
初雪
北海道。もう2月。辺りは一面、雪景色、銀世界。
そして僕はそれよりも、もっと前に初めての雪を見た。
秋のはじめ。落ち葉が落ちるかどうか迷い出した頃の朝方、僕は雪が降っているのをたしかに見た。
それは報道さえされなければ、SNSの#にも引っかからない。雪ではなく、雪虫だったのだろうか。
けれど確かに冷たく、触れては溶け、そのままいなくなってしまった。
次の日、友人に聞いたが、誰も信じてはくれなかった。
ほんの一瞬だけ降った雪。あれは一体何だったのだろうか?
しかしそれは、僕をどこか特別な気持ちにさせてくれた。
あるときそれを彼女にも話すと「私、もっと前に初雪見たよ」と言った。彼女は夏の終わりに見たらしい。
「あなたと映画に行った時の」
彼女は僕と同じサークルの仲間で、僕の話を信じたのは彼女だけだった。しかし僕は彼女の話を信じることができなかった。
彼女と映画に行ったのはその時が初めてだった。僕らは同好会なのかサークルなのかわからないような、一応「読書サークル」という名前のついたところに所属している。いつも部室には僕と彼女と男の先輩しかいなかった。たまに陽気な女の先輩が来て、嵐のように数分喋り尽くして、お菓子を置いて帰ってしまう。男の先輩はそんな時でも眠り続けていた。
そんな風に過ごしていたら、ある日、先輩がお菓子の代わりに映画のチケットを2枚持ってきた日があった。「私観ないから」と言って置いて行ったが、やはり先輩は眠ってばかりで、僕らは二人で行くことにした。
それは王道のサクセスストーリーで、上映時間の半分を超えた時点で映画の結末が見えていた。つまりあまり面白くはなくて、それは彼女も同じようだった。僕たちはどちらともなく眠ってしまった。
「雨でも降ればよかったのにね」
映画の最後は快晴だった。
ふと「ショーシャンクの空に」を思い出し、きっと彼女もそういうことを言いたいのだろうと思った。
だから僕たちの世界はいつでも快晴で、秋に雪が降ったりするんだろう。