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Kick Out / SHE'S

 個人的に、アルバムの流れに組み込まれたことで聞こえ方がいちばん大きく変わったのがこの『Kick Out』だった。

 『No Gravity』やタイトル曲『Memories』と同じくすでにデジタルシングルとしてリリースされていた楽曲で、自らを縛り付ける外野や自分からの余計な声をシャットアウトし、人生を切り拓いていこうという宣誓のような曲だと思う。
 リリースされた今年の6月に初めて聴いたとき、最新のSHE'Sが見せる背中はこんなにも大きく力強く頼もしいのかと、眩しく誇らしく感じていた。言い換えれば、気圧されていた。すでに新たな覚悟を決め、未来に向かって意気揚々と進むのだという気迫に満ちているように感じた。歌詞も曲も含めて。ハンバーガーを食べながら楽しそうに歩くメンバー4人の写真がジャケットになっていたのも印象的で、この曲は今のSHE'Sをそのまま映した曲なんだと感じた。

 しかし、アルバムを通して聴いたときの『Kick Out』には、どこか切ない響きがあった。強いだけじゃないんだ、と思った。
 大切な存在と過ごした時間を忘れられなくて、ふとしたときに蘇る記憶からどうしても離れることができない。いつだってありのままの自分でいたいのに、いざ相手を目にすると素直な気持ちを伝えられない。これまでの楽曲で歌われてきたことは人間の弱い面、どうしようもない部分かもしれない。この曲で歌われているような「優しい奴」であればあるほど、そんな自分に苦しめられ「簡単に自分呪って 足枷を作る」。けど、それでも進んでいくための曲が『Kick Out』なんじゃないかと思った。

 昨年から曲制作における心境の変化があったという竜馬さんは、この曲を書いているときにもそのことで悩まされたと話している(https://spice.eplus.jp/articles/331412/amp 
より)。ひたすらに大きくて強いと思っていた『Kick Out』は、葛藤の中で生まれた一曲だった。高らかな宣誓だと思った歌詞が、今はなんとか自分自身に言い聞かせる言葉のようにも聞こえてくる。まだ完全に前を向けるわけじゃない。過去の自分自身を完全に断ち切るわけでもない。それでも、少しでも明るい方向に向かって進んでいきたいというまっすぐな意志が感じられる『Kick Out』には、これまで視界を覆っていた霧が晴れてすっと陽が差し込んできたようなすがすがしさがある。

 また、すでにフェスやワンマンライブで披露されているこの曲は、ライブ映えが著しい楽曲のひとつでもある。リズムにぴったりとハマって気持ちの良いサビ前からのドラムやサビのシンガロングなど、生の演奏でしか味わえないポップパンクの弾けるような開放感やそこに自分も声を出すことで参加できる歓びを、ぜひあなたにも一度会場で味わってほしいと思う。


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