見出し画像

モモコ、風邪を疑われるの巻 【0円生活4日目】

"Thursday"
(退屈そうに。死んだ魚の目をして)

(おにぎり屋さんへ向かうモモコ。橋を渡り寒さに身を震わす)
冬の到来を確信する瞬間というのは、誰かがまずいことを言った瞬間に他の人と目が合うのと同じだと、その朝モモコは思った。また、たとえば違う言い方をすれば、映画の途中で気になっていたシーンになり、映画館の暗闇の中で隣の連れと一瞬目配せするようだとも、言えるのだった。要するに、
「あ、冬だ」
「これは冬やね」
「はん、冬か」
というように、この時期のある朝、周囲の者モノと無言の内に同意するのが、他の季節と比べて冬は、同時多発的に起こりやすいのだった。冬にしっかりと入っていけるよう(もしくは冬が滞りなく頭の上を通過していくよう、)スクラムを組まないまでも、手と手を取り合うくらいには団結して、同調していくためであった。

(おにぎり屋さんの二階に行くモモコ。すでにお弁当の箱を並べておかずを詰める他のスタッフたち。すぐに支度を済ませて作業に入るモモコ)
仕事場に入ってすぐに自分のすることが分かっているということが、モモコは好きであった。

(昼過ぎ、モモコを車に乗せ、おにぎり屋さんが運営する学食につれていく社長)
(昼休みに入り解放感と空腹を資源に賑わう学食の生徒たち。カウンターに長蛇の列をなし食券と食事の乗った盆を交換する生徒)

学食のこちら側に立つことになろうとは思っていなかったと、モモコは思った。カウンター越しに次から次へと差し出される食券、背後でぐらぐらと煮える湯、麺担当のIさんが、ラーメンやうどんを作っていた。左の方に目を向けると、そちらでも二人組になって定食やどんぶりを作っていた。モモコはこの食堂のなかにある、満たさなければならないカラッポの胃袋がいくつあるのかを考えた。
「ワタナベさん、お盆足りないんで持ってきてもらえます?」
考える暇はなかった。

(暗転)
(家に帰るモモコ。もらってきたおにぎりと即席お味噌汁を食べ、家の二階から廃材を取ってくる)
(モモコ、家の前の橋に廃材を並べる)

モモコは何の完成形も見えていなかったが、とにかく物々交換用の棚のような箱のようなものを作り始めた。すると、物珍しそうに黒目をきらきらさせて、公園にいた子どもたちが集まってきた。一緒に作っていたはずが、一時間もすると一人もいなくなっていた。一人で初めて、大人数になって、また一人になった。モモコは満足だった。

(夜中。ぬばたまのような暗闇の中モモコは目を覚ます)
「やば」
モモコはスマートフォンの画面を見て飛び起きた。銭湯に行く時間だった。モモコは走った。銭湯の掃除が始まったとき、モモコは寝起きのがらがら声、ガラガラヘビ、鼻水をずるずる垂らし、みたらし団子。銭湯のおばあちゃんに風邪を疑われ、風邪薬二包とのどあめをもらった。銭湯の湯より温かかった。と、ありきたりなことをモモコは思い、たいそう後悔し下唇を噛んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?