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サボテンⅢ



アオイ・・・道が違うだろ。
カナちゃん・・・前に、カヲル君と歩いたんだよ。少し、遠回りだけどね。じゃあ、あたしと歩くか?県営住宅の入り口まで・・・。
うん。
勘違いするなよ。おまえに気があるわけじゃないからな。
僕だって、カナちゃんに気があるわけじゃないです。
そうか、おまえ、良い奴だな。
(県営住宅の入り口に差し掛かる。)
アオイ、そこら辺、一回りしようか?
うん。・・・何かあった?
あったよ・・・。父母の話に割り込んで、恥ずべきことを口にした。母さんに、平手打ちを食らったよ。
痛かった?
・・・頬より痛いのは心だ。自分を罰したいと思うよ。
カナちゃん、自分で自分を罰することは出来ない。カナちゃんを罰することが出来るのは、カナちゃんじゃない誰かだよ。
偉そうに・・・。

Flashback

お父さん、学校に行って来ました。
で?
状況は、良くありません。退学もあり得るそうです。
そうか・・・困ったね。
お兄ちゃん、このままじゃ、社会の石炭・・・泥炭だわ。
(間髪を入れず、母の平手打ちが飛んだ。)
カナ!
(さらに叩こうとする母を父が止めた。)
母さん、落ち着きなさい。
でも・・・。私のベビーを石炭に例えるなんて、許せない。
カナだって、本心じゃない。カナも、母さんのベビーだよ。
・・・・・・。


アオイ、付き合わせて悪かったね。・・・弱者が弱者を苛む、のかなあ・・・。
少し遠回りをしただけだよ。カヲル君とも、よくそうした・・・。
そうか・・・仲が良かったんだね。
うん。



アオイ君・・・。
はい、秦野のおばさん。
回り道ですか?
はい、カヲル君と、よく歩きました。県営住宅の入り口まで・・・。そこで、別れた。
そう、寂しかったですか?
そう思う事もありました。・・・秦野のおばさん、カナちゃんを叩いたの?どうして知っているの?
カナちゃんから聞きました。
そう・・・事実よ。
理由がありますか?
あるわ・・・。
人の体を石炭に例えたからですか?
・・・アオイ君・・・私達、親子の問題ですよ。
すみません。軽率でした。
良いのよ。・・・私達の家族には、克服しなければならない問題があるようだわ。・・・たまには、カナの話し相手になってね。
・・・はい。


ママ、ただいま。
お帰り・・・。今日も遠回りして来たの?
うん・・・。秦野のおばさんに会ったよ。
秦野のおばさん?
カヲル君の友達のカナちゃんのママだよ。
カナちゃんて、誰なの?
同じ中学の二年生・・・。
そう。・・・宿題をしなさい。
はい。



ブックさん、私、妊娠しました。コマンダーには、除隊の意思があることを伝えた・・・。
彼から、聞いていますよ。一緒に除隊しよう。・・・僕達は一緒に志願した。除隊するのも一緒だよ。
良いの?
うん、コマンダーは賛成してくれたよ。・・・病院は?
結婚した時、子供が出来たら、ここに行きなさいってお母様が・・・。
お袋が?
ええ、年配の先生で、私達の家の事を知ってた。・・・高齢で初産だから、不安だわ。
そうだね・・・。ドクターは何て?
特には・・・性交渉は控えるようにって言われました。マストではないようです。


ブックさん。除隊しますか?
そう・・・女房が除隊すると決めたんでね。
慰留はしません。
解っているよ。僕達は、二人で一人だったからね。
奥さんが、妊娠したそうですね。
うん・・・恥ずかしながら、遅く来た子だよ。来るかもしれないベビーだ。
来て欲しいですか?
勿論だよ・・・。切望している。
ブックさん、Aランクの席を明け渡しても良いですか?
心残りはあるけど、一人では戦えない。
ランクダウンして、戦う方法もありますよ。
いや、やめておくよ。・・・僕達は晩婚でね。子宝に恵まれるとは思っていなかった。・・・大事にしたいと思ってる。
はい。願いが叶うと良いですね。
コマンダー、世話になったね。
いえ・・・。



(除隊後、初めての土曜日。ブランチのテーブルに着くブックさんとワイフ。)
ブックさん、ケーブルテレビ、見ますか?
そうだね、午後のバトルを見ようよ。また、少し、庭に出るよ。雑草との戦いは果てし無い。
そうですね。・・・私達、Aランクの3組でしたね。
うん・・・。今日は、誰が飛ぶんだろうね。
判りません。私としては、マシュー推しです。
マシュー?・・・ああ、バンビの子供達の一人だったね。
ジョシュアも有望だわ。
ジョシュアって、誰?
イケメン、ジョシュア。DかEで頑張ってる。戦略分析室の櫂ちゃんの恋人だって。・・・アノゥニマスもあるかな。みんな、若い。眩しいくらいよ。情報通だね。
ただ、知っているだけです。でも、心の支えになる。誰でも、自分のストーリーを生きているから。・・・ブックさん、まだできると思って退役した戦士は、自己矛盾を抱えることが多いそうです。あなたは、どうですか?
・・・心配事が、増えそうだよ。雨だれ岩をも穿つ、石の上にも三年、困難の解決は自身の内に見出せ・・・そんな風に生きてきた。君と結婚して、家庭生活に懐疑的だった事を忘れた。


(日足が伸びた季節の夕暮れ時、まだ明るい時間に夕食の席に着く二人。)
ブックさん、芋の水割り、作りましょうか?
ん?・・・ああ、そうだね。
変な遠慮はしないで下さい。妊婦には、いろいろな制約があります。禁酒、禁煙、その他にも。・・・でも、あなたが、同じ事をする必要はありません。
そうか・・・。
してはいけない事もあります。
何かな?
妊娠中に、妊娠中でなくても、浮気したら、私はあなたをぶっ殺します。
ハハハ、良いね。覚えておきます。
濃いめの水割りを作るわ。



(土曜日、バトルが終わった後。)
ブックさん・・・ブックさん。
ああ、スリーピー。
除隊したと聞きました。
うん、手続きが残っていてね。済まして来たよ。
思い残すことは、ありませんか?
・・・無いと思うかい?
いいえ、愚問でした。
・・・定年には、まだ間があるから・・・しばらくは、役所と自宅の往復になる。庭の手入れにも、時間を使えるようになるだろう。
サボテンを育てているそうですね。
まあ、鉢植えがメインなんだ。小型のサボテンだよ。だんだん、数が多くなる。
ブックさん、余裕ですね。
そうでもないよ。


スリーピー、女房は高齢で初産だ。心配の種は尽きない・・・。僕は、どうすれば良いんだろうね。君は、どうしてた?
特には何も・・・。週日は倉庫に行って、土曜はバトル・フィールド、日曜の昼はたまに外食したり。ハナは、何も言わなかったし、俺もそれで良いと思ってた。
酒やタバコは?
晩酌はしてた。今でもですけど・・・。喫煙は、自室で・・・。
そうか、難しい事じゃないんだ。
だって、妊娠や出産に関しては、俺が出来ることなんて無いじゃないですか。せいぜい、性交渉を控える事くらいですよ。後は、定期的に病院に行って、出産も病院でした。任せるしか、ありませんでした。・・・無力といえば無力かな。
ハハハ、そうか。少し、気が楽になったよ。


(帰宅するブックさん。)
ただいま。
お帰りなさい。ご苦労様でした。手続きは済んだの?
うん。帰りがけに、スリーピーと会ったよ。妊婦の夫の先輩だ。
何か言ってましたか?
色々と教えてもらったよ。セックスは、ほどほどにせよ、とか・・・。参考になったよ。
良かったですね。
ああ、そうだね。

         令和4年7月

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