見出し画像

Cloud 9 / SHE'S

 イントロ曲の音が途切れて間もなく響きわたるボーカルの第一声に、何度聴いても鳥肌が立つ。
 前曲からの最高潮のワクワクが一気に解き放たれるこの気持ちよさは、実際に2曲をつなげて聴くこと以外では味わえないと思う。

 2023年にリリースされた前アルバム『Shepherd』も、インストを除いた1曲目はイントロなしの楽曲だった。竜馬さんの歌声から入る楽曲は、凛としていて透明感のある彼の歌声の美しさに改めて気づかせてくれる。

 恋でも友情でもない唯一無二の特別な感情を歌った歌詞は、全てのリスナーがそれぞれにとっての特別な人を思い浮かべながら聴くことのできるものになっている。
 自分にとって大事な相手との関係に恋人や友達といった名前がつかなくたっていいし、そんな相手に対して抱く感情は恋じゃなくても、友情じゃなくてもいい。このことは、多くの人にとっての救いになりうると思う。
 例えば、SHE'Sの音楽から人生において大切なことを教わり、SHE'Sのライブにはじめての景色を見せてもらっている私にとって、この曲を聴いて浮かぶ相手はSHE'Sというバンドだ。SHE'Sの音楽とともに日々の様々な場面を乗り越えてきた私にとってSHE'Sは人生の一部だし(「You're part of my life」)、SHE'Sが「君がいないと見れなかった 人を想うその美しさを」と歌ってくれるから、私はSHE'Sを想う私自身のことを少しだけ好きになれる。

 また「嘘の中で生き続けたって 僕はきっと僕でしかないんだ ありのままのありったけの姿で歌っていくんだ」という歌詞は、ボーカルであり全楽曲のソングライティングを務める竜馬さんの姿に大きく重なる。彼が自身の考えたことや感情を着飾ったり繕ったりすることをせず、つねに等身大の姿で歌い続けているからこそ、SHE'Sの音楽はリスナーひとりひとりの心に深く響き、永く愛されるのだと思う。

 青春アニメの主題歌を意識して作られた(https://spice.eplus.jp/articles/331412/amp より)というこの曲には、確かに清涼飲料水のCMとして流れていてもおかしくないほどの爽やかさがある。しかし、その「青春感」には、青春の渦中における目がくらむような眩しさよりも、それを少し離れた位置から見つめているような落ち着きが見られる。

 それは、歌詞のなかで、「君」と出逢った過去の思い出を思い返すことで気がついた、現在も続いている感情が歌われているからかもしれない。そんな、恋でも友情でもない、その人がいたから知ることのできた唯一無二の満たされている感情は、歌詞の中で「愛」と定義されている。過去の思い出が気づかせてくれた天にも昇る幸せな気持ち(=Cloud 9)を歌ったこの楽曲は、『Memories』(思い出)というタイトルのアルバムのリード曲として最高だと私は思っている。

 人生の中でこの楽曲に出逢えたこと、この楽曲を通して新しい世界の色を知れたことは、私を本当に満たされた気持ちにしてくれている。


いいなと思ったら応援しよう!