ファミリー #14
「だって、それは何かがテルハに伝えようとしているから。」
「そっか。」
僕は全く意味がない夢だと思っていた。それどころか、その夢を見たあとは無力感に包まれて、早く今日を終わりたいとすら思った。「わたし実は、死なない気がしているんだよ。」
レインは、子供の頃に戻ったみたいににっこりと笑った。
「どうして?」
僕は尋ねた。そして、それにはとても勇気が要ることだった。
レインはしばらく答えないで、じっと僕の顔をのぞき込んだ。僕は目をそらさないでそのままレインの目を見た。
雨のしずくのような、細くて、目尻に向けて丸い曲線を描く二重の目。それは、いつ見てもきれいで、二重の曲線が自然に生まれたものだと思うと、それがいつか消えてしまうのがもったいないと思った。
レインはそのまま台所から出た。そして、部屋の明かりを完全に消した。僕の目は急に暗闇に覆われ、何も見えなくなった。
そして、天井一面に小さな白いつぶつぶがちりばめられた。今はもう、あまり使われなくなったプラネタリウムだった。 僕らはしばらく立って、それを見ていた。目が慣れてきた頃には、レインが床に座って、それから横になった。僕は、その隣に横になった。
僕がはじめてこの家に来たとき、小さな僕をみんながこうやって寝かしつけてくれた。そして、アカリさんも、こうやって星をみて、何か物語を聞かせてくれたと思う。それは確か、外国の話で、外国ではたとえ自分の食べ物でも、隣に座った人になら遠慮なくあげてしまうという話だった。
アカリさんも、その国に行ったのかな。僕は懐かしい気持ちで、そんな風に考えてみた。「ねえ、昔の人たちは植物みたいに、自分の体の中で遺伝子を混ざり合わせて、子供を産んでたの。知ってる?」
レインが暗闇を波立てないようにそっと、言った。
「知ってる。」
僕は、うなずく代わりに、そっと返事をした。
「その子たちは、何十年も生きられる強い体を持っていて、そして、またその子たちが子供を産むの。」
「うん」
「今はもう、わたしたちにはその不思議な力は残っていないみたい。」
「うん。」
「でもね、わたし」
レインの手と僕の手がすこし触れる。
「わたしたちだって、言葉を混ぜ合わせて、そして、新しい自分を作ってる。だから、わたしはもっと、もっと生きられると思う。そうだと思う。」
レインは、もう片方の手で目を覆うように、涙を拭いた。
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