魔法少女★ミソラドエジソン ②
ご一読ください。
この作品は個人的に作られた非公式ファンフィクションです。ミソラドエジソンを題材にしておりますが実在の人物や団体様などとは一切関係ありません。
本作の無断転載等は何卒ご遠慮願います。
魔法少女★ミソラドエジソン ②
黒を基調にそれぞれ青、黄、紫、赤の差し色が入った舞台衣装のような服をまとう彼女たち。大きな瞳がまっすぐにこちらに向けられる。
「ヤミを葬り」
「人のココロを救うため」
「ミソラの世界から遣わされた」
「魔法少女(マジックアイドルガールズ)」
『私たちミソラドエジソンです!』
青銀の髪を2つに結んだ女の子から始まり、艶やかな黒髪に眼鏡をかけた女の子、紫とオレンジのツートンカラーが鮮やかな女の子、短く整えた髪を黒と赤でバランスよく配色している女の子が順に言い、最後は声をそろえて言い放つ。
「ヤミにその子は渡さないわ!」
赤髪の女の子の手の中に、突如として無数のトゲを持つ荊のムチが現れた。つるバラを思わせる細い縄部分には、ところどころ小さなバラの花が咲く。
言うが早いか少女のほうへ駆け出し、グリップを握る手首を返すように振り落とす。放たれたムチはまっすぐに怪物目がけてしなり、少女を掴む黒い手を激しく打ち付けた。
弾かれた衝撃で少女からその手が離れる。
「こっちへ」
いつの間にそこへいたのか。小柄な黒髪の女の子がすかさず少女の手を引いて駆け出した。
「待テ!」
「ちょっと、よそ見しないで!」
少女を追おうとするのを青銀髪の女の子が阻止する。怪物の進行方向を塞ぐ手には先端に王冠の装飾がついたロッドが握られている。
白い柄に青色のオーガンジーでリボンが巻かれ、ダイヤ、サファイア、パールにトパーズと多種の宝石が飾られた豪奢な王冠。
彼女は距離を保ったまま、その杖の先端を怪物に向けて勢いよく一振りする。
その軌跡を追って粒子状の結晶が広がった。さながらダイヤモンドダスト。
幕のように煌めく光のつぶてによって怪物の視界が閉ざされる。
この結晶ひと粒ひと粒が魔力を帯びており、目くらましの役割以上に攻撃要素としての比重が大きい。直撃を受けた怪物は小さく呻いてよろいた。
「びび、ヤミをあっちに!」
ツートンカラーの長い髪の女の子が少女を逃がした逆方向を指差し、ビスクドールとも見紛う女の子に促す。
「オッケー!」
びびは踊るような身のこなしで跳躍するとヤミと呼ばれたそれをヒラリと飛び越える。
二人はそのまま走り出し、普通ではありえないほど大きなジャンプで建物の向こうへと行ってしまった。
「きさまラも邪魔ダ! 消してヤル!」
思わぬ攻撃を受けたことで怒りに駆られ、ヤミは禍々しい気配を増長させる。当初の目的である少女を後に回し、二人の女の子が消えた先に向かって行った。
―――――
少女は「なな」と名乗った女の子と共に裏路地に身を潜めていた。広い通りを外れた細いアーケードは上からも死角になり、隠れるには都合が良い。
路地を抜けた先の道に、モデルのようなスタイルの女の子の姿が見えてななは呼びかける。
「れいか」
ここだよと合図するように小さく手を振ると、すぐに気がつき小走りで駆け寄ってくる。
「ヤミは?」
「びびたちが応戦してるからこっちには気づいてない」
二人の会話に再び少女に恐怖が襲い来る。
おぞましい姿かたち、悪寒も走る声、あんな生き物は見たことがない。
鷲掴みにされた腕は温度を失ったように冷たく、今なお感覚が戻らず、透けて向こう側が見えてしまう状態だった。
とても立っていられなくなり少女はその場にしゃがみ込んだ。
底なしの井戸に落下していくような感覚に戦慄する。
「大丈夫?」
隣に座り、震える少女の肩に手を添えるなな。守るように、なだめるように、微かに笑いかける。
おかげで僅かに心が落ち着きを取り戻す。
「あれ…は……なに?」
やっと声を絞り出し、ずっと頭の中をかき乱していたその問いを口にする。
「あなたのココロから生まれた『ヤミ』よ」
れいかが答えた。
「私の……闇?」
れいかはななとは逆隣に腰を下ろし、周囲への警戒を緩めないまま続ける。
「人はふとした瞬間、自分の中のヤミにココロを支配されてしまうことがあるの」
いつもなら何でもないことなのに、
どうしようもなく傷ついたり、癪に障ってむしゃくしゃしたり、悪いようにしか考えることができなくてしまったり――……
元気を取り戻せず落ち込んだままになること、誰かを傷つけたり、自分を傷つけたり、
消えたいと考えて自分自身を放棄してしまうこともある。
「それはね、ココロのヤミのせい。
ヤミに支配されてしまった人は、本来の自分の意志ではない行動をとってしまう」
思い当たるところがあって少女は胸をつかれた。
ヤミというあの怪物が現れる直前のこと。
これまでにも経験のある、悲しみ、不安、憂い、胸が苦しいほどの孤独。
心が動いてくれないあの虚無感の正体は、己の中から生み出された「ヤミ」というものだったというのか。
そんな話はとても信じがたい。
けれど、心臓が縮み上がるほどの恐怖に震えるこの体が何よりの証拠だった。
深刻な面持ちでれいかが言葉を続けた。
「そして、感情を奪われ、喜びも悲しみも感じなくなってしまうことさえあるの」
悲痛の色を浮かべるその瞳は少女を映しながらも、その先の向こうにあるものを見つめている。
まるでいつかの過去を思い返すかのように。
ガシャン――ッ!!
突として頭上から降り注いだ衝撃音。
ガラガラと大きな音を立て、壊れたアーケードの破片が隣接する建物の前に落ちてくる。
音の先を見上げると、プラスチック片の合間を抜って舞い降りてくる女の子の姿があった。異素材の布地を組み合わせた黒と紫の段スカートが風にはためく。
彼女は筋肉と関節を柔軟に使い、見事に衝撃を吸収させて着地する。
相当な高さから降下してきたにも関わらず、その様はまるで猫のようだ。
スカートの裾にかかった細かな破片を払い落とすと少女に向き直って笑いかける。
「私たちはそんなココロのヤミからこの世界の人たちを救うために、並行世界からやってきた魔法少女なの」
「魔法少女……」
少女のこぼす一言にコクリと頷いてみせる。
「あなたのココロは私たちが守るよ」
③へ続く
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