ファミリー #11
森を歩いていたら、いつまで歩いても景色が変わらない暗闇になってしまった。僕らは叫んで泣きながら、前に進もうとする。
僕は目の前の暗闇を、こぶしで叩いた。ガラスのような固い感触がある。どれだけ叩いても、びくともしなかった。そして暗闇ではなく、固い何か狭い空間に自分が閉じ込められていくのを感じた。両手で壁を押そうとしてもついには、押すこともできないほど壁は僕を圧迫していた。
手を離したらレインが闇の中でどこかに消えてしまった。
探そうとして目を開けたら、僕は車の中で目を覚ました。
固い窓に頭を押し当てて、僕は眠っていた。背中には汗がぐっしょりとしみていて、座り直そうとすると、下着がべったりと夢精でぬれていて冷たく張り付いていた。
僕はピンク色の夕焼けの窓の外を見ていた。隣の車線には、僕と同じように帰ってくる車が並んでいる。ある車が窓を開けていた。仕事帰りの爽やかな笑顔が、乗っている人たちから見えた。
家では、イナモが一人、コーヒーを飲んで待っていた。家で仕事をするイナモは、いつもコーヒーを飲んで、本を読みながら、仕事に出かけていった僕らを待っている。
「夕焼けがきれいだよ」
イナモが自分の椅子にきっちり背を正して、窓の外を見ている。
「うん。僕も見た。」
「空全体がピンクだ。どうしちゃったんだろう。」
「うん。」
僕らは、椅子に座って窓の外を見ていた。イナモとは、対話の時間にはよく問いを交換し合うけど、こうして何かを一緒に見ている時には、特に疑問が浮かんでこない。
きっとイナモの中には、たくさんの不思議なことが、素直に浮かんできては、心の奥にたまっているんだろう。
「春だなぁ」
僕はつぶやこうとして、考えているイナモを邪魔しないように黙っていた。
それから、ドアが開いて、モクと、サマー、レインがやってきた。
レインは、ドアを開けて最初に僕を見て、それから「ただいま」と言った。僕は「おかえり」と言った。
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