【研究のススメかた】ChatGPTと論文を共同執筆
1. 記事の狙いと想定読者層
研究を進めるうえでのTIPSをまとめていくシリーズです。大学や大学院での研究に関して、お読みいただいている皆さまになにかしら示唆をご提供できればという思いで書いています。
読者層としては「大学の学部または大学院で、卒業論文/修士論文研究に取り組む」方々を想定しています(すでに研究者として独り立ちしている同輩の皆さまや、そのタマゴとしてすでに修士論文研究等は経験済みの博士課程大学院生の方々にも、ご参考になるかもしれません)。
今回は、研究論文をAI、具体的にはChatGPTを使いながら執筆するプロセスについて書いてみようと思います。ただ、個人的にAIを「使いながら」という言いまわしには違和感があって、むしろ(この記事のタイトルの通り)あたかも自分とは別の、もうひとつの人格と「共同執筆」する感覚なんですよね。そのあたりをイメージしていただけるよう、まずは過去に僕がヒトの共著者(ヘンな表現ですが笑)と論文を書いた時の経験を振り返ったうえで、DXとリーダーシップに関する本をChatGPTと「共同執筆」したときのやりかたを、プロンプトのサンプルもご紹介しながら具体的に説明します。
ChatGPTと「共同執筆」した僕の「単著」。ぜひお手にとってご笑覧ください。
2. ヒトとの共同執筆経験の振り返り
まずは過去の経験を振り返って…と言ったものの、じつは僕が書いた共著論文ってそんなに多くはないんですよね。一応、師匠(指導教授)と書いたもの、同じ研究チームのメンバーと書いたもの、あるいは学会等を通して知り合った先生方と一緒に書いたものなど、主だった定跡にあてはまる論文はある(※1)んですが、たぶん同分野の研究者の方々と比べてもかなり割合は小さいほうだと思います。
※1 詳細なリストはGoogle Scholarの著者ページをご覧ください。
もっと経験豊富な方は違うご見解をお持ちかと思いますので、そこは割り引いてお読みいただければ幸いです。
共著で論文を書くときの流れとしては、「◯◯というテーマで一緒になにか書こうよ」と合意をとって、たいていはそれぞれが得意なパートを受け持って役割分担しつつ、声をかけた方が主導する形で論文の骨子をつくり、回覧しながら修正を繰り返して仕上げていく、というのが自分の経験では多かったように思います。
ここでの醍醐味は、やはり共著者からのインプット。取り組んでいるテーマに関して、自分が知らない理論的観点から「こういう論じかたも面白いかも?」とか「△△理論の枠組みで考えたら、こんな解釈ができる」など、一人で執筆していたら絶対できなかったような掘り下げ方や視点の切り替えが示されると、その論文の質が高まるのみならず、自分の視野も広がり、共同執筆ならではの価値を深く感じます。
3. ChatGPTとの共同執筆①:論文の構成を練る
上記をふまえて、ここからは前述の著書をどうやってChatGPTと「共同執筆」していったかを述べていきます。
前段で述べた通り、共著の醍醐味は共著者からのインプット、知的刺激。自分だけで論文を書いていると「他の視点がほしいな」と思っても、なかなか思考の枠をはずしたり離れたりすることは難しかったりしますが、共著者からコメントや質問をもらうことでそれがカバーできます。
ということで編み出した(というと大袈裟ですが…)のが、下図のプロセス。
まず、そのとき掘り下げたいと思ったテーマやトピック、あるいはもっと具体的な問いについて主な論点を挙げて、とChatGPTに投げます。このとき、「☆☆理論の観点から」など、観点を絞り込むことも。そして、そこで出された論点のうち、さらに掘り下げたら面白そうだと思ったものについて追加のプロンプトで関連する先行研究を探させたり(※2)、さらに論点を出させたりして論考を深めていきます。
※2 ただし、ChatGPTに限らず、2023年時点の生成AIは全文公開されている論文を優先的に読みたがる傾向があるようで、ちょっと油断するとハゲタカジャーナルの掲載論文を持ってきたりします。なので、僕は一つの工夫として「(大手学術出版社である)Springer Nature、Sage、Taylor & Francis。Routledgeから出版されているジャーナルの掲載論文を優先して」とプロンプトで指定しています。
こうしてある程度当該のテーマについての情報が手元に集まったら、短くて2~3段落、長くても3~4ページくらいの文章に、ここは自分の手でまとめます。まとめた文章はPDFに変換。
次に、「この文章に対して、■■理論の観点から最も厳しい批判を三点挙げてください」といったプロンプトとともに、このPDFをChatGPTに読み込ませます。すると結構鋭い、なるほどと唸らされるようなポイントを突いてきてくれるので、それをもとに論考を練り直す。
たいていはここで追加で検討したい事項が浮かび上がってくるので、そしたらまた第一ステップに戻って論点出しや参考文献探しを行い、それらの情報を再び文章にまとめてPDF化したら読み込ませ、批判出しをさせて…というプロセスを繰り返します。テーマにもよると思うけど、僕が本を書いていたときはだいたい2~3回繰り返すと出発点にしたテーマについては一旦これでいいかなと思えるところまで収束しました。
4. ChatGPTとの共同執筆②:文章を推敲する
上記のプロセスはどちらかというと大きな方向性や論考の構成、骨組みをつくっていくときのものですが、それが進んで論旨全体の流れはできた、という段階になったら、もっと細かいレベルで、改めて一文ずつ文章というか言い回し、表現を下図の流れに添って推敲していきます。
より具体的には、遂行したいテキストをピックアップしたら、下記のプロンプトとともにChatGPTにインプット。
ポイントは、プロンプトの二段落め。ここで「かっちりしたアカデミックな文体」「ちょっと遊んだ感じ」「実践的な事例をまじえたパターン」という三つの異なる修正案を出してほしい、と指定しています。
そうすると、内容は同じなんだけど毛色の異なる文章がアウトプットされてくるので、それぞれを読んでみて「あ、この表現いいな」と思ったところを取り込みながら元の文章を修正。このとき、どんな表現は取り入れてどれは取り入れないのか、元の文章とどれくらいの塩梅でリミックスするのかといった判断で書き手の個性が出てくるんだと思います。
このプロセスも、だいたい2~3回もまわせばイイ感じに仕上がった(少なくとも、僕が書いた元のテキストに比べるとはるかに洗練された)文章になります。今回僕が書いたのは英文ですが、基本的な流れは日本語で文章を書く場合でも、あるいはChatGPTじゃなくてBardやClaudeなど他の生成AIを使っても、同じように進められるはず。
5. まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。今回は、論文をChatGPTと「共同執筆」する流れについてまとめてみました。
2023年12月現在、巷には「AI脅威論」みたいな論調の記事が根強く見受けられます。でも僕はそれはもったいないと思っていて、もっと前向きに、積極的にAIと「協働」することで、より多くの人がクオリティの高い仕事ができるようになると考えています。
僕がAIとの「協働」に対してほぼ(まったく?)抵抗感がないのは、将棋界という先行事例があるから。2017年にAIソフト「Ponanza」が佐藤天彦名人を破った歴史的対局を皮切りに、今では将棋のプロ棋士がAIを使って研究を深めることは当たり前になりました。その結果、将棋界全体のレベルが上がり、これまで誰も考えつかなかったような新手・新手筋がいくつも生み出されています。
将棋同様に研究も、少なくとも論文執筆に関しては、AIの力を借りることでより多くの人が、これまでよりももっと高いレベルのアウトプットを出せるようになっていくはず。そうすれば学術界全体のレベルも上がり、ひいては人類全体の知の向上につながっていく。そのためのささやかなインプットとして、本記事がここまでお目通しくださった皆さまのお役に立つようであれば幸いです。
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