三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

タイトルが一人歩きしている感もある(それだけ秀逸なネーミングということです)話題の本。
 「本」が必ずしも「書籍」だけではなく、いわゆる「余暇」が取れなくなることを指していることは一読すれば分かります(読まないコメントが多いこと・・、それも話題の書の宿命でしょうか)し、タイトルの問いかけへの直接的な回答は最後の章とあとがきに記されているわけですが、本書の本領がそこではないことは、読み始めてみるとしっかり伝わってきます。
 今の私たちが「働いていると本が読めない」と「問題だ」と感じられるのは、そもそもなぜか、という主題が明治期からの「教養」に対する私たちの見方の変遷にあることを、階級の差別化や「使える/使えない」といった観点から詳らかにしてくれています。
 手っ取り早く「一言で」答えを知りたい姿勢(そこに至る歴史的経緯も描かれています)に対して、いったん腰を据えて情報を集めたり資料に当たったりしながら考えをまとめることの大切さを説いてくれています。そして読者が途中で投げ出すことのない程度に記述の密度にも丁寧に気を配られていて(「研究者」がしばしば見誤ってしまう点で、参考になります)、現代の「教養の書」のあり方の好例となってくれる本ですね。

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