥニマス、リリーと逃げたって?
うん。まあ、逃げたって言うのか、二人で一緒に居るらしい。
居場所は?
判らないようだ。
そのうち帰ってくるさ。
マシュー、楽観的だ。アノゥニマス、思い詰めるタイプだからなあ。
君たちは同じ中学だったから、気心を知れているんだろうが・・・。
でも、アノゥニマスとリリーなんて、考えもしなかったよ。
不釣り合いだと?・・・失礼だ。
あいつ、高校出てからどうしたんだっけ?
専門学校に行ったんじゃないかな。コンピュータ関係の。
そうなんだ・・・。順調だったのにな。
単調な生活に嫌気がさしたんだろう。
それにしては、代償が大きい。
バンビーノIII、取り戻すことは出来るよ。
土曜日戦争には戻れないんだろ?
一年間はね。
・・・どういうことだ?
功労バッジを持っていたんだ。・・・13個も。そうだよな、マシュー。
うん、ビリーに確認した。間違いない。ちなみに、僕たち三人は全員5個未満だ。
大差だなあ・・・。(ため息を吐くバンビーノIII。)
功労バッジ10個と引き換えに一年間の軍籍剥奪という処分になった。復帰するには審査があるけどね。
心証が良くないな。
・・・引き返せるよ・・・引き返すしかない。リリーとは上手くいかないだろうから。
ーーーーーーーーーー
(二週間後、家に戻ったアノゥニマスからマシューに連絡があった。)
バンビーノII・・・。
ああ、マシューか。
アノゥニマスが戻った。今度の土曜日のバトルの後、会いに行かないか?
そうだね。
バンビーノIIIは、都合が悪いそうだ。
じゃあ、二人で行こう。
そうしようか。
ーーーーーーーーーー
(アノゥニマスの家を訪ねる二人。母親が対応に出る。)
どちら様?
バンビーノIIです。
僕はマシューです。アノゥニマスとは、土曜日戦争で一緒でした。
そう、息子のお友達・・・。あの子、部屋に閉じこもって塞ぎ込んでるの。上がって、二階よ。
(母に案内されて、アノゥニマスの部屋に行く。大きな灰皿に大量の吸い殻、何本かの酒瓶もある。)
酒とタバコ、やるかい?
いや、今日は顔を見に来ただけだ。
そうか・・・。迷惑をかけたね。
気にするな。君だって相応の代償を払ったんだから・・・チャラだよ。
・・・チャラねえ・・・御破算ってことか?(アノゥニマスが気怠げに応える。)
}
{
(アノゥニマスと別れ、帰路に着くマシューとバンビーノⅡ。足取りが重い。)
マシュー・・・2、3日は陰鬱な日が続くようだよ。
そうか・・・。
この時期の曇天、小雨って最悪だ。寒くて暗い。
・・・・・・。
あいつ、貯金を使ったんだろうなあ。
バンビーノⅡ、僕、同情はしないよ・・・。
}
3
{
お父さん、あの子、どうしました?
ん?・・・アノゥニマスのことか?
そうそう、そんな名だった。
まあ、少し落ち着いたようだが・・・そんなに簡単にはいかないかな。
どうするの?
うん、手助けできればと思ってるよ。
・・・お父さんの良いところね。
そうか?・・・俺の昔の職場でも、駆け落ちしようとした男女が居たよ。
どうなりましたか?
女性は職場を辞めて家に戻った。男の方は職場に戻ったよ。逃避行は十日ほどだったかな、長くは続かなかったんだ。
お父さんも、そうしたいと思ったことがありますか?
無いよ、相手も居なかったし。居たとしても、そんな事はしない。・・・結果が解りきっている事はつまらない。
結果が解らなければ、そうする?
そうだなあ・・・結果が解らないと思えばそうするかも知れない。だって、恋の終わりを見たいじゃないか。自分の想いがどう終わるのか、興味深いと思わないかい?
・・・変な人ね。
ああ、その彼は、若くして癌で亡くなった。逃避行との因果関係は無い、単なる事実だ。
お気の毒に・・・。
まあな。・・・なんの感情も無かったよ。彼は、他人だったんだ。
アノゥ二マス君も他人ですか?
別人格だから、そう言えなくもないが・・・彼は若く、まだ未熟だ。あいつ、どうなるかなあ。
}
{
老い先短い私達は、若い人達の小さな失敗を言い募ってはいけません。
老い先短いって、実感無いなあ。
ハハハ、それで良いのよ。実感する時は死ぬ時だから。・・・私は自分の死の時に立ち会いたくないけどね。
・・・・・・。
でも、お父さんと一緒なら、どこまで堕ちても本望です。
・・・・・・。
私達、死ねば良いじゃない。
何時かな?
何時か来る何時かですよ・・・私、何年経っても、まだあなたに夢中だからね。
・・・・・・。
なんか、文句ありますか?
}
令和5年12月12日