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インタビュー:ピアニスト斎藤龍×ヴァイオリニスト荒井章乃「響き合う魂の共演」

2024年10月18日、横浜みなとみらいホールにて「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」が開催されます。このフェスティバルの第2部『愛を捧ぐ』(14:00開演)は、ピアニスト斎藤龍さんとヴァイオリニスト荒井章乃さんによる、セザール・フランク「ヴァイオリンソナタ イ長調」をメインにした公演となります。

斎藤さんと荒井さんの二人は、音楽を通じた強い信頼で結ばれています。長年にわたり共演を重ね、その過程で培われた関係は、単なる音楽家同士の連携を超えた特別なものです。今回は、二人がどのようにして出会い、共演することになったのか、その背景にある思いや音楽性について深く話を伺いました。(以下、敬称略)

前回のインタビューはこちら。

斎藤龍(ピアノ)
東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ科、同大学大学院修士課程、チューリッヒ芸術大学大学院コンサートディプロム、同ソリストディプロム修了。第16回ブラームス国際コンクール第3位及び審査員特別賞をはじめ受賞多数。友愛ドイツ歌曲コンクール最優秀共演者賞。ソリストとして神奈川フィルハーモニー管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団や多くのアマチュアオーケストラと共演。首都圏やヨーロッパでのリサイタルをはじめ、国内外の様々な音楽祭やコンサートにソロ・アンサンブルで出演。2011年から13年にかけてのベートーヴェン・ピアノソナタ全曲プロジェクトの他、2014年には日本ベートーヴェンクライス主催コンサートに於いて師である迫昭嘉氏とピアノ2台による「第九」(リスト編)で共演、2016年にも再演し好評を博す。 2020年にはヴァイオリニスト滝千春氏とのベートーヴェンヴァイオリンソナタ全曲を配信。2021年よりソナタ全曲に他の作品も加えた”Ryu plays Beethoven”シリーズ、また「ブラームスのソナタ」シリーズをスタートさせている。 東京藝術大学・同大学付属音楽高等学校、沖縄県立芸術大学講師を歴任、現在洗足学園音楽大学講師。全日本ピアノ指導者協会正会員、横浜音楽文化協会会員。

荒井章乃(ヴァイオリン)
桐朋学園大学卒業。かながわ音楽コンクールにて最優秀賞及び神奈川新聞社社長賞、全日本学生音楽コンクール高校の部全国大会第1位、第6回大阪国際室内楽コンクールピアノトリオ部門第3位受賞(日本人初の入賞)。霧島国際音楽祭にて特別奨励賞及び優秀演奏賞、霧島国際音楽祭賞受賞。宮崎国際、防府等の音楽祭、NHK-FM「名曲リサイタル」、(一財)地域創造公共ホール音楽活性化アウトリーチフォーラム等に出演。05年、東京文化会館にてデビューリサイタルを行う。これまでに神奈川フィルハーモニー管弦楽団、チェコフィルハーモニー室内管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団等、国内外のオーケストラと共演。現在、ソロ・室内楽・オーケストラの客演首席奏者等幅広い演奏活動を行う。桐朋学園大学付属音楽教室講師。



出会いのきっかけと共演に至るまで

お二人が初めて出会ったのはいつで、どのようなきっかけでしたか?

荒井章乃さん(以下、荒井):たしか、2017年のマリンコンサートで斎藤さんが大ホールで2台ピアノを弾いた時のことを覚えていますか?

斎藤 龍さん(以下、斎藤):ああ、覚えています。あの時ですね。

荒井:そのコンサートの後の懇親会で、斎藤さんの奥様が私に話しかけてくださって、「今度一緒にやったらどうですか?」という話をされたのが最初のきっかけでした。その後、2019年の横浜音楽文化協会のワーグナー祭に出演する際に、真っ先に思い浮かんだ共演者が斎藤さんだったので、このチャンスを逃してはダメだと思い勇気を出して声をかけました。

斎藤龍さんと荒井章乃さん ©︎Keiichi Kimura

お互いに出会った当初の印象についてはどう感じていましたか?

荒井:斎藤さんに対しては、初めてお会いした時から「本当に上手な方」と感じていました。それは単に技術が優れているという意味だけでなく、アンサンブルに対する考え方や姿勢が素晴らしいと思ったんです。斎藤さんは押し付けがましい演奏をすることなく、常に音楽全体を見渡して調和を大切にする方です。それが私にとって非常に魅力的でした。また、ソリストとしても確固たる存在感があり、それもまた素晴らしい魅力だと思います。

斎藤:私も荒井さんに対しては、最初から非常に真面目で、音楽に対して真摯に向き合う方だという印象を持っていました。彼女はヴァイオリニストとしてだけでなく、ピアノにも深い理解を持っているので、共演する際に非常に安心感があります。特に、ピアノがどのように演奏されるべきかを理解した上で、自分の演奏を組み立ててくれるので、私は彼女との共演を非常にありがたく思っています。

共演の申し出をいただいたときは、正直、最初は驚きました。でも同時に、荒井さんのような素晴らしいヴァイオリニストから声をかけてもらえたことが嬉しくて、すぐに共演の話が進んだのを覚えています。演奏を始めると、荒井さんとなら自然体でいられるという確信が持てました。

音楽性とお互いの理解

お二人が共演する際、特に強みだと感じる部分は何でしょうか?

斎藤:一番の強みは、私たちが理想とする音楽のゴールがいつも一致していることだと思います。理想的な音楽を作り上げるために、「ここはこうしたいよね」と言葉を交わさなくても、お互いの意図が自然に通じ合うんです。これが、私たちの共演の最大の強みだと思っています。共演者としての信頼があるからこそ、リハーサルでもお互いに違和感を感じることがほとんどなく、スムーズに進めることができます。

「みなとみらいピアノフェスティバル2023」終演後に

荒井:斎藤さんのおっしゃる通り、私たちのゴールが同じであることは本当に大きな強みです。リハーサルでは、お互いに「それは違う」というような意見の衝突がほとんどありません。むしろ、「そうだよね、じゃあこうしてみようか」とお互いにアイディアを出し合いながら進んでいけるのがとても良いんです。

斎藤さんは、私が持っている感覚的な部分を、理論的にサポートしてくれるだけでなく、その過程で私が持っている殻を破ってくれるんです。そして自分の考えを押し付けることなく、新たな視点を提供してくれます。その結果、本番ではお互いに自由に演奏できる関係が築けていると感じます。

斎藤:それは荒井さんの柔軟な発想と、私たちの信頼関係があってこそだと思います。お互いに補完し合える関係があるからこそ、リハーサルで得たものを本番で最大限に活かすことができるのだと思います。

荒井さんとの共演では、常に自然体でいることを心がけています。彼女は私と同じ目線に立って、音楽を作り上げてくれるので、対等なパートナーとしてとても信頼しています。彼女の真摯な姿勢とピアノに対する理解が、私にとって大きな支えになっています。

ブラームス共演の思い出と今後の展望

共演中に特に心に残るエピソードがあれば教えてください。

斎藤:昨年、ブラームスのヴァイオリンソナタ3曲をまとめて演奏した時のことが特に印象に残っています。このプログラムは非常に挑戦的で、リハーサルでも多くの試行錯誤を繰り返しましたが、その過程でお互いの信頼がより一層深まりました。

リハーサルでは細かい部分まで詰めていきましたが、本番ではそのすべてを超えて、ただ楽しく演奏できたのが素晴らしい経験でした。3曲を連続して演奏するというのは大変な挑戦でしたが、荒井さんとの信頼関係があったからこそ、成し遂げることができたのだと思います。

荒井:私も昨年のブラームスの演奏が一番印象に残っています。特に、3曲をまとめて演奏するというプログラムは、私にとっても未知の領域でしたが、斎藤さんとのリハーサルを通じて、その挑戦を楽しむことができました。本番ではお互いに自由に演奏できたので、非常に幸せな時間を過ごすことができました。この経験を通じて、私たちの共演がより深いものになったと感じています。

昨年のブラームスに対する特別な思いがあったからこそ、今年はまた違った作品に挑戦されているのでしょうか?

斎藤:そうですね。今年は昨年とは一転して、ドイツものが中心ではないプログラムにしました。昨年のブラームスは非常に特別な経験でしたが、私たちは常に新しい挑戦を求めています。今年はまた違った作品で新たな音楽を作り上げたいと思い、選曲しました。

今後の展望と、夢について

今後の活動について、どのような展望をお持ちですか?

斎藤:ピアノソロに留まらず、他の学校や歌、オーケストラとの共演を通じて、より広い音楽の世界を探求していきたいです。また、教える立場としても、自分の考えを押し付けるのではなく、生徒たちが自ら考え、成長できるようサポートしていきたいと考えています。

荒井:私も、年齢や環境に縛られることなく、常に新しい挑戦を続けていきたいと思っています。これからもソロはもちろん、室内楽やオーケストラ、クラシックの枠にとらわれない様々なジャンルも常にアップデートしていけるようチャレンジしていきたいです。もちろん家族との時間も大切にしながら、バランスの取れた音楽活動を続けていけることが理想ですが・・・。また、私たちの共演を通じて、新たな音楽の可能性をこれからも 広げていきたいと思っています。

斎藤:長期的な目標としては、10年に一回、80歳になってもベートーヴェンの全曲演奏を完遂できるようにしておくいうのは、人生をかけた大きな目標の一つです。これまでの人生で積み重ねてきた音楽の経験を、長い時間をかけてさらに深化させたいと考えています。また、オーケストラとピアノコンチェルトの弾き振りにも挑戦したいですね。これは子供の頃からの夢でもあり、オーケストラと共に一つの世界を作り上げるというのは、私にとって非常に魅力的な目標です。

ピアノソロの世界では、自分一人で全てを完結させるという特性がありますが、オーケストラと共に音楽を作り上げるというのは、全く異なる次元の挑戦です。ピアノでは表現できない音色や、複数の楽器が織りなすハーモニーの中で、自分の音楽をどう形にしていくのかという課題に取り組んでみたいと思っています。オーケストラの響きの中で、自分がどのように音楽を導いていけるのか、そういった新たな世界を開拓することが私の目標です。

楽しそうに談笑する斎藤さんと荒井さん

荒井:私にとっての長期的な目標は、この先も家族と共に音楽が常に生活の中にあるとです。音楽家として成長し続けることはもちろん大切ですが、それ以上に大切なのは、家族が健康で幸せに過ごし、その中で音楽が自然に存在しているというライフスタイルです。私は音楽が生活の一部ですが、家族のサポートがあってこそ音楽家である私がいます。だからこそ家族と共に音楽を楽しみながら、演奏活動を続けていきたいですね。

音楽と家族、どちらも大切にしながらのライフスタイルを続けるというのは、非常に素敵な目標ですね。では、音楽とは少し離れたところでの夢や、やりたいことはありますか?

荒井:音楽から少し離れた夢というと、もう一度ハワイに行きたいですね。コロナ禍ですっかり海外から遠ざかってしまいましたが、そう遠くないうちに今度は子供を連れて行けたらいいなと思っています。

斎藤:私は無謀な?夢があって家族と一緒に日本全国、47都道府県を制覇したいと思っています。笑

子供たちと一緒に色々な場所を訪れ、それぞれの地域の文化や自然を感じながら、家族の絆を深めていけたらと思います。仕事柄、様々な場所に行くのですが家族で一緒に旅行するのはまた別の楽しみがあります。まだ行ったことのない場所がたくさんあるので、少しずつ制覇していきたいですね。

二人の音楽家としての関係性は、互いの信頼と理解の上に築かれたものです。共演を通じて深まる絆と、それぞれの目標に向かって進んでいく姿は、多くの人々に感動と希望を与えます。今後も彼らの音楽がどのように進化し、どのような新たな挑戦に挑むのか、目が離せません。


「みなとみらいピアノフェスティバル 2024〈Day1. ホール公演〉」

横浜みなとみらいホール 小ホール

■ チケット 全席指定 ¥2,000

A. イープラス eplus.jp(スマートフォン/PC)
https://eplus.jp/mmpf2024

B. チケットぴあ
https://t.pia.jp (Pコード 272-589)

C. 横浜みなとみらいホールチケットセンター
電話:045-682-2000
10:00~17:00/窓口 11:00~19:00 休館日・保守点検日を除く

Web:横浜みなとみらいホールチケットセンターWEB
https://minatomirai.pia.jp/

■ 出演・プログラム 

第1部「春はいけにえ。秋はピアフェス。ー「儀式」の再構築ー」【12:00開演】
和田華音(ピアノ)、川崎槙耶(ピアノ)
ストラヴィンスキー:春の祭典(ピアノ連弾版)

第2部「愛を捧ぐ」【14:00開演】
斎藤龍(ピアノ)、荒井章乃(ヴァイオリン)
リスト:イゾルデの愛の死
シューマン=リスト:献呈(愛の歌)
リスト:ラ・カンパネラ
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調

第3部「若き才能の旋律」【17:00開演】
古海行子(ピアノ)
ショパン:前奏曲 変ニ長調「雨だれ」Op.28-15
ラフマニノフ:前奏曲 ト短調 Op.23-5
シューベルト:幻想曲 ハ長調 「さすらい人」 D.760
ラヴェル:道化師の朝の歌

第4部「広がる色彩、フランスのエスプリ」【19:00開演】
黒岩航紀(ピアノ)、小川恭子(ヴァイオリン)、矢口里菜子(チェロ)
ドビュッシー :前奏曲第2集より「オンディーヌ」
ドビュッシー:前奏曲第1集より「アナカプリの丘」「西風の見たもの」
ラヴェル:ピアノ三重奏曲

公演詳細は、こちらをご覧ください。

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