編入体験記 筑波大学理工学群社会工学類
はじめまして、国立高専5年機械工学科のmmと申します。今年の7月に行われた筑波大学理工学群社会工学類の編入学試験に合格したため、その時のことについて書き記したいと思います。
1. スペックについて
1~4年時の定期試験の順位です。
一年 11位(序盤は7位だったがバイトを始めて後半は急降下↓)
二年 15位(ブラック焼肉バイターになる)
三年 7位(編入したいと思い本腰を入れる)
四年 7位(どうせ一般で受けるからなあと適当に順位キープだけ)
ある程度勉強にモチベーションが持てたのは1年最初の定期テストで7位を取れたことにあると思います。その時の経験があったからこそ三年時に再び勉強に火を付けることができたのだと思います。なので、まだ1、2、3年生の方は、一度でいいのである程度いい順位をとっておくと後々勉強に関してメンタルを保てて良いと思います!(低学年のうちから編入記を読むような人がいるかはさておき...)
もう一つ編入試験に大きく関わってくることとしてTOEICがあります。TOEICスコアは次のようになりました。
3年1月 660(IPテスト)
~ウイルスの流行により9月まで試験が開催されなかった~
4年9月 850
4年1月 750(IPテスト)
三年の8月からバイトの隙間時間に英語の基礎の勉強を始めました(文法や単語)。10月頃からはTOEIC対策にチェンジしました。公式問題集などを用いてTOEICを研究しまくることをしました。勉強方法などは別のノートにまとめたいと思います。ここで言えることとしては次の4つのことです。
・やった分だけ基本的にスコアに出る!
・幅広く英語学習するのではなくTOEIC対策を中心に
・早めに良いスコアを取っておく(遅くとも受験する年の1,2月には取る)
・一度やめたらスコアは確実に下がる!
2.編入を考え始めた時期
一、二年は特になにも考えず帰宅部兼バイターをしておりました。そのころは
「しっかり五年で卒業して良い企業に就職したい!」と漠然と考えていました。
大きく変わった三年次
三年になって周りが大きく変わる出来事が起きました。それは仲の良かった友達から「大学に行くつもり」、「◯◯になりたい」ということを真剣に聞いたことです。このことがあってから自分の進路についてしっから考えるようになりました。そこで「自分は本当にエンジニアになりたいのだろうか」と考えはじめ就職から進学の道へ変えることを決めました。
具体的に考え始めた
それ以降は進学先について考えていました。まず考え始めたのは東京農工大学です。ここは、高専からの編入がしやすくさらに大学のレベルとしてもそこそこなのでちゃんと勉強すれば確実に受かるだろうと考えていました。しかし、三年の時から第一志望が農工大は低いなと考え、三年終わり頃は第一志望に大阪大学基礎工学部を考え始めました。
9月ごろには自粛期間も明け対面授業が始まりました。いつも通り専門の授業をぼーっと受けているとふと思いつきました。
「なんのために大学行くんだっけ」
この疑問に気づいてからより真剣に進路を考えるようになりました。エンジニアになるのかどうかをずっと自問自答していました。その結果、私はエンジニア以外の道を考え、
筑波大学理工学群社会工学類
九州大学経済学部経済工学科
この二校を受けることを考えました。筑波の方は4年の終わり頃に決めました。
(結論、九州は推薦だったので筑波は蹴ることになりました。九州の方もいずれノートにまとめたいと思います)
3.編入試験について
ここからが本題です。筑波大学理工学群社会工学類(略:筑波の社工)は
・筆記試験(数学のみ)
・TOEICスコア
・面接試験
この三つから総合的に判断されます。
・筆記試験(数学のみ)について
数学の出題範囲は微分積分・線形代数・確率統計で、大問は6つ、時間は120分です。
微分積分は主に2変数に関する問題ですが、かなり癖の強い1変数の問題も出されます。今年の問題が実際にそうで、置換積分とシグマの計算を絡ませたオリジナル問題が出題されていました。また、傾向としてはシグマに関わる問題は多いと思います。
線形代数が1番の肝です。他大学でも出されるような対角化や線形独立の問題はもちろん、ほとんどの高専生が習っていない線型写像や核、次元、ベクトル空間なども出されます。これらに傾向はないので可能な限り幅広く勉強しましょう。
確率統計は確率からも統計からも出題されます。傾向としては統計>>確率なので、古典的な確率は捨てても良いと思います。その分、統計は幅広く勉強しなけれなりません。高専の確率統計の教科書(黄色)には載ってないような問題(最尤推定、同時確率分布、チェビシェフの不等式など)が出されることは多々あります。別の参考書でしっかり補うことを勧めます。
これらのことをまとめます。
・微分積分は問題集の色々な問題を解く
傾向はシグマが絡んだ問題、ラグランジュの未定乗数法、二重積分、(区分求積法)
・線形代数は基礎をしっかり固める(発展問題のようなひらめきは不要)
傾向は行列化、対角化、線形独立、ベクトル空間、線型写像
・確率統計は出るところだけやれば良い
傾向は信頼区間、仮説と検定、チェビシェフの不等式
・面接試験について
面接時間は15分程度、受験者1人に対して面接官は3人でした。会場は2つあり、奇数番号と偶数番号で分かれました。また、順番は受験者番号順=願書を提出した順なので早めに出願する方が良いでしょう。質問内容を以下にまとめます。全てに通ずることとして自分の志望理由の深堀がメインです。雰囲気としては非常に和やかでした。
・志望理由を教えて下さい(ここから深堀)
・具体的にどのような社会問題を解決したいですか
・なぜその問題を解決しようと思いましたか
・どうすればその問題を解決しますか
・筆記試験についてです。感触はどうでしたか
・今後数学についてどうしていきたいと考えていますか
・TOEICについてです。スコアが高いようですがどう勉強しましたか
・入学後、英語をどのように勉強する予定ですか
・現在学んでいる機械工学とデータサイエンスはどう関係してくると思いますか
・データサイエンスの魅力を教えてください
・併願校はどこですか。また、両方受かった場合はどうされますか
最後の質問はもしかしたら合格する予定の人にだけする質問かもしれません。別の合格者もこの質問はされていました。
4.参考書
どの参考書を使うかは非常に重要です。ここに自分が使用して良かったものを挙げますが、あくまで一例ですので、自分で良いなと思っているものがあればそれをすることを薦めます。ただし、筑波の社工を受けるのであれば下に記載する確率統計の問題集は必ず解いた方がいいでしょう。
①編入数学徹底研究: 頻出問題と過去問題の演習
おすすめ度:★★★★☆
良い点
・最もオーソドックス
・幅広い分野をカバー
・例題(下に解答例)→類題といった初学者に優しい形式
悪い点
・例題と類題の難易度の差が大きい
・章末問題がレベチすぎて初見では解けない(解答例を見ながら解く事を薦める)
②編入数学過去問特訓: 入試問題による徹底演習
おすすめ度:★★★★★
良い点
・上同様幅広い分野をカバー
・問題が難易度分けされている
・簡単な大学から旧帝レベルのハイレベルなものまである
・基礎が固まってきたらずっとこの一冊だけで良いまである
悪い点
・まれに超難問が1、2個含まれる(解答例を見ながら解く事を薦める)
・特になし!
③演習 確率統計キャンパス・ゼミ (社工受けるなら必須!)
おすすめ度:★★★★★
良い点
・この一冊で教科書も兼ねている
・筑波の社工の確率統計の問題をほぼカバー
・例題(下に解答例付き)→類題(同じような難易度)という優しい形式
・解答(式変形など)が丁寧
悪い点
・解答(式変形など)が丁寧がゆえに少しくどく感じる時がある
④大学編入のための数学問題集
おすすめ度:★★★☆☆
良い点
・高専の教科書と対応
・そこそこ最近の問題が含まれている(はず)
・解答が最も丁寧(式変形などで飛躍しない)
・ベクトル空間の問題が豊富
悪い点
・良くも悪くも全体的に難易度低め
・ベクトル空間以外は編入数学シリーズと被りがち
オマケ
下に筑波の社工に対してはあまりやらなくて良かったと感じた参考書を載せておきます。
・マセマシリーズの教科書(微分積分、線形代数など)
理由:根本を知らなければ解けないような問題は筑波の社工では出ないため
基礎を理解するのであれば高専の教科書で十分だと感じたため
・大学編入試験問題 数学/徹底演習
理由:編入数学シリーズと被ってしまうため
5.勉強スケジュール
ここに自分がどのように勉強を進めてきたのかを記します。
3年夏~3年終わり
英語の基礎固めとTOEICに専念して勉強(この記事では触れません)
4年初め〜4年夏終わり
「①編入数学徹底研究: 頻出問題と過去問題の演習」を用いて数学の基礎固め
基礎固めというと聞こえがいいですが主に解答暗記です。置換積分、対角化、微分方程式(筑波の社工には出ません)などがまさに解答暗記に当たります。もちろん中身を理解することは大切ですが、序盤はとりあえず問題を解くことが非常に重要です。また、この問題集の章末問題は難易度が高く心が折れそうになるのでまだ触れるべきではないでしょう。
この時TOEICも並行して進めておりました。公式問題集を解いてもだいたい800は超えそうだったので余裕を持って9月の試験に臨め、850を取ることができました。
①編入数学徹底研究: 頻出問題と過去問題の演習
自力で解けるところを二周(主に例題)
4年9月~2月
「②編入数学過去問特訓: 入試問題による徹底演習」と「④大学編入のための数学問題集」のB問題C問題のような応用問題を解き始める
Cはやはりほぼ初見で解けることはなく、毎回解答例とにらめっこしていました。1、2月からは①の参考書の章末も触れるようになりました。余談ですが、9、10月は製図に追われており、ほぼ勉強できませんでした。勉強計画を立てる際は学校の行事や課題も考慮しましょう。
②編入数学過去問特訓: 入試問題による徹底演習
④大学編入のための数学問題集
どちらも初見で解けなかった問題を洗い出し、重点的に解く:三周程度
4年2月~3月終わり
2月頃に志望校に筑波の社工を決定、それによって今まで勉強していなかった確率統計を教科書から勉強
今までの微積や線形代数に平行して確率統計を進めました。春休み期間ということやTOEICを考えなくていいことから専念することができました。
高専の確率統計の教科書(黄色いやつ)を統計の演習中心に4周
5年4月~4月終わり
確率統計のさらなる基礎固めと復習
何度も何度も例題と演習を解き公式を完璧に暗記することを目的としました。微積と線形代数も過去問と照らし合わせながら出そうなところの復習を行いました。
高専の確率統計の教科書(黄色いやつ)を統計中心に演習し公式暗記
ブロック行列や区分求積法など公式を忘れかけていたところの復習
5月~7月(受験日)
「③演習 確率統計キャンパス・ゼミ (社工受けるなら必須!)」の周回
一つ上の合格された方にお話しを伺い「③演習 確率統計キャンパス・ゼミ (社工受けるなら必須!)」を始めました。ほとんどの時間をこの問題集に当てました。これにより過去問の問題はだいたい解けるようになりました。また、友達で数学科を受ける子の過去問を見せてもらい、微積、線形代数の難問を暇つぶしに解いたりしていました。
「③演習 確率統計キャンパス・ゼミ (社工受けるなら必須!)」を3~4周
6.試験内容と手応え
大問1:グラムシュミットの正規直交化を使った転置行列の対角化
手応え:予想通りというか編入数学の定石だったので完答できました。
大問2:射影行列に関する問題(※捨て問)
手応え:完全初見の問題でおそらく全受験生が解けていない問題です。(1)の
「Aをn次正方行列としたとき、det(tAA)が正則であることを示せ」のみ解けました。これもおそらく全受験生が(1)まで解いて、残りを捨てたでしょう。
大問3:ガンマ関数、置換積分、シグマ、マクローリン展開が絡んだ証明問題
手応え:(1)のガンマ関数の証明は問題集でやったことがあり、余裕で解けました。(2)以降の置換積分による証明やマクローリン展開による証明は、時間をかけることで解くことができました。人によっては(2)の計算量から捨て問とみなしたかもしれません。数学科の難問を解いていたこともあり、完答できました。
大問4:複雑な関数のラグランジュの未定乗数法
手応え:(1)は簡単な偏微分の問題、(2)はラグランジュの未定乗数法、(3)は陰関数の一階微分、二階微分、(4)は(2)(3)を用いて極小値を求める問題でした。(1)(3)は問題集をちゃんと解いていれば誰でも解けます。(2)も本来そうなのですが、候補点がGx=0,Gy=0を満たすことを知らず、解けませんでした。したがって(4)も解けませんでした。
大問5:いろいろな条件の信頼区間を求める問題
手応え:一番簡単な問題で公式を使うだけです。しかし、3~4桁の四則演算とルートの計算が必要であり、計算ミスが起きやすい問題です。有効数字のミスがあったので、(2)は途中点だと思います。
大問6:ポアソン分布の密度関数(※捨て問)
手応え:(1)は確率密度関数の導出、(2)は(1)の与式を用いた計算問題、(3)は条件が与えられており、その条件の確率密度関数の導出でした。この問題も完全初見で、(1)(3)は手付かず、(2)だけ解くことができました。
総評:全体の出来は6~7割程度です。正直かなり想定より難しかったです。というのも今年は明らかな捨て問が2題あったからでしょう。過去問ではほとんど無かったことです。もしかしたら、今年以降はそういった問題が出題されるのかもしれません。受験生の方は、問題を真っ先に解くのではなく、まずは全部の問題を眺めて、捨て問かどうかを判断することが必要だと思います。
7.まとめ
筑波の社工は筆記試験が数学だけなので、ある意味ハードルが低いです。しかし、東大や東工大の滑り止めとして使われ、倍率以上の難易度はあると思います。ただ、編入試験は基本的には定石となる問題が多いので、勉強量をこなせばあまり差は生まれないと思います。つまり早めに勉強に取り掛かることが大切です。計画性を持って、苦手な分野を無くすよう意識しましょう。
以上で私の体験記を終わります。何か質問等あれば、コメントしていただければ可能な限り答えます!
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