ニットボールと数学の話
一般的なニットボールの編み図は、円柱の両底面に円錐を貼り合わせたような形になっていて、編み図を立体化して真横から見ると六角形になります。(編地に弾力があるため詰め物をすると丸く見えますが)
私はこれまで、
「この六角形が正六角形に近いほどニットボールは球に近付く」
と単純に考えて、
円錐の母線の長さ = 円柱の高さ
になるように編めばOK、と思っていたのですが、
「果たしてこの比率は本当に最適解なのか?」
という疑問がわいてきました。
そこで、立体に外接する球と立体の隙間(体積)が最小になるように計算してみました。
半径1の球が、立体の両円錐の頂点と底面の円周で外接するとき、
円錐の高さを a とすると、立体の上半分の体積は
a・a(2-a)π/3 + (1-a)・a(2-a)π
微分して体積を極大にすると
a = (7-√13)/6
= 0.56…
この円錐の母線の長さは
√2a = 1.06…
円錐の底角は
arcsin(a/√2a) = 32.1…
これは、真横から見て正六角形になるような a = 0.5 の立体(外接球面と立体表面の距離の最大値が最小)に比べて円錐がやや尖り、円柱部分の割合が小さくなっています。
ただしニットボールの場合、編み目に増減のある円錐部分は少ないほうが編地がそろってきれいに見えるので、円錐を平べったく編んで円柱部分の割合が大きくなるようにするのも一つの方法です。
さて、円錐部分は細編みを各段6目ずつ増減する方法が一般的ですが、円を各段7目の増し目で編む場合、円錐の底角は
arccos(6/7) = 31.0…
これに対し、円を各段8目の増し目で編む場合、円錐の増減を6目ずつにすると底角が
arccos(6/8) = 41.4…
になり、円錐が尖りすぎてしまいます。
球を輪切りにした近似値で1段ごとに編み目を増減することもできなくはありませんが、この場合は目数を数えるのが苦行になりそうです。
ニットボールが小さくて編み目の数が少なければ、編み図が歪んでいても綿やスポンジの詰め方で結構ごまかせますが、編み目の数が多くなると編み図の形が仕上がりにそのまま反映されてしまうので、このあたりをさらに突き詰めた分析や考察がもっとあってもいいのになあ、と思いました。