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Alright / SHE'S
アルバム『Memories』の山場になっている曲。サビで「Be Alright」とひたすら唱える歌だ。作詞した竜馬さんが自身に言い聞かせるように書いた曲だという。
そうだとしても、いや、だからこそ、ボーカルが「大丈夫、大丈夫」とボーカル自身に唱え続けてくれる歌がこの世界にあって本当によかったと、私は思うのだ。
もし好きなアーティストに「僕らがいるからあなたは大丈夫だよ」「あなたなら大丈夫だよ」などと歌われたら、きっと嬉しいだろうなと思う。無敵の気分になれるだろうなと思う。でもSHE'Sの音楽は、根拠のない自信をこちらに押しつけないし、軽率にこちらを鼓舞するようなことはしない。私はこの距離感を、SHE'Sがこちらに届けてくれる音楽の誠実さを、心から愛している。私には、リスナーに対して必要以上に干渉してこない、ただそこに在る音楽を求めたくなる瞬間があるからだ。
積み重なった不安に襲われてたまらない夜に、明日が来るのを拒みたくなった夜に、私はこの曲を聴くだろう。他者からの励ましの声も耳に入らないような最悪な一日の終わりに、「大丈夫、大丈夫やから」と自身に言い聞かせている他者の声をこっそり聴くだろう。そうして、根拠のない「大丈夫」を信じたいのは自分だけじゃないことに、ひたすら自身に向かって「大丈夫」と言い聞かせている大人がいるということに、救われるのだと思う。いつしか「大丈夫、大丈夫やから」とひたすら唱えるその人の声は、「大丈夫、きっと大丈夫だ」とおそるおそる言い聞かせる私の心の声と重なる。
この不安も 希望の中から
生まれる大事なものだろう
希望が不安の中から生まれるのではなく、不安が希望から生まれる。不安を抱えている私たちは、既に希望の中にいる。現在抱えている不安の中から小さな希望を探す必要はないのだ。希望があるからこそ生まれた不安。その不安は断ち切って進むものではなく、それさえも「大事なもの」として、必死に抱えながら進むものなのだと思う。
この楽曲の歌詞を見ると、「I just wanna feel, “It's alright”」で終わっている。しかし、この歌詞に到達した時点で、曲が終わるまでにはあと約80秒ある。歌詞カードの歌詞が終了してからのこの1分強に及ぶ時間が、『Memories』というアルバムのいちばんのピークだと言っても良いと思う。
この部分をはじめて聴いたとき、不意を突かれたと思ったら反射的にぶわっと涙が溢れてきて、次の瞬間には思わず噴き出してしまった。この部分のあるフレーズは、小さく呟いたひとりごとのように聞こえる。それでいて、こちらにもあたたかい視線が向いているように感じてしまうのだ。声を潜めてないしょ話をするときみたいに、曲とリスナーの心が静かにぐっと近くなる箇所だと思う。そして数秒後には、これまで蕾だった花たちが一瞬にして咲き誇るみたいに、とめどない祝福の雨に降られる。そのとき、暗い部屋でひとりこの曲を聴いている私という存在が、確かに救われるのだ。