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さようなら、白いフェンダー。そして今、オールド・ラング・ザインを聴く。

突然だがベースを売り払ってしまった。あの、山田リョウとお揃いの白いフェンダーである。専門店で売ったわけではないので(〇ードオフ)、安く買い叩かれた。でも、もういいやと思った。それほど捨て鉢になっていた。

きっかけはまたも僕のYouTube配信である。
僕が「東大受験する」と言っていたことに対して、ああだこうだ言ってくる人が一定数いたのだ。

これは今にして思えば僕が「東大」という具体名を公言していたのがよくないと思う。「ふつうの人」なら、「できもしない目標を掲げやがって…」とやっかみの一つでも言いたくなるのだろう。だから、僕は黙って努力すればよかったのだ。

そのやっかみの言葉のいちいちをもう覚えていない。生配信の動画もすべて消してしまったので、誰が何を言ったのか、もうわからない。

僕はそこで自分を責めた。とにかく、勉強という大目標から逸れたことをやっていてはだめだと結論付けた。そして、ベースと配信機材一式を売り払うという行動を取ってしまった。そうして一連の行動を終えた後、僕は放心状態となり、結局、勉強も手につかないでいる。

本末転倒とはこのことだ。

「出る杭は打たれる」のか?

僕が東大受験を決意したのは生半可な思いからではない。僕はもう四十歳だ。しかし、与えられる仕事は本当につまらない、今風の言い方をすれば「ブルシット・ジョブ」ばかりだ。それから給与もあまりよくない。手当も賞与も、昇給も昇進もない。つまり、どれだけ頑張っても未来がないのである。これはおかしい。

「おかしい」と思っても、並大抵の努力では自分を変えることはできないだろう。だから思い切って高い目標を設定した。それが「東大受験」という目標を立てた真相である。勿論、「東大」の「その先」の目標がなければ意味がないので、一応そこまで考えてはいたが、これは言わないでおく。それこそ他人からすれば、「無理」と断じられてしまうような目標だからだ。

しかし、何も知らない他人が心無い言葉を浴びせていいほど、僕の目標は「途方もない」「突拍子もない」ものだったのだろうか。「出る杭を打っていい」、その程度のものだったのだろうか。

別にちやほやしてほしい意図があったわけではないが(いや…正直に言うと、少しそれで世の中に認めてほしかった思いがないではない)、「叩く」側からすれば、これは好都合とばかりに出ている「杭」にしかならなかったのは事実である。

山田リョウが味わった絶望を思う。

唐突だが、ぼっち・ざ・ろっく!の山田リョウの話に移る。

ぼっち・ざ・ろっく!を読んでいる方ならご存じだと思うが、山田リョウはかつて所属していた「ざ・はむきたす」の中で孤立し、やがてバンド脱退、バンドの解散という事態に至った。その時の山田リョウの落胆、絶望は凄まじく、音楽をやめることすら視野に入っていた。

人と違うことをする、「個」に目覚める、ということが、彼女の命脈を断ちかねない出来事にまで発展したのだ。これは、山田リョウ個人のことのみならず、この社会において普遍的なことのように思う。

彼女も「出る杭」だったのだ。僕もそうだ。

「いまここに、我が親友の手がある。いまここに、我らは手をとる。いま我らは、良き友情の杯を飲み干すのだ。古き昔のために。」

とはいえ、ベースを売ってしまったうしろめたさが攻めてきて、いよいよ山田リョウのファンを公言することは苦しくなってしまった。すなわち、MM Yamadaという名前を捨てることにした。

夕刻、うつろな目をしながらとある公園をふらついていた。そこでかかっていた、閉演間近を知らせる「蛍の光」を聴いて、僕は「ああ、人生も終わりそうな僕にふさわしい曲だな」と、この曲のタイトルをそのままハンドルネームに採用した。曇ヶ原というバンドの同名の曲が好きだった(「蛍の光」の旋律が大々的にフィーチャーされている)ので、即座にそれに決めたというのもある。

この曲はもとはスコットランド民謡の「オールド・ラング・サイン」または「~ザイン」という曲が原型であることは何となく知っていた。しかし、改めてこの曲の原曲というか、本来のスコットランド民謡にして準国歌としての演奏を聴くと、非常に感動的で、雄渾で、生きることを鼓舞してくれるような力強さに溢れていることを知らされた。後で知ったことだが、この曲は、現地ではめでたい席で歌われるのが普通のようで、クリスマスや年越しで流れることが多いらしい。

何の運命か、何かが改まるときに歌う曲を僕は我が名前として選んだのだ。
失っても、また歩き出せばいいのだ。

今すぐにはベースを買い戻す気にはなれないが(金銭的にも)、いずれ楽器は始めようと思う。その時にはきくり姐さんのベース(「スーパーウルトラ酒吞童子EX」)にでもしようかな(あぁ、でももう売ってないのか…)。

あ、ちなみに「蛍の光」こと「オールド・ラング・ザイン」は、エヴァのボツ曲集に入っているバージョンが好きです。途中シベリウスの1番の冒頭っぽくなるのが面白いです。


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