映画『アフターサン』

映画『アフターサン』(シャーロット・ウェルズ、2022)
イギリスに住む11歳の娘と31歳になる父親との、トルコでの一夏の休暇旅行の思い出を、父親と同じ歳になった娘が回想する。父親と娘がその後どうなり、また、(このような回想のそもそもの一因とも思われる)娘とその「家族」がどうなるのか、という点も後からじわじわと気になってくる静かな佳作。

(以下具体的描写に触れながらの感想)
 ホテル滞在ということで、ソフィーがさまざまな「大人の世界」を目にして、子供から大人への成長の兆しを見せる一方で、父親の方はまだ新しい一歩が踏み出せないでいる様子がしばしば描かれる(それが暗示する彼の未来は決して明るいものではない)。
 時折映し出される、娘ソフィーの現在の境遇(同性のパートナーがいて、赤ん坊を養子にしていることもうかがえる)が、(明示はされないが)そもそもなぜ彼女がそのような回想を始めたのかという原因にもなっているように思われる。父親と娘という、互いに様子を見たりアプローチを確かめたりしながらの微妙な関係は、常に不安定なものだが、それは現在の彼女が抱える、同性カップルが子供を育ててゆくことへの不安にもリンクしているように思われる(ただそこに「父親」であることというジェンダー役割的な要素は読み込みすぎない方が、柔軟な鑑賞ができるだろうな)。
 そして、別れた元妻の方は次のパートナーを見つけて、着実にあらたなステージへと進んでいるのに対して、「変われない」(あるいは「変わらない」ことへのこだわりとも言えるか)ままに取り残されている男のもの悲しさよ。太極拳や瞑想で「鎮静させる」だけでは不十分なのかな。
 「記憶の映画だ」と宇多丸さんがラジオで勧めてたので観に来たけど、自分にとっては「男の生き方」を問いかける映画でもあったな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?