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Memories / SHE'S
FCの先行試聴配信で竜馬さんが話していた通り、クライマックスにふさわしい前曲『Alright』の華々しい祝福でまだ幕が降りないのが、このアルバムのミソだ。
タイトル曲の『Memories』は、大事な人との別れや人生における卒業を歌った曲。卒業式の入退場曲としておなじみ、バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』がサンプリングされているのも、曲のイメージを増幅させていて好きだ。
SHE'Sの楽曲にみられる「記憶」や「他者との関わりとそれに伴って生じる自分の心の動き」といったテーマが歌われているし、曲自体からもSHE'Sらしさをたっぷり感じることができる。壮大で心が浄化されるようなはじめての感覚があるのに、どこか懐かしくて心にきちんとフィットしてくれるのがこの『Memories』だと思う。
『Memories』は壮大でたくましく、とにかく美しい。目を瞑りたくなるくらいに眩しい。まっさらでピュアな光につつまれる。
でも、そのピュアさはただの無垢ではない。穢れも暗闇も知っていて、何度も道に迷ってはぐるぐると同じ所を回ったり右に左に曲がりくねった道を通ったり、それでもなんとか選び続けて、やっとたどり着いたピュアさという感じがする。ここまでの9曲を順番に聴いたあとには、そう思わざるを得ない。
この曲は、記憶をめぐる『Memories』という映画のエンディング曲のようだし、リスナーの人生の主題歌みたいな曲だと思う。
映画のハイライトやキャストが流れてくるみたいに、頭の中には自分の人生における様々な場面や関わってきた人たちの顔が浮かぶ。すごく興奮しているのに、思わず深呼吸したくなる。このすがすがしい余韻に浸っていたくて、まだ席を立ちたくない。そんな気持ちになる。
選んだあなたの僕は味方だ
アルバムの10曲目を聴き終えてもそこでアルバムの世界を途切れさせないのが、『Memories』というアルバムだ。
この曲を聴いたあとも、私たちの人生は続いていく。そのなかで、ひどく落ち込んだり立ち止まりたくなったりする瞬間が何度もあると思う。
そんなときは、自分の歩いてきた道を振り返ればいい。記憶や思い出に支えてもらえばいい。まるで世界で自分だけひとりぼっちのような気持ちになったら、自分がどこに向かっているのか分からなくなったら、また『Memories』を再生すればいい。この曲たちとあなたの記憶は、今のあなたの味方になってくれるはずだから。
すぐに花開かずとも、時間を越えて、心を通り過ぎて、いつか記憶は僕たちの前で光り輝きます。このアルバムが僕にとってそうなったように、あなたの記憶もいつかあったかく光を灯すことを願っています。