ファミリー #8
僕らは、見回りながら入り口に集合する。僕らを確認するとリーダーのポムが、壁のハッチを開け、大きな赤いボタンをあらわにする。そして、拳でそれを叩くとドームの中に大きな音で、学校の給食の時間が終わったようなのどかなベルが鳴り響き、浴槽の水が一斉にぐらぐらと揺れ出す。
そして、水が引いたのを確認すると、僕らはエレベーターで浴場に降り、ブラシを持って床や浴槽を掃除し始める。
つるつるのタイルの上を黒いロボットが這い回り掃除を手伝ってくれる。僕らの仕事はもっぱら重い水がしみた服をコンテナに入れ、選択したり、金属製のアクセサリや、人工内耳、人工関節、人工筋肉をほうきで掃いて集めることだ。
僕はしなくてもいいのに、浴槽の底をブラシでこすってつやつやにするのが好きなので、それに夢中になっていた。エミルがときどき、見回りに来る。そのときにはみんなが見逃しやすい小さなリングやピアスをポケットから取り出して見せる。
そうして、仕事を終えると、僕らは、浄化水をシャワーで落として、裸になりシャワーを浴びる。シャワー室から出ると、更衣室の2番のロッカーに最初に脱いだ僕の服が入っている。
入り口の更衣室と、仕事終わりの更衣室は別で、入り口で脱いだロッカーの中身が仕事終わりに合わせて移動されている。そういう仕組みだから、途中でやめたくなった時にどっちに行けばいいのかわからない。
更衣室から出ると、細い廊下の一番奥にある窓から、少し傾いた日差しが僕らを照らしていた。みんなは次々と出口に向かう。ガラス張りのドアの横には掲示板が張ってあり、「明日も通常業務。金曜日はフリーマーケット」と表示されている。
みんなは首を曲げてそれを一瞥すると、僕らを待っている自動運転車に吸い込まれていく。僕はゆっくり歩いて、ただ広い平らな床に、車が整列されている様子を確かめて、どれか適当なものに乗る。どれに乗っても僕の家に着くから、みんなが迷わずに乗っていった中からぽつんと残っている車に乗る。
車の横に立つと、つなぎ目のない卵型のドームに、きれいな角丸の長方形の切れ込みが入り、ゆっくりと皮が剥がれるようにその部分が倒れて、地面につく。中の白い空洞に足場になったドアを踏みながら身をかがめて入り込む。
中は温かく柔らかい空気が閉じ込められていて、僕は目を閉じる。
重い体は、一体となって僕を包み込み、意識がもうろうとしてくる。僕の中で誰かが話し始める。僕は、夢を見ていることに気がつく。
「ねえ、体が溶ける時って、気持ちがいいのかなぁ。でも、人生の最後なんだし、きっと気持ちがいいはずだよ。」
レインは、気持ちがいいという言葉を、どこか後ろめたいもの、まだ考えている途中で受け入れがたい、という意味も込めて、何度も繰り返す。
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