ファミリー #3
僕、イナモ、サマー、モク、レイン。みんなそれぞれ違う形の椅子を円に並べて対話をする。それぞれ違う形の椅子はモクが作った。最初はみんなの人柄をイメージしてデザインしたといっていたけど、円に座るから毎日なんとなく座りたい椅子に座って対話が始まる。 僕をイメージした椅子は、木の葉のような曲線のプラスチックに木の枝を組み合わせた銀色の足がついている。
「テルハだから、お日様に照らされてつやつやした葉っぱをイメージしたよ」
モクは僕がこの家にやってくるその日に3Dプリンタを使ってその場でデザインしてしまった。そのときのモクも、緑色のパーカーを着てぽっこりとしたおなかの上に、お菓子の屑を散らしていた。
部屋に戻って、今日はどうやって眠れるのかなと僕は考えていた。眠くもないのにベッドに入ると余計に眠れない。部屋の机に座って僕は、ノートを開いてさっきの対話で聞こえてきた言葉を書き続けていた。
ドアをノックする音に僕は顔を上げて、ドアを開ける。レインが目をぽっかり開けてドアの前に立っていた。その目には不安の黒さが宿っていた。けれども体は元気そうに力んでいて、そのまま力を顔に押し上げるようにして笑った。けれども、その力は不安になった目までは届かないようだった。
「死ぬことを考えた。」
レインはぼつりと言った。
「どこにも逃げられないから、テルハの部屋に来た。」
「そっか。」
僕はノートを閉じて、立ち上がった。二人で暗い廊下を戻って、さっき対話していたリビングに戻った。五つの椅子がわっかに並べられたままだった。脇に寄せられた食卓を二人で運んで、椅子の中央に戻した。
それから、キッチンに行って、カウンターに乗せられているポットに水を入れてお湯を沸かした。
こういうときはお湯を飲むのがいい。僕はなんとなくどこにも逃げられない気がした時は、そうすることにしている。寝室にいると一人だという気がするから、みんながいるリビングに戻って、安心する。
お湯はぐらぐらと沸騰してリビングの中に煮え立つ泡の音を響かせた。それから煮え立ったお湯が静かになるまでレインと二人でキッチンに立っていた。
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