見出し画像

井上ケイ氏と参武狼氏の対談動画をみて

最近、批判されているようだがやはりそれは人気が出てきた証拠ともいえるだろう。
自分がケイ氏を知ったのはクレイジージャーニーやバズーカからで、アメリカの刑務所で地位を築いたというキャリア自体滅多に有るものではなく、他に知っているのはマサ斎藤位(監獄固め)のものではないのか。

ケイ氏の話し上手もあってか身を乗り出すのようにして聞き入った。アメリカの刑務所の自由度は日本とは比べ物にならない位自由であることは映画や本などで触れられることが多いが、ケイ氏の口から語られる刑務所内の日常はこちらの想像を凌駕するものであった。
やはり氏のように他の囚人と24時間共に同じ屋根の下で長期間過ごした経験則から話のディテ―ルは真実性を帯びていた。
かつては興味本位でしかなかったアメリカの刑務所の実態もアメリカは多民族国家ゆえ、放任ともいえる自由を許容しないと囚人の暴動が多発するのでは、また民間刑務所の存在を知るに及び文化的見識を得ることが出来た。

そんなケイ氏がYOUTUBEチャンネルを始めるのだから見逃すわけがない。創設当初は田代まさしのチャンネルを引き継ぐという形で佐藤秀光氏との共演を経て、おそらく視聴者からの要望があったのだろうやがてケイ氏の一人語りになった。
まさにすべらない話の連続であり、いずれネタが尽きるのではというこちらの心配をよそに汲めども尽きぬ泉の如く毎回の放送時間が自分の一日のルーティーンになった。それは自分だけでは無かったようで回を重ねるごとに登録者数が鰻登りでまた競い合うように賛辞のコメントが溢れた。当初はコメントにケイ氏本人からの返信があったことも人気に拍車をかけた。

しかし、人気の裏にはアンチ付きまとうもので徐々にケイ氏の話の信憑性にも疑義が呈されてきた。記憶を無意識的に自分の都合良く改変することは誰も経験するし、インタビューワーに乗せられたりして話の構成上やむを得ず脚色するのはいた仕方ないことだろう。
自分も数字の少しの違いなどを取り上げて話の全体を否定するつもりなど毛頭ない。

ただ、動画と書籍やケイ氏のコメントの返信を照合するにしたがって、「おや」と思うところが出てきた。ちなみに自分が読んだ書籍はケイ氏の英語著作である。


以下に3点ほど列挙したい。最初に動画で語られた事を取り上げ→以降に英語著書で記述されていることを引用してその齟齬に触れていきたい。

①出所して空港に向かう際に刑務所で蓄財した小切手を換金したかった。しかしケイ氏の付き添いのマーシャル (連行する役人)に嵌められ願いかなわず刑務所で蓄財した300万がパーになった。そのマーシャルが財産に目が眩んだとも。

→本の記述によるとその額は2500ドル(25万円相当)になっている。そして刑務所時代の思い出の写真やホーミーの電話番号を記したノートが入ったバッグを取られたとか。
動画の中では刑務所のハッスル(内職)でミシンの技術の洋裁で月に2000ドル~3000ドル稼ぐことも可能だったと述べられているから、特段出所時に300万円の資産があったところで驚くべきことでもないだろう。だとしたら本の記述の2500ドルは間違いなのか。あるいはハッスルで紹介された額が本当ならおよそ10年に渡る長期服役を考えると300万でも少ないようにも思うのだが。

②組同士の抗争の末に、関東所払いになり石もて追われうように奥さんと伴に北海道に連れて行った舎弟と現地で催事所でパンの販売を始めるもその元締のヤクザと揉める。次に起こしたビジネスが北海道と東京をトラックで行き来する運送業であった。それが軌道に乗り出すも、舎弟が高級品のイクラを運送中に居眠りをしてしまう。トラック一杯のイクラは腐り3億円の賠償を求められ求められたが、その3億円は全て返済したという。
数年後その舎弟は関西の組織で本部長になっていたたため、関西で一時期活動していたケイ氏は以前の兄弟分との関係性からかつての舎弟と一緒に仕事をするのはやりづらいだろうとの周囲の計らいで博打所の仕事を組の幹部から与えられた。
またコメント欄の視聴者から3億の賠償のその後を問われ、ケイ氏本人からの返信では3億の賠償は舎弟の親族が用立ててくれ、現在その舎弟は運送会社の社長をやっているとされている。
→著書では関東所払いになって北海道に逃避行したのはケイ氏の元奥さんと舎弟の計3人。ヤクザの下請けでデパートの催事場でパンを売っていたのが大当たり。これに味を占めて仕入れ業者と交渉し独立するも、ある時以前の雇い主のヤクザと売り場でバッティングして落とし前として指を詰めるように要求されるも、舎弟を相手の北海道ヤクザの組に預けて難を逃れたとのことだ。

動画で話の山の部分である運送会社での3億の損害話が著書では触れられていない。ケイ氏が北海道に連れて行った舎弟は一人のはず。だとしたら催事専門のパン販売のトラブルで落とし前として相手側の組に舎弟を預けたのだから、次に舎弟と始めた運送会社の話との整合性が取れなくなる。またトラック一杯のイクラの弁済額3億とそれを立て替えた舎弟の親族という下りも余りに無理があるのではないであろうか。

赤坂の韓国クラブのママと男女の関係になるが、ママに恋心を抱いていた別の男の存在が明らかになる。その男はケイ氏の以前からの知り合いで仕事を一緒にやったことのある年上のヤクザだった。そこから一気に険悪な関係になりメンツを潰された相手方のヤクザはケイ氏の命を狙い周囲の裏切りもあり四面楚歌となったケイ氏は九州に逃げ地上げの仕事に就くことになる。
→著書で「UNKNOWNYAKUZA」、つまり知らないヤクザとなっている。そしてその人物はケイ氏が九州で地上げをしている時にも熊本の知人を通してケイ氏の商売を妨害してきた。九州でひと悶着をありながらも女性関係の問題は残ったままだった。しかし別の旧知のヤクザの仲裁で終息に向かう事になったが、その代償としてケイ氏は指を詰めなければならなかった。

ケイ氏はかつて指を詰めたのは裏切りにあったからだと述べていたように思うが、少なくとも著書の顛末を読む限りでは自分が思い描いていた「裏切られた」という形ではなかった。

オーラルヒストリーという学問分野もある位だ。人間には多少の記憶違いや脚色がオーディンスに語り掛ける際に入り込むのは致し方ないことだろう。
ましてケイ氏のいた世界では見栄や張ったりも処世として重要なスキルだったのではないのか。
アウトローの瓜田氏が格闘家である朝倉未来氏に、朝倉氏の豊橋での武勇伝に対して歌舞伎町の喧嘩は生易しいものだといっていた。理由として豊橋は労働者が多くすぐに手が出るが、歌舞伎町は口先だけの応酬で終わることが多いというのだ。だから瓜田氏曰くこう語る。おれのMMAのMはマウスだと。

そんな理解をしつつも、ここに来て最近のケイ氏のYOUTUBEのコラボ動画をみて驚いた。まさかこの人とやるとはと思った。ケイ氏自らに眉唾という持ち上がりつつある中でメリットがあるとは思えなかったからだ。


自分がその人物を知ったのは随分と昔になる。実話ナックルズ系のおどろおどろしい漫画に良く取り上げられていた。一読して半信半疑だったのだが、ブックオフで活字の自伝を立ち読みした感想は、この人は小説家として才能がある人ではないのかという事だ。
カメレオンというヤンキー漫画の矢沢、あるいはネット配信者の原唯我という人物に近いものあるかもしれない。
対談時にもケイ氏の話に比べると具体性に欠けている感が否めないのだ。
やはり、ケイ氏の話には脚色や誇張があるにせよアメリカの刑務所体験やチカーノとの交友録からうかがえるように体験に基づく臨場感がある。
一方の件の人物には活字だとある程度はレトリックや文章の構成でごまかしが効くところが現実のインタビューを通すと如何にも薄いように思えてしまうのだ。

サポートして頂ければ嬉しいです。コメントも頂ければ、それを反映したnote を書きます。