おつかいする子供で泣けるお年頃
自宅から徒歩3分のところにあって、ほぼ毎日通う、私の愛するスーパーへ、祝日のお昼頃に買い物に出かけた。
このスーパーは時々珍しい果物が並んでいたり、風物詩を大切にしていることが感じられる野菜の品揃えなので、人の少ない時間にそんな青果売り場をゆっくりと覗くのが好きだ。
果物売り場を一周した時、スーパーの入り口付近にいる小学校3、4年かな?っといった年頃のお子さんが目に入った。肩からエコバッグを二つ下げて、買い物かごをカートに乗せていた。カートをゆっくり押し始め、辺りをキョロキョロ見回すその目は真剣そのもの。
こ、これは、紛う事なきおつかいをする子供ではないか…!
私は鼻の奥がツン、胸がギュッとなり、マスクの下の口角は自然に上がり、目には何やら液体が充満してコンタクトレンズが潤っていくのを感じた。これより先の一人称は私、ではなくおばちゃん、だ。説明しよう、おばちゃんとはおつかいをする子供を見ていとも簡単に目に水分を溢れさせることができる生き物なのだ!
子供をジロジロと見る大人は完全に不審者、という自覚だけは持ち合わせていたので、野菜7:子供3、くらいの割合でちょいちょいお子さんの様子を伺うことに。
葉物野菜を吟味するお子さんの左手には小さなメモ帳が広げられている。
これは、買い物リストだ…!またもや胸がギュッとなり、コンタクトレンズがどんどん液体に浸かっていくのを感じながらも、は!いかんいかん完全に不審者、と自分に言い聞かせて、私は精肉売り場へ足を進めた。
精肉売り場の先の鮮魚売り場で、先ほどのお子さんを再び見かけた。またもや品物を吟味している。すれ違う時に大きく開かれたメモ帳にちょっと目を落としてみると、「まぐろのおさしみ」の文字が見えた。
泣いてない、おばちゃん泣いてません、ちょっとコンタクトがずれただけ…鮮魚売り場を足早に後にした。
その後はお豆腐売り場の前でしばし立ち止まるお子さんの姿。わかる、豆腐色々種類ありすぎてどれ買っていいか悩むよね、おばちゃんがいつも買うのはね北海道産大豆の…
レジ、レジに行こう。
レジに並んでいるとお豆腐を選び終えたお子さんが隣のレジにやってきた。かごの中たっぷりの私に対して、お子さんのカゴの中には葉物野菜とお刺身とお豆腐とあと数品しか入っていないようだった。本当に丁寧に、しっかり一品一品選んだんだね。あれ、おつかいのご褒美のお菓子は買わなくていいのかな?
レジで支払いを済ませたお子さんが、持ってきた二つのエコバッグの中に慎重に品物を入れているのを見届けて、おばちゃんはお先にスーパーを出た。
(ここで脳内に、しょげないでよベイビー♪が流れ始める)
帰ったらおうちの人に褒められるだろうな、ひょっとしたらあの子自分で料理もしちゃうのかな、そんなことを想像しながら家に帰ると我が息子達がパジャマのまま「ママお昼ご飯まだーーー?」とスマホに目を落としたまま聞いてきた。
さっきまで潤っていたコンタクトレンズがあっという間に乾燥していたのは、帰り道の北風のせいかな。