平良海馬(西武)、開幕から29試合連続無失点、NPB記録まであと2

西武ライオンズの右腕、平良海馬が6月5日、交流戦の東京ヤクルトスワローズ戦(神宮球場)で9回に登板、1イニングを無失点に抑え、今季4セーブ目を挙げると、シーズン開幕から29試合連続で無失点という記録を更新した。

昨年、パ・リーグの新人王を受賞した平良は、プロ3年目となる今季も開幕からセットアッパーとして危なげない投球を続けてきたが、守護神の増田達至が不調により、5月29日の阪神戦(メットライフドーム)からは平良が本格的にクローザーを務めることになった。そこから4試合連続で最終回のマウンドを任されている。
平良は3月26日の開幕戦に登板してから登板する度に、無失点に抑えてマウンドを降りてきた。
本拠地・メットライフドームでは、オーストラリア出身の伝説的なロックバンド、AC/DCの"Are You Ready?"が流れると、平良がマウンドに上がる合図である。

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それでは、過去、シーズン開幕から無失点を続けてきたのはどんな投手たちであろうか。

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佐々木主浩(横浜ベイスターズ、1998年)

シーズン開幕からの連続試合無失点のNPB記録は、長らく、1998年に横浜ベイスターズの佐々木主浩がつくった24試合連続無失点記録が最長であった。
佐々木主浩は東北福祉大学から1989年に横浜大洋ホエールズにドラフト1位指名され入団すると、プロ2年目の1991年から本格的にリリーフに転向、前年1997年まで3年連続で最優秀救援投手のタイトルを獲得するなど、通算165セーブを挙げており、球界を代表するクローザーにのし上がった。
しかも、この年、佐々木は6月30日の広島戦(横浜)を1回無失点に抑え、23セーブ目を挙げると、前年1997年から36試合連続無失点(当時、NPB歴代2位)、そして、4月26日のヤクルト戦(横浜スタジアム)から22試合連続セーブという記録を更新した。
佐々木は次の登板となった7月7日、大阪ドームでの対阪神戦、1-0のリードで迎えた9回裏、セーブ機会にマウンドに上がった。
この試合、横浜の先発の三浦大輔と阪神の先発の川尻哲郎が投げ合う投手戦で、三浦は8回まで被安打5、無失点に抑え、川尻も8回、被安打10ながら1失点に抑えていた。

佐々木は9回、先頭の3番・桧山進次郎をファーストゴロに抑えたが、続く4番・平塚克洋に左中間に二塁打を打たれた(平塚はこのシーズン、佐々木と対戦して3打数3安打)。5番・デーブ・ハンセンの代打・八木裕を空振り三振に打ち取ったが、6番・和田豊にフルカウントから四球を与えてしまう。2死一、二塁で迎えたのは、東北福祉大学の後輩である捕手の矢野輝弘(現・矢野燿大、阪神監督)。佐々木が1ストライクから投じた2球目のストレートを矢野は強振すると、前進守備のセンター波留敏夫の頭上を越え、外野フェンスまで届く打球となり、二塁走者の代走の平尾博司だけでなく、一塁走者の和田も本塁に還った。この瞬間、矢野のサヨナラタイムリー二塁打で、佐々木の大記録はストップした。同時に、佐々木はNPB記録である連続試合セーブも「22」でストップ。
奇しくも、この日は佐々木の父親の1周忌であった。
佐々木の無失点記録中の成績は以下の通りである。
 24試合 26回、被安打15、与四球4、36奪三振、23セーブ
しかし、佐々木はこのシーズン、セーブ失敗はこの日の1度だけで、54試合に登板して防御率0.64、当時、NPB記録となる44セーブを挙げ、4年連続となる最優秀救援投手のタイトルと共に、ベイスターズの38年ぶりリーグ優勝と日本一に貢献した。

山口鉄也(読売ジャイアンツ、2012年)

佐々木主浩の記録に14年ぶりに並んだのが、2012年の巨人の山口鉄也である。
左腕の山口鉄也は神奈川県横浜出身で、地元の横浜商業卒業後、米国球界を経て、2005年に育成選手として巨人に入団、2008年には育成選手初の新人王を受賞、2009年には最優秀中継ぎ投手のタイトルを獲得するなど、リーグを代表するセットアッパーに成長し、2008年からは4年連続で60試合以上登板し、その間、通算105ホールドを挙げる鉄腕ぶりを発揮した。
プロ7年目を迎えた2021年、3月31日の今季初登板から登板する度に無失点に抑え、6月3日、オリックス戦(京セラドーム)で8回に登板、1回を無失点に抑え、山口が幼少時代から憧れていた地元・横浜のヒーローである佐々木主浩の持つ開幕から24試合連続無失点に並んだ。
山口は続く、6月5日のソフトバンク戦(福岡ヤフオクドーム)、5-0の5点リードの9回に登板したが、1死を取った後、明石健志にソロホームランを浴び、佐々木を超える記録更新とはならなかった。
この間、山口の記録は以下の通りである。
 24試合 22回 被安打10、与四球2、22奪三振 1セーブ 14ホールド
イニング数や奪三振の数は佐々木に及ばないが、安打や与四死球で出した走者は、山口のほうが少なかった。

山口鉄也はこの年、リーグトップの72試合に登板し、そのうち失点した試合は7試合のみ、1試合で2失点以上は皆無で、防御率0.84。NPB史上初の5年連続60試合以上登板を果たすと、リーグトップの44ホールドを挙げ、自身2度目の最優秀中継ぎ投手となり、巨人の3年ぶりのリーグ優勝、日本ハムとの日本シリーズでは胴上げ投手となって日本一に貢献した。

岡島秀樹(ソフトバンク、2012年)

同じ年、佐々木と山口の記録に挑んだのが、この年、米国球界からNPBに復帰した左腕、ソフトバンクの岡島秀樹である。
MLB・ボストン・レッドソックスで松坂大輔と共にワールドシリーズ制覇と、クローザーも経験した岡島は4月4日に楽天戦(Koboスタジアム宮城)NPB復帰登板を果たし、無失点に抑えると、そこから1点も奪われず、6月17日のDeNA戦(福岡ヤフオクドーム)で、佐々木と山口の持つ開幕から24試合連続無失点のNPB記録に並んだ。
岡島は続く登板となった6月22日の日本ハム戦(福岡ヤフオクドーム)も1回を無失点に抑え、NPB新記録を更新した。
続く6月26日のオリックス戦(福岡ヤフオクドーム)でも無失点に抑えて、記録を「26」に伸ばしたが、6月28日のオリックス戦(福岡ヤフオクドーム)、1-1で迎えた8回表、2死一、二塁のピンチで3番手として登板すると、5番のT-岡田にレフトへのタイムリー安打を浴び、レフトの内川聖一の悪送球とショート・今宮の走塁妨害で一塁走者までホームイン。T-岡田が二塁まで進み、2死二塁となったところで、続く、6番・バルディリスにセンター前に運ばれ、岡島の責任走者である二塁走者・代走の梶本勇介が還り、岡島はついにNPB復帰以来、初となる失点を許した(自責点はつかず)。
しかし、ここから岡島はさらに20試合連続で無失点を続け、結局、しかも17イニングを投げて、被安打5、無四球という驚異的な結果を残した。

8月30日のオリックス戦(福岡ヤフオクドーム)、1-1の同点で迎えた9回表、岡島は3番手として登板したが、赤田将吾と安達了一のヒットで一死一、三塁のピンチを招く。続く、代打・梶本勇介に決勝打となるライト前ヒットを打たれ、三塁走者の赤田が本塁に生還。ここで岡島の「開幕から46連続試合自責点ゼロ」と言う大記録もストップしてしまった。続く川端崇義にもタイムリーを許し、後藤光尊のスクイズなどで、被安打4で一気に自責点3。岡島はNPB復帰初の黒星を喫した。
その後、岡島は7試合連続無失点を記録した後、9月24日の楽天戦(Koboスタジアム宮城)では9回、松井稼頭央にサヨナラ2ランホームランを被弾した(岡島はレッドソックス在籍時の2007年、コロラド・ロッキーズに在籍していた松井稼頭央と、ワールドシリーズで初めてとなる日本人対決をした)。
岡島は結局、この年、56試合の登板で0勝2敗9セーブ、24ホールドを挙げ、自責点を記録したのはこの2試合のみ、47回2/3を投げて自責点5(失点6)、防御率0.94という驚異的な成績を残した。そのシーズンオフに、オークランド・アスレチックスと契約し、翌年2013年にMLBに1シーズンだけ復帰している(その後、2014年にソフトバンクに復帰、2015年にDeNAに移籍して、2016年に米国マイナーに復帰するがシーズン途中に現役引退)。

トニー・バーネット(東京ヤクルトスワローズ、2015年)

2015年、ヤクルトのトニー・バーネットがこの記録に挑んだ。外国人助っ人右腕のバーネットは2010年に来日、ヤクルトに入団すると、先発では結果を残せなかったが、翌2011年にセットアッパーに転向、6月から8月にかけて、23試合連続無失点を記録して22ホールドを挙げると、2012年には33セーブを挙げ、最優秀救援投手のタイトルを獲得した。
来日6年目となった2015年、3月27日の広島カープとの開幕戦(マツダスタジアム)、延長10回から2回を無失点で抑え、勝利投手になると、ここから記録がスタートし、6月6日のロッテとの交流戦(神宮)、9-4でリードした9回に登板して、無失点に抑え、開幕から23試合連続無失点を記録し、佐々木と山口の持つセ・リーグ記録に王手を懸けた。
翌6月7日、ロッテ戦で前日に続き8-3の5点リードの9回に登板したが、三塁・川端慎吾の失策も絡み、1死満塁のピンチ。ここで、今江敏晃のショートゴロの間にシーズン初の失点を喫した(自責点は0)。尚も、2死一、三塁で吉田裕太をキャッチャーファウルフライに抑えて試合終了。バーネットの記録は、セ・リーグ記録の24試合連続を目前に途切れたが、当時NPB歴代4位、現在も6位である。
その後、バーネットは6月15日のロッテ戦(神宮)で、2-5と3点ビハインドの9回に登板すると、シーズン初の自責点を喫し、開幕から26試合連続自責点0という記録も途絶えた。
だが、バーネットはこの年、セーブ失敗は1度だけ、リーグトップタイの41セーブを挙げて、自身2度目の最優秀救援投手のタイトルを手にし、スワローズの14年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。

田島慎二(中日、2016年)31試合 *NPB記録

そして、岡島秀樹のつくったNPB記録を破り、現在も「開幕からの連続試合無失点記録」のNPB記録は、中日ドラゴンズの右腕、田島慎二が2016年につくった「31試合」である。

田島慎二は東海学園大学から、2011年ドラフト3位で中日に入団、プロ5年目のシーズンとなった2016年3月26日の阪神戦(京セラドーム)にシーズン初登板し、無失点に抑えると、そこから失点を許さず、5月20日の巨人戦(ナゴヤドーム)で1回を無失点に抑えると、開幕から26試合連続無失点をマーク、岡島秀樹(ソフトバンク)が2016年につくったNPB記録に並んだ。

翌日5月21日の巨人戦(ナゴヤドーム)では9回に登板し、1回無失点に抑え、開幕から27試合連続無失点のNPB記録を更新した。特に5月18日からは7試合連続でパーフェクトに抑え、6月5日の楽天戦(ナゴヤドーム)では9回を無失点に抑えて、シーズン初セーブを記録し、連続試合無失点記録を「31」に伸ばした。同時に、中日の投手の連続試合無失点記録としては、高橋聡が2005年につくった球団記録に並んだ。

6月7日のオリックス戦、田島は3-2で迎えた9回に登板。先頭の代打のブライアン・ボグセビックはファーストゴロを放ち、打ち取ったかに見えたが、それを処理しようとした一塁手のダヤン・ビシエドが足を滑らせて記録は失策。その後、1死一、三塁とピンチを招き、2番・西野真弘が放った打球がライト前にポトリと落ち、これが同点打となった。
この瞬間、田島の連続試合無失点記録は「31」でストップ(自責点にはならず)。この試合、先発は前年2015年ドラフト1位ルーキーの小笠原慎之介が5回を投げて、5安打2失点に抑えたが、小笠原のプロ初勝利も消えた。

「シーズン開幕からの連続試合無失点記録」が途絶えるジンクスとは?

ここまで「シーズン開幕からの無失点記録」の記録保持者と挑戦者の変遷を見てきたが、記録がストップしたときの特徴を見てみると、こんなジンクスがみられる。

①交流戦がある6月上旬に記録がストップ(山口、バーネット、田島)
②失策絡みの失点でストップ(岡島、バーネット、田島)
②セーブ機会でない場面で登板して失点してストップ(山口、バーネット)

平良海馬が所属する西武は、明日6月8日から本拠地・メットライフドームで、交流戦首位のDeNA、続いて6月11日から交流戦最終カードとなる中日との3連戦を迎える。平良が打撃好調なDeNA打線を封じることができるか、そして、記録が続いた場合、田島が所属する中日の打線が平良から点を奪って、田島の持つNPB記録を守ることができるか、注目される。

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