ファミリー #7

 僕が最後の吹き出しを消すと、窓を見ていた作業員たちがぞろぞろと動き出して、細長い部屋の出口にむかう。僕も、作業をやめグラスを外し、壁に掛けて廊下に出る。
 廊下にも長い窓があり、そこからは人々が服を脱いで次々に、それぞれの肌を見せているエリアになる。僕はまたその鮮やかで優しい色を見て、反対に感覚が少しずつ麻痺していくのを感じる。
 なかなか服を脱がない人がいると、エミルが指さしをして、指摘をする。すると、窓の向こうで黒い円盤状のロボットが床を這って出てくる。ロボットは素早く二本の半円型のアームを閉じ、その人の足をつかんで無理矢理移動させる。人は両足を掴まれ、服を着たままロボットの胴体の上に尻餅をついて座った姿勢のまま隣の部屋に移動させられる。
 服を脱いだ人は、次々とコンテナに服を投入して、浴室に向かっていく。廊下の長い窓の端には、服が山積みになったコンテナを取り入れるためのドアが開いていて、そこからどんどんコンテナが加熱殺菌されて、廊下に入ってくる。
 僕らはそれを探知棒で、服以外のものが入っていないか確かめる。たまに、身を捨てて体ごとコンテナに飛び込んでくるやつがいる、と仕事を教えてくれた人が言っていた。
 その人は、まさに自分がそうして最後の抵抗をしてコンテナの中で蒸し返されて、入っていた服も、自分の体も台無しにしてしまった。
 すべてのコンテナの点検が終わり、浴室の点検に移る。僕らはコンテナが並ぶ蒸し暑い廊下から、エレベーターに乗ってまた高いところに上る。
 エレベーターのドアが閉まると、作業員たちも汗で少し匂ってくる。近くにいるエミルの匂いもなんとなく感じられる。エミルを見たら、肘を僕の脇腹に突き刺してきた。
 最上階に到着し、ガラスのドアを開けると、高いパイプが張り巡らされたアーチ状のドームが見え、その下に巨大な緑色の湯が張られた浴槽にぷかぷかと人が浮いている。
 僕らは、ドームの四隅の中空に設置された監視用の通路から人々が、湯浴みしている様子を眺める。僕は、ライラやアンドを探したが、この高さからは、どうしても小さな粒のようにしか見えない。
 そして、湯の中に入っていった人は、だんだん動かなくなり、そしてキラキラと白く輝きだし、最後には湯の上に光る油のようなキラキラとした液体になって溶けていく。
 なかなか動かない人は、さっきの黒い地を這うロボットが足をつかんで、湯船に運んでいく。そして、湯船の中でも服を着たままロボットに掴まれて、溶けていく。最後には、服だけがぷかぷかと浮かんで、ロボットと一緒に入る人用の細い湯船にたまっていく。
 僕らはぐるぐると広い湯船を見下ろす足場を回って、人が全部溶けていくのを待つ。そして、いつの間にか、湯船に浸かっている人たちがいなくなる。

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