『鯨』との邂逅

 アイリは、机に座るでもなく、床に座るのでもなく、歩いていた。アイリッシュ通りの噴水は、いつも通り水を放っていた。『鯨』をかたどったこの町でできた最初の噴水。  
 歴史の教科書で、この街の人たちはみんな学ぶ。歩いていて思う。それは向こうからやってきて、とてつもない質量ではない存在であって、空気のように見えない。
 アイリはその衝撃にうろたえたのか、噴水の淵に座って、空をぼんやりと眺めた。それは、水平方向からでも、垂直方向からでもなくやってきて、言葉で言うのが許されるのなら、斜めの斜めからアイリのこめかみのあたりで邂逅した。
 それは前から知っていたものだったのだ。そして、この世界のこの時間、この空間にも現れた。
 鯨が海面から顔を出し、呼吸をする夢を見た。
 アイリは『太初の鯨』から次のような文字列を発見した。

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