「エースキラー」廣岡大志、ウルトラエースの大野雄大にまた襲い掛かる
「エースキラー」-1970年代に円谷プロダクションが生んだ、特撮怪獣ドラマの原点ともいえるウルトラマンシリーズ、「ウルトラマンA(エース)」に登場する超人の名前だ。
エースキラーは、世界征服をたくらむヤプール人が地球に送り込んだ刺客であり、地球を守るウルトラ兄弟たちからそれぞれの必殺技を奪って、逆に攻撃を仕掛ける、厄介な相手だった。
巨人・廣岡大志が敵地バンテリンドームでレフトスタンドに叩きこんだ一発は、今季、相手チームのエースを2度も粉砕したという点で、「エースキラー」ともいえる働きだった。
5月21日、バンテリンドームでの巨人対中日は、巨人先発が畠世周、中日先発が17日ぶりの先発となる大野雄大。
大野雄大は巨人打線から初回、三者三振を奪う立ち上がりを見せる。
2回は5番のジャスティン・スモークに四球を与えたが、続く6番の廣岡大志をセカンドゴロ併殺打に斬って取った。3回、4回も三者凡退。
一方、畠も4回2死から、ダヤン・ビシエド、高橋周平に二者連続安打でピンチを迎えたが、木下拓哉を三振に斬って取る。投手戦の様相である。
大野は5回、岡本和真、スモークをそれぞれライトフライに打ち取り、2死。
ここまで四球一つだけでノーヒット。ここで廣岡大志を右打席に迎えた。
坂本勇人がケガで離脱して8試合目にして、廣岡は初めて遊撃手でスタメン起用された。
4月25日の広島戦以来、17試合ぶりのスタメンである。
巨人は坂本勇人が離脱したといえども、廣岡にとって内野手のレギュラー争いは楽なものではない。ここまでの7試合は、吉川尚輝が5試合、若林が2試合、遊撃手のスタメンを占めていた。
大野は廣岡に対する初球、ツーシームを選択した。しかし、これが真ん中に入る。廣岡のバットはそれを逃さず捕えると、打球は高々と左中間スタンドへ。均衡を破る先制点は、この日、久々にスタメン起用された男がもたらした。
その瞬間、大野はマウンド上で両手を膝に当て、文字通り、肩を落とした。
一方の廣岡は「追い込まれると厳しい投手なので、その前の甘い球をしっかり1発で仕留められるようにと思って打席に入った。いい手応えでした」と振り返った。
時を戻せば、4月13日、東京ドームでの巨人対中日戦、この日は巨人がサンチェス、中日は大野雄大のマッチアップだった。大野は今季2度目の巨人戦のマウンドとなったが、前回の3月30日も、サンチェスと投げ合いとなり、7回2失点で、勝ち負けはつかなかった。
大野は初回、梶谷隆幸のタイムリーで先制され、苦しい立ち上がり。
しかし、それ以降、立ち直って、2回、3回に1本づつヒットを許すが、無失点。
4回、5回、6回は三者凡退。7回も2死を取り、7番の廣岡大志を迎えた。
廣岡は開幕一軍を逃したが、チーム内での新型コロナウィルス感染の蔓延により、一軍昇格を果たし、4月1日の中日戦で移籍後初となるスタメン、「8番・セカンド」で起用された。この日は、「7番・ファースト」で今季4度目、1週間ぶりに先発ラインナップに名を連ねた。とはいえ、ここまで打率.182、ホームランはゼロ。
廣岡は大野に対し、サードゴロ、ショートゴロと2打席凡退。
大野がここまでに巨人打線に許したヒットは4本だけだった。
重苦しい展開の中、大野の投球数は100球を数え、廣岡との3度目の対戦。
大野が廣岡に投じた初球、147キロのストレートは外角高めへ。廣岡はスイングしたがファウル。続く2球目はストレートが内角高めに外れてボール。3球目は外角低めに134キロのフォーク、廣岡は見送ったがゾーンに決まりツーストライク。廣岡は1-2と追い込まれた。
4球目、大野が投じた外角の146キロストレート。廣岡は強振した。廣岡のリーチが伸びて、捕えた打球はライトスタンドへ。廣岡はダイヤモンドを一周しながら、右手を突き上げた。巨人のユニフォームを着て、公式戦では初となるアーチは大野から勝ち越しを奪う一打となった。
これが決勝点となり、巨人は大野に土をつけた。
大野は試合後、「一番やっちゃいけないこと。本塁打を打たれるような球を投げてしまった。外の真っすぐでいいと思ったし、木下拓も一発でサインを出した。ただ本塁打を打たれてる。『ほんまにそれで良かったの?』というところ。一発の可能性のある広岡選手。長打力もある。他に選択肢なかったのか考えた時にバッテリーで反省しないと」と口にした。
それから1か月後、廣岡が放った2本目のアーチは、東京ドームとバンテリンドーム、ライトスタンド越えとレフトスタンド越え、勝ち越し打と同点打と、状況は異なるが、同じ点は、前の打者が10人以上、無安打で廻ってきた、二死走者なしの場面での打席であること、そして投手がエース大野雄大である、ということだ。
つまり、廣岡には「ゲームチェンジャー」としての素養があるということだ。
廣岡に手痛い一発を食らった後、いつもクールで、時折り、不敵な笑みさえ浮かべているように見える大野の表情にいつもとは違う、悔しさと後悔がにじんでいた。押し殺そうとしても抑えきれない。
打たれてはいけない場面での一発。しかも、1か月前と同じ相手。
大野は続く、吉川尚輝にフェンス直撃の二塁打を浴びたが、後続は抑えた。
巨人先発の畠世周も7回1死まで無失点できたものの、代打・根尾昴、大島洋平の連続長打で1点を失って降板した。一方、大野は7回まで投げ切った。7回、廣岡との3回目の対戦ではこの日、見逃し三振(6個目)を奪って、自身、通算1000奪三振(史上152人目)に到達したのが、せめてもの雪辱だった。7回、被安打3、6奪三振、2四球、1失点。
この日は1-1でドローとなった。中日にとって今季早くも7つ目の引き分け。大野は先発としての役目は十分に果たしたが、それでもエースを自覚する本人にとっては「あの一発が、しかも同じ相手に」という考えがしばらく頭を離れなくなるような、苦い復帰戦となったに違いない。
大野雄大がドラゴンズの押しも押されもせぬ真のエースとなって3年目。
30歳を迎える2018年のシーズンはルーキー以来となる0勝だった。2019年は好投しながらも勝ちに恵まれない登板があったが、先発した23試合で6回以下でマウンドを降りたことはわずかに3度。9月14日には自身初のノーヒットノーラン、勝ち星は9勝と二桁勝利には届かなかったものの、最終登板で防御率2.58とし、それまでリーグトップだったクリス・ジョンソン(広島)をかわし、見事、最優秀防御率のタイトルを掴み取った。
2020年、大野はコロナ禍で遅れた開幕戦で、開幕投手を務めた。しかし、なかなか調子が上がらず、調子が上がってくると、今度は少ない失点抑えても勝ち星がつかないという悪循環。初勝利は先発7試合目の7月31日。
しかし、そこから球団タイ記録の5試合連続完投勝利、また、9月22日から10月22日まで、球団記録となる45イニング連続無失点、うち4完封と無双ぶりを発揮し、2年連続で防御率1点台となる、防御率1.82で最優秀防御率のタイトルを獲得、2015年以来となる4度目の二桁勝利もマークした。
大野は10完投、6完封が大きく評価され、開幕投手から13連勝の菅野智之(巨人)を破って、自身初の沢村賞も受賞した。
大野は2019年以降、この試合を含み52試合に先発し、打者1442人と対戦し、被本塁打は38本。
2019年には1試合に4発のホームランを浴びたことが1度(ソフトバンク戦)、1試合3発の被弾は2度(DeNA戦、広島戦)あるが、2020年は1試合2発を2度、経験しているのみ。
大野は2019年以降、この試合前まで同じ打者に2度、被弾したのは4人おり、廣岡より前は、菊池涼介(広島)、山田哲人(ヤクルト)、鈴木誠也(広島)、ソト(DeNA)。どれも一流の右打者ばかりだが、同じ打者にシーズン2本以上、ホームランを打たれたのは、2020年の鈴木誠也(6月26日、9月15日)に次いで、廣岡が2人目である。
それをもって、廣岡大志が「伏兵」だと言いたいのではない。むしろ逆である。日本を代表するエースになった大野から2本もスタンドインさせた他の野手の顔ぶれを見れば、まだ22歳の廣岡の長距離打者としてのポテンシャルが伺い知れるということが言いたいのである。
同世代(1997年4月~1998年3月)の高卒入団には、平沢大河(ロッテ)、オコエ瑠偉(楽天)、愛斗(西武)、らがいるが、同世代ではダントツトップとなる通算23本塁打。
巨人・原監督は、シーズン開幕直前に、実績ある左腕の田口麗斗を手放してまで獲得に乗り出しただけはある。
廣岡は去年まで大野と対戦して通算10打数2安打、5三振、本塁打はゼロ。それが今季は2試合で6打数2安打、2本塁打。これだけを以って、大野キラーと言ってよいかはわからない。
だが、自信にしていい。
これから頻繁に廣岡大志の名前が先発ラインナップに並ぶはずである。
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